39.エピローグ
三大国の一角、ゴドラ帝国──。
帝都カインを見下ろすようにそびえ立つ巨峰の頂に建てられた竜帝の宮。そこには、ワイン片手に帝都を見下ろす、竜の角と尾を持った人影があった。それは、人型という仮初の姿を取った神獣──竜帝カルトロスだった。
「不死鳥のザレクが死んだか……」
同胞であり敵対者でもあったザレクの死を感じ取ったカルトロス。彼は優雅にワイングラスを傾け、控えていた兵士に指示を出す。
「イモルター王国に斥候を送れ。状況次第では、王国は我が帝国が支配する」
「はっ!」
走り去る兵士を横目に、カルトロスは己の腰に刺した剣を引き抜く。
スパッ……!
ミスリル製の鎧の置物を一瞬のうちに斬り刻んだカルトロスは、戦闘時のサクラと同種の笑みを浮かべた。
「如何なる者が不死鳥のザレクを屠ったか……久方ぶりの強敵に、竜の血が騒ぐというものよ」
***
三大国の一角、アズン魔導国──。
首都ポルス近郊にある死霊の館には、桁違いの魔力量を誇るエルダーゴースト──神獣である霊王アヴァレスが鎮座していた。
「ザレクの奴め、ようやく死におったか」
アヴァレスはザレクの死を感じ取ると、魔術師のローブをはためかせ立ち上がる。そしてゴーストであるにもかかわらず存在する足で歩き、壁に飾られていた最上級魔導石で作られた長杖を手に取る。
「ザレクが死した今こそ、王国を我が手中に納めるには絶好の機会よな……王国には、魔術発展のための礎になってもらおう」
***
国王と謁見してから一日、ワタシは王城の訓練場に足を運んでいた。
「ザレクが死に三大国の均衡が崩れた今、他の二大国は遠からず我らがイモルター王国を攻めてくるだろう。そうなれば、必然的に神獣とも戦うことになる」
騎士団長にそう言われて、それならばとワタシは王国騎士団に入った。
「そこまで! ほらそこ休むな! すぐに次の相手と向かい合え」
「は……はいぃっ!」
ワタシが所属することになった第二隊は基本自由。王命が下った時に活躍できるなら、訓練に顔を出す必要すらない。だがそれはそれで暇なので、ワタシはこうして模擬戦闘訓練を見学していた。
「模擬戦、始め!」
大剣を携えた女性騎士が模擬戦開始の合図をした。その時、廊下と訓練場をつなぐステップに腰掛けていたワタシに、人影が落ちる。
「あっ、ウィリアムさん」
「サクラ。騎士団の訓練はどうだ?」
「思っていたより実戦形式の訓練が多いんですね。永遠に素振りしてるのかと思ってました」
「それだと実戦ではまったく戦えないだろう」
エレナと再会し、また少し明るくなったウィリアムは優しく微笑む。彼はワタシの隣に腰掛けると、真剣な顔になった。
「サクラ。キミがいたから俺は、エレナを取り戻すことができた。俺の心が弱る度、サクラが俺を支えてくれたからこの日常を取り戻せた。ありがとう」
真剣な表情を浮かべ、頭を下げたウィリアム。ワタシは彼のお礼に対して、事もなげに返事をする。
「いいですよ。ワタシがやりたくてやったことですから。……それにワタシも、たくさん戦えて楽しかったですからっ!」
「ハハハッ……キミらしい答えだな」
彼が顔を上げるとそこには、澄み渡った青空のような満面の笑みが浮かんでいた。
***
「おかえりなさいませサクラ様」
「湯浴みの準備が整っております。如何なさいますか?」
「えっと……ならお風呂入ろうかな」
これ、子供扱いされてるみたいでちょっと恥ずかしいんだよね……。
訓練を終え、ウィリアムの家──セインベル公爵邸に帰ると、メイド姿の侍女たちが出迎えてくれる。
ワタシはエレナとウィリアムを助けたお礼の一つとして、このセインベル公爵邸に住むことになった。この屋敷は料理は美味しく部屋も広く綺麗で、大浴場まである。
「お背中お流しさせていただきます」
「大丈夫ですから自分でやりますから!」
ワタシは侍女たちを脱衣所で振り切り身体を洗い、銭湯よりもなお大きい湯船に浸かる。
気持ちいい……。
湯の温度は快適で、石鹸のいい匂いが漂う。身体が溶けそうになる心地いい感覚を味わっていると、大浴場の反対側に人影があることに気付いた。
「こんばんわ、サクラさん。奇遇ですわね」
「エレナさん!? いたんなら最初から声をかけてくださいよ!」
ワタシはとろっとろにとろけた表情を慌てて取り繕う。
「ふふっ……我が家の湯を気に入ってくれたようで何よりです」
ワタシの横に並んだエレナは、年上の余裕を存分に発揮しワタシをからかった。まとめた青髪が一部ほつれて首筋にかかるエレナは、女性であるワタシから見ても色気があり、ドキドキしてしまう。
「サクラさん。サクラさんはお兄様のことをどう思っていらっしゃるのですか?」
「どうって……特になんとも思っていませんけど」
「そうですか。ふふっ……お兄様も大変ね」
最後の方は聞こえなかったが、エレナの髪を耳に掛ける仕草に見とれてそれどころではなかった。ワタシはブンブンと首を振り、邪念を振り払うように話題を変える。
「あっ……あのエレナさん。エレナさんの方が年上だし身分も高いんですから、ワタシ相手に敬語を使わなくても……」
「いいの? だったらサクラさ──サクラちゃんもわたくしと話すときは敬語を使わなくていいわよ」
***
「すでにロクとライラには伝えているが、今日の議会の結果、国内に残る魔物の殲滅が決定した」
過剰に大きいテーブルが置かれたセインベル公爵邸の食堂。エレナとウィリアム、そしてワタシの三人で夕食を摂っている時、ウィリアムがそう言った。
他国の軍や神獣たちが攻めてくるまでにはまだしばらくの猶予がある。その前に、国内に残る魔物を滅ぼし、これ以上民から生贄という名の犠牲を出さないためとのことだ。
「この件に当たって俺たち第二隊は、イモルター王国北西部の魔物討伐の任を賜った。出発は三日後になるが、サクラは大丈夫そうか?」
「はいっ! 魔物と戦えるんですよね? だったらワタシはもちろん行きますよ」
「そうだな。サクラならそう言うと思っていた」
「ところでライラさんとロクさんは今どうしているんですか? 昨日から一回も見かけないんですけど」
「ライラは王城で魔術の研究。ロクは、その……」
ああ、風俗か……。
「……とにかく、二人も出発までには顔を見せるはずだ」
「お兄様、サクラちゃん。無事に帰ってきてくださいね」
「ああ」
エレナの心配に、ウィリアムは微笑みを向けて応える。ワタシも、名前がわからないがとにかく美味しい肉料理を呑み込んでから、頷いた。
「もちろんですっ! ワタシは他の神獣と戦うまで死ぬつもりはありませんから!」
これから訪れる激戦に想いを馳せ、ワタシは妖しく微笑んだ。
この物語はここで完結になります。
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