38.謁見
「ウィリアム・ウィル・セインベル様御一行が到着されました」
ザレクとの死闘から一日。ワタシたちは王城の中でもひと際大きく、豪奢な装飾のなされた両開きの扉──謁見の間の前に立っていた。
「通せ」
中から風格のある老齢の低い声が返ってくると、二人の騎士によって扉が開かれる。ウィリアムを先頭に扉をくぐるとその先では、王冠を被り立派な白い髭を生やした、国王らしき老人が玉座に腰掛けていた。
堂々と歩くウィリアムの後ろをワタシは歩く。横ではライラが杖をついて歩き、後ろではロクが、上裸はまずいと言って着せられた似合わないタキシードを不本意そうに弄っていた。
「陛下。この度は謁見の機会を賜り、誠に光栄に存じます」
ウィリアムが片膝をつき、国王に対して頭を下げる。ワタシとロクもウィリアムに倣い、頭を下げた。だが、ライラだけは頭を下げなかった。
「貴様、図が高いぞ! 陛下に対して何たる無礼か」
ワタシたちの左右に整列する有力貴族の一人が、ライラを指さし声を荒げる。
「ライラさん? ここは頭を下げないと面倒な流れに……」
ワタシの忠告を無視して、ライラは指をさしてきた貴族を一瞥し、国王に向き直る。
「アタシが頭を下げるのは、その価値がある人間にだけだよ」
「貴様ッ! 我らが国王陛下を侮辱するか!」
「不死鳥のザレクを倒したからと調子に乗りおって……これだから平民は……」
周りの有力貴族たちは口々にライラを罵倒する。そんな中、国王は眉間を押さえて目を閉じた。
「静まれ皆の者。その者の言うことは正しい……余は魔物どもに民を食わせ、ザレクに言われるがままの統治をしていただけの傀儡の王よ。決して敬われるような王ではない」
「陛下……」
国王の発言は、己にも思い当たる節がある貴族たちを蝕み、静まらせた。
「ザレクを討伐せし勇士たちよ。どうか面を上げてくれ」
そう言うと国王は玉座から降り、ウィリアムに頭を下げた。
「ウィリアムよ、余は其方にも謝らねばならんな……其方への裏切りを黙認し、其方の妹を見殺しにしたこと、すまなかった。我がオーギュスト・フォン・リー・イモルターの名の下に謝罪する」
「頭をお上げください陛下! 俺を裏切り妹を殺そうとしたのはザレクと第二隊の奴らです。陛下が謝罪する必要などありません」
ウィリアムが頭を上げるよう提言すると、国王はより深く頭を下げた。
「本当にすまなかった! 余は責任を取って退位する。そして次期国王にはウィリアム、其方を推薦しよう」
「陛下、俺はそんなことを望んではおりません。ですからお気を確かに」
とんでもないことを言い出した国王に、冷静だったウィリアムが焦りだす。それは周囲にいた貴族たちも同じだった。
「陛下!?」
「お考え直しください陛下。今この国にはあなた様のお力が必要なのです」
「皆、陛下が御乱心だ! 誰か陛下のお心を癒すものを持ってきてくれ!」
……なんか、悪い人たちじゃなさそう。
慌てふためく貴族たちと、一心不乱に頭を下げ続けている国王。その光景を見て、ワタシの中での国王や貴族への印象が決まった。
「皆様! どうか落ち着いていただきたい。陛下もいい加減に頭をお上げください!」
場を鎮めたのは、玉座の後ろに控えていた白銀の鎧の男。彼のよく通る声に貴族たちは落ち着きを取り戻し、国王も顔を上げた。
そうして場は収まり、国王が再び玉座に腰掛ける。
「ンンッ……本題に戻ろう。今回其方らを呼んだのは他でもない。其方らにザレク討伐の褒美を与えるためなのだ」
国王は後ろに控えている鎧の男──王国騎士団団長らしい──に視線で合図した。すると騎士団長は懐からスクロールを取り出し、読み上げる。
「ザレク討伐の褒賞として、貴殿らには一人金貨五千枚を与える──」
金貨五千枚──日本円にして三億円だ。それを聞いた途端、あまりの高額にロクは目を白黒させた。
「──そしてウィリアム。貴殿を王国騎士団第二隊長に任命する」
「それは……」
騎士団長が読み上げる褒賞に難色を示すウィリアム。それも当然だろう。彼はかつて信頼していた第二隊に裏切られたのだから。そこで、国王が補足する。
「ウィリアム、これはあくまで褒賞であり提案。嫌なら断ってくれて構わない」
国王の言葉に、ウィリアムは俯く。その様子を見て、騎士団長が口を開いた。
「ウィリアム。おまえが王国騎士団に戻りたくない気持ちは理解できる。だが以前の第二隊はすでに全滅したのだ。そしてその後の議論の結果、第二隊は少数精鋭の特別部隊とすることが決定している」
騎士団長が視線で合図すると、国王が言葉を引き継ぐ。
「ウィリアムよ。もし其方が第二隊長の任を引き受けてくれるのならば、隊員の選別は其方に一任しよう。其方自身が信頼する者のみで隊を構成するがよい」
「本当にそれでいいのですか?」
至れり尽くせりの対応に、ウィリアムは思わず顔を上げた。
「無論、王に二言はない」
ウィリアムが疎み恨んでいたのは王国騎士団全体ではなく、あくまで旧第二隊のみ。それに国王への忠誠もまだ捨ててはいなかったウィリアムにとって、この提案を断る理由はなかった。
「陛下。このウィリアム・ウィル・セインベル、王国騎士団第二隊長の任、ありがたく頂戴いたします」
騎士の名に恥じない美しい仕草で誓いを立てたウィリアム。その姿に、周囲にいた貴族、ひいては騎士団長までもが安堵する。
「ウィリアム殿が戻ってくださった」
「若き天才の帰還だ」
「これで王国騎士団は安泰だ」
謁見の間で巻き起こる喝采を、国王は温かい目で見守る。しばらくすると拍手の音が鳴り止む。そのタイミングでウィリアムはワタシたちに向き直った。
「ライラ、ロク、そしてサクラ。俺の隊に入ってはくれないだろうか?」
「いいぜウィリアム。オレ様は乗った!」
(騎士様は女にモテるからな。これで遊び放題だぜ!)
間髪置かずに返事をしたロクの表情からは、下心が駄々洩れだった。
「アタシはお断りだよ──と、言いたいところだけどねぇ……果ての牢獄にぶち込まれた時に魔術の研究設備を全部取り上げられて困っているんだよ」
ライラはそう言うと、国王に向かって妖しく笑う。
「この城の魔術研究設備と資料、全部自由に使わせてくれるってんなら考えてもいいよ」
「よかろう。余が許可する」
「ふんッ……決断が速い奴は嫌いじゃないよ」
表情を変えずに頷く国王にライラは鼻を鳴らす。
「ロクもライラも助かる……それで、サクラはどうする? 考える時間が欲しいのなら、決断は急がなくていいが」
「ワタシは……」
王国騎士団に入ると、容易には他の国に行けなくなるだろう。そうなれば、残りの神獣たちと戦うことが叶わなくなる。
それはやっぱり嫌だな……だってワタシの生きがいは戦闘だけなんだから!
「……ワタシは他の国にいるっていう残り二体の神獣とも戦ってみたいんですっ! だから、ワタシは王国騎士団には入りません。せっかく誘ってくれたのにすみません……でもワタシが一番やりたいことは戦闘だから、だからそれだけは譲れないんですっ!」
「そう、か……残念だが、サクラが決めたことなら仕方がないな……」
ウィリアムに頭を下げて断ると、ウィリアムはひどく残念そうな声を絞り出した。ワタシは、ワタシたちの間に流れる気まずい空気をどうしていいかわからなくなる。そんな時、助け船は唐突に、騎士団長の口から出された。
「サクラと言ったか? 貴殿の望みが神獣との戦闘であるならば、我が王国騎士団に所属していた方が、その望みが叶う日は近いかもしれないぞ」
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