37.不死鳥のザレク戦⑤──決着
「決めるよ若造ども! ザレクの動きを止めな!」
ライラが展開する六色の魔法陣。その輝きが最大に達し、発動準備が整う。ライラの言葉に真っ先に反応したロクは、唖然としているザレクに飛び掛かった。
「うおらぁっ!」
「グオォォッ!?」
ロクはザレクの頭に拳を打ち下ろし、ザレクの頭部を地面に沈める。翼を手のように使い、地面から身体を引きはがそうとするザレク。
「ウィリアムさんは右っ!」
そう叫ぶとワタシは身体を前傾させ、右足だけで地面を踏み砕く。ウィリアムもワタシの意図に気付き、ザレクに接近。ワタシたちは同時に剣を振り下ろした。
「グオァァアアアァアァァァアアァッッ!」
ひと際長いザレクの悲鳴とともに、ザレクの三対の翼はすべて斬り落とされる。支えを失ったザレクは、もう一度地面に頭部を打ち付けた。その瞬間、ライラが杖を地面から引き抜き、その先端をザレクに向けた。
「アタシが魔術に捧げた七十年、その成果を味わいな!」
杖の先端に魔法陣が凝縮され、七色に揺らめく小さな光の粒へと変化する。大気が揺らぎ、空間が歪むほどの魔力密度を持った光の粒は、焦らすようにゆっくりとザレクの眼前へと迫る。
「何故だ……ワレは不死身の神なのだ! どれだけ強かろうと、たかが人間ごときに負けるなぞありえぬ……ありえぬ……」
絶望に目を見開き、うわ言を呟くザレク。そのくちばしの先端に光の粒が振れた、その瞬間。音もなく切り取られた球状の空間がザレクの全身を呑み込み、捻じれ消失した。
ブラックホールのごとくすべてを呑み込み、ザレクを存在ごと消し去った光の粒。それが縮み、やがて跡形もなく消え去ると、思い出したかのように空気がぽっかりと開いた空間へとなだれ込む。
風に髪を揺られながら、ワタシは決着の証である無機質な声を聞いた。
「スキル『狂戦士化』のレベルが十五になりました」
「スキル『見切り』のレベルが十五になりました」
「スキル『剣術』のレベルが十五になりました」
「スキル『蹴術』のレベルが十三になりました」
「スキル『空中歩行』のレベルが十二になりました」
ドサッ……。
ワタシは身体を地面に投げ出し、仰向けに寝転がる。同時に、背中からザレクの烙印が溶け落ち、光となって消えていく。
沈みかけの月と明るくなり始める空を見上げて、ワタシは感傷に浸った。
もう終わっちゃったのか……楽しかったなぁ……。
挑戦の連続。常に自分の限界以上を求められ続けた戦闘を振り返り、ワタシは満足感に表情を緩める。冷めやらぬ高揚感に駆られて、ワタシは剣を杖替わりに片足で立ち上がった。
「エレナ!」
ライラの傍らで横になっていたエレナの元へ駆け寄ったウィリアムが上げたのは、喜びではなく悲痛な声。彼の腕の中で、エレナの身体は光に包まれ次第に透けていく。
「こりゃあ、ザレクが死んで蘇生の力が抜けていってるせいだろうねぇ」
「……っ! ライラ、どうにかしてくれ! どんな手段でもいい。エレナを、助けてくれ……」
片膝をつき、ライラに懇願するウィリアム。彼を横目に、ライラはエレナの様子を観察する。
「やっぱりそうかい……」
ライラが何かに気付く。ロクに背負われ、三人と合流したワタシはライラに問う。
「ライラさん。エレナさんを助けられそうですか?」
ワタシの問いを聞き、ウィリアムはライラに乞うような視線を送る。するとライラは、事もなげに頷いた。
「ああ助けられるよ。この娘の中には魂が残ってる。蘇生魔術の発動条件が死後三分以内だって話は前にもしたね? 正確に言うと、死後三分で魂がこの世を去るから蘇生できないって話なのさ。だから、魂が残ってるこのエレナって娘は蘇生できるよ」
「本当か!? 頼むライラ、エレナを蘇生してやってくれ!」
「言われなくてもやってやるさ。ただし、この貸しは後で返してもらうよ。覚悟しときな」
そう言うとライラは、杖の先で軽くエレナの額を叩く。すると、緑色の優しい光が波紋のように広がり、エレナの身体に浸透していった。
同時に、透けていたエレナの身体は実体を取り戻し、身体中にあった火傷や切り傷も消えていく。そして背中に生やされていた翼も消えてなくなった。
「んんっ……?」
十秒と経たずに、エレナの口から声が漏れる。ウィリアムは歓喜に震え、声も出せなくなっていた。サラサラとした美しい青髪を腰まで伸ばした眠り姫は、ゆっくりとその翡翠色の瞳を開く。
「……お兄……様? わたくし、どうしてこんなところに……」
ウィリアムの腕の中、エレナは貴族令嬢らしい整った顔立ちで周囲を見回し困惑する。そんなエレナを、ウィリアムは強く抱きしめた。
「エレナ! もう一度おまえに会えてよかった……」
金色の瞳を潤ませるウィリアムと、周囲の激しい戦闘の跡を見て、エレナは自分の身に何が起きたのかおおよそ察しがついたようだ。彼女はウィリアムの背中に手を回し、兄の温もりを享受した。
「お兄様。わたくし、ずっと悪い夢を見ていたようですわ」
エレナはそう言うと上品で愛おしい微笑みを浮かべて、ウィリアムの頬に触れた。
「お兄様が、わたくしを悪夢から目覚めさせてくださったのですね?」
「ああ……だが俺一人では無理だった。仲間の力を借りてようやく、エレナを助けることができたんだ」
「そうだったのですね」
ワタシたちの姿を見つけると、エレナはウィリアムの腕の中から立ち上がる。
「皆様。この度は兄とわたくしを助けていただいたこと、心より感謝いたします。エレナ・ウィル・セインベルの名において、正式な謝礼は後日改めてお渡しすることを約束いたしますわ」
白いワンピースの裾を摘まみ、ワタシたちに向かってお辞儀するエレナ。その所作は洗練されていて、思わず見とれてしまうほどだった。
「おいおい……セインベルっつったら公爵家じゃねぇか!? ウィリアムおまえ、公爵家の人間だったのかよ!」
「ああ」
「そういうことは早く言えよ。驚かせやがって」
「すまない。言う必要はないと思っていた」
そう言って頭を下げるウィリアムに、ワタシはロクの背中から声をかけた。
「ウィリアムさん。そこは謝る必要ないですよ」
「そうなのか?」
ウィリアムの反応に各々微笑む中、激闘の爪痕を残す瓦礫の山に朝日が差した。
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