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魔物が神聖視される世界に転生したら、ワタシは【戦闘狂】に目覚めました〜生贄から始まる狂戦士無双〜  作者: 早野冬哉


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36.不死鳥のザレク戦④

 己が見下す人間に必殺の技を幾度も防がれ、さらには追い詰められた。その屈辱にプライドをズタズタにされたザレクは、切り札を使うことへの躊躇いすら投げ捨てた。


 冷気を纏う水色の半身が再び変色し、炎を纏う。相容れない二属性を併せ持った反動で、ザレクの身体からは炎と氷が渦を巻き、放出された。


「熱っ……」


 ザレクから巻き起こった炎にさらされて頬が焼ける。今のザレク相手では、ライラが施してくれた水の膜は何の意味もなさなかった。


「不死鳥のザレク……腐っても神獣ってことかい。まだ切り札を残していたようだねぇ」


 ライラが魔術を編む手を止めず苦笑いをする。ワタシは、ライラにもエレナにも炎は届かせまいと剣を振るい、炎を斬り裂いた。


 また強くなってくれるっ! まだまだ戦い続けられるっ!


 ザレクのしぶとさと底知れない実力に、ワタシは笑わずにはいられなかった。


「やはり変身の余波には耐えるか……それでこそなぶり甲斐があるというもの。ワレに挑み、ワレに屈辱を味合わせたその愚行、後悔してももう遅いぞ!」


 炎と冷気が止み、姿を見せたザレクの背には、使い物にならなくなった翼の代わりに、炎と氷の翼が形成されていた。


 シュンッ!


 眼前に迫る炎の鳥。それは先ほどまでとは比べ物にならない速さで接近してくる。


 死ぬっ……いや、でも見えるっ!


 死を目前にして、ワタシの中の時間は引き延ばされた。音よりも遥かに速い炎の鳥が、亀のように遅く感じられた。そのおかげで、ワタシの剣は炎の鳥を捉えることができた。


 ドオォォォン!


 斬った炎の鳥が爆ぜ、爆炎で視界が覆われる。直後、爆炎の中から十匹近い炎の鳥が襲ってきた。


 これワタシ、全部斬れるかな……。


 炎の鳥がワタシを殺すまでの間に、ワタシが剣を振れるのはおそらく五回まで。どうにか一振りで二匹を斬り落とすしかない。


 ん? 違うよそうじゃない。こうすればいいんだっ!


 ワタシは嗤い、剣を逆手に握り変えた。


「サクラおめぇ何する気だい!?」


 ズシャッ……。


 ワタシは、剣で自らの腹を突き刺した。『狂戦士化』スキルの効果──ダメージ量に応じてステータスがアップする特性を利用し、己のステータスを引き上げるために。


「ここまで変わるんだ……」


 臨死体験を味わうまでもなく、時間がひどくゆっくり進む。凝縮された時間の中で、ワタシを見ていたライラの目が見開かれた。その動作すら、今のワタシには五秒近くかかっているように見えた。


 炎の鳥はより遅く、ワタシの剣はより速く動く。ワタシが振るった剣は十連撃を成し、炎の鳥をすべて両断。さらに剣をもう一振りして、ワタシは爆炎を斬り裂き、視界を確保した。


「アッハハッ! ワタシこれも防げるんだ……ここまでできるんだ! ……もっと、もっと挑戦し甲斐のある技を見せてよっ!」


 口からポタポタと血を流し、腹からはどんどん血が抜けていく。ワタシは、炎の鳥を斬って熱くなった剣で、腹の傷を焼いた。この時、ワタシは腹を焼く痛みも忘れて笑っていた。


「自らの腹を笑いながら貫くなど……貴様は、狂っている」


 ワタシを見て唖然とするザレク。その前でワタシが剣を構え直すと、ザレクの瞳は怒りに染まり、ザレクは吠えた。


「初撃を防いだ程度で調子に乗るなぁぁっ!」


 怒り妬み憎しみ全開でザレクが叫ぶ。それに呼応するように現れたのは、半円状に並びワタシを狙う炎の鳥と氷柱。


「いいよいいよそう来なくっちゃ!」


「このワレ相手に舐めた態度を取ったこと、後悔して死ね!」


 ザレクが、その雄々しい三対の翼を振るう。同時に、待機していた炎の鳥と氷柱が一斉にワタシに向かって射出された。


 トンッ……。


「気付くか……小賢しいッ!」


 ワタシは一歩下がった。それだけで、上と左右から迫る攻撃は意味を失う。相手するのは、正面からの攻撃だけでよくなる。


 さっきより多いけど、今のワタシなら全部斬れ──。


「ガフッ……」


 剣を握る手に力をこめた時、ワタシは血を吐いた。普段なら隙とは言えない小さな隙。それが今は、致命的な隙となる。


 剣、間に合わない……。


 僅かに剣が下がる。コンマ数秒身体の自由が利かなくなる。引き延ばされた時間の中、ワタシは迫りくる炎の鳥と氷柱を凝視することしかできなかった。


「オレ様の子分は……死なせねえぇぇ!」


 ロクが気合を入れて投げたのはこの部屋の扉。見上げるほどの高さがあるそれは、ワタシの鼻先を掠めて地面に突き刺さり、鋼鉄の盾となる。


「ぐぬぅっ……また邪魔を──」


 ロクを振り向き、炎の鳥と氷柱を生成したザレク。その頭上で、聖剣の光が煌めく。対するザレクも瞬時にウィリアムの気配に気付く。だが、ザレクが照準をロクからウィリアムへと切り替えた時にはもう手遅れだった。


「ウィリ──」


 スパアァァァンッ!


「グオァァアアアァアァッ!」


 ウィリアムが落下と同時に振り下ろした聖剣はザレクの頭を両断する──はずだった。だがザレクは維持で翼を間に合わせ頭部を守った。


「そうだザレク。貴様はしぶとくあれ……できる限り長く苦しんでから死ね!」


 ウィリアムに斬られたザレクの翼は凍り、使い物にならなくなる。凍った翼を直すために、ザレクは自らの炎で翼を焼いた。


「ぐぬうぅぅっ……」


 肉が焼け唸るザレク。その翼の氷が完全に溶ける前に、ライラが展開していた魔法陣が輝きを増した。


「おめぇらあと二十秒だ! 耐えな!」


 ライラの大声を聞き、ロクとウィリアムが同時に地面を蹴った。ワタシは、最後まで後衛を守る前衛としてライラとザレクの間に立ちはだかる。


 勝利を目前にしてなお、ワタシたちに油断も慢心もなかった。だがそれでも、不覚を取った。


 ピシピシピシピシピシッ……!


「おいなんだこれ!?」


「くっ……足止めか」


 地面が凍り、ロクとウィリアム、ワタシの足が地面に固定された。同時に、ザレクはライラに向かって炎の鳥を打ち出す。速度を落とす代わりに追尾機能を与えられた炎の鳥は、ワタシを避けるようにライラに回り込んだ。


「チッ……」


 ライラは攻撃を防ぐため、魔法陣を捨てる覚悟を決めた。ザレクすら警戒する必殺の魔術。それを捨てざるを得ないと、この劣勢の中では誰もがそう判断した──ワタシを除いて。


 左足、動かないな……。


 ワタシが凍らされた足は左だけ。右足は動く。ワタシは凍った左足を見て、妖しく微笑んだ。


 でもこれ、左足さえなければ動けるってことだよねっ?


 そう考えた次の瞬間にはすでに、ワタシは左足を斬り落としていた。そして足を斬り落としたことにより『狂戦士化』スキルの恩恵が強くなる。


 一拍遅れて、左足の切断面からは思い出したように勢いよく血が噴き出す。その時にはすでに、ライラの目の前に立っていた。


「アッハハッ! ワタシ、役割はちゃんとこなす方なんだよっ」


 ワタシは炎の鳥を残らず斬り落とし、足の痛みなんか忘れて得意げに笑って見せる。


「貴様は……貴様は一体どこまで狂っておるのだ……?」


 ザレクにさえドン引きされた。ウィリアムとロク、ライラでさえ、ワタシを見て唖然とした。そんな視線は気にせずに、ワタシは器用に右足だけで着地を決める。その時、我に返ったライラが声を張り上げる。


「よくやったサクラ。決めるよ若造ども! ザレクの動きを止めな!」

この話を読んでいただきありがとうございます!


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