34.不死鳥のザレク戦②
よかった……サクラは無事か。
サクラが無事地面に着地したのを横目に、俺は聖剣グレイシアで炎の鳥を根こそぎ斬り落とす。そして近場にあった氷の足場を利用し、ザレクの元へと跳躍した。
「小賢しい……」
苛立つザレクが再び放った炎の鳥。その内の十数羽が矢のように俺に向かってくる。
ピシピシッ……。
俺は自分に向かってくる炎の鳥を聖剣で撫でる。すると炎の鳥は氷の彫像へと変わり、落下した。
ガキィィィン!
ザレクの鉤爪が、音速で振り抜いた聖剣を弾く。
「ならばこれはどうだ?」
ザレクの元に三度、炎に囲まれた黒い穴が開く。
なんだ? 次は何が出てくる?
氷の足場に着地し、俺は黒い穴に警戒を向ける。
「う……うぅぅぁっ……」
「……っ!? デモン……なのか?」
黒い穴から出てきた人影。その顔は紛れもなく、俺が殺したはずの復讐相手──デモン・パーチだった。しかし、本来眼球があるはずの場所は空洞で、腕は獣のように毛むくじゃらだった。なにより、腹部にポッカリと穴が開いていて、とても生きていられるようには見えない。
「どうなっている? これも……貴様の仕業なのか?」
あまりにも惨い、冒涜的なまでに変わり果てたデモンの姿に、自然と声が掠れる。ザレクはただ嘲笑するだけで何も答えない。
「ウィリ……アム……」
見えるはずのないデモンの双眸が俺を見つめ、獣の物に置き換えられた両腕でロングソードを構える。
「ウィリアムウィリアムウィリアムウィリアムッ!」
怨嗟を吐き散らすデモンの亡霊が、型も何もない滅茶苦茶な所作で繰り出す振り下ろし。俺は別の足場に移動することでかわしたが、俺がさっきまで立っていた氷の足場は砕け散る。
どうする? 今のデモンの実力は生前には遠く及ばない。だが、ザレクと同時に相手するには分が悪い──。
「アッハハッ! 炎の鳥攻撃もう慣れちゃったよっ! もっといろんな技を見せてっ!」
炎の鳥を斬り、その爆炎の中を潜り抜けザレクの元へと突き進むサクラ。その横顔はいつになく楽しげで……。
「サクラ! 俺は一時ザレクとの戦闘から離脱する。その間は任せるぞ!」
俺の声はサクラに届かなかったのか。俺を振り向くこともなく、一心不乱にザレクを見つめるサクラの真紅の瞳に、一瞬俺も表情が緩む。
頼んだぞ、サクラ。
俺は表情を引き締め、デモンに向き直る。少し下にある足場に背中から落ちたデモンは、残った歯をギシギシと削り、俺に憎悪を向けてくる。
「憐れだな……デモン」
気が狂い、身体ももう人間のそれではなくなっているデモンを俺は、心からの冷笑をたたえて見下す。エレナと俺を裏切ったデモンが、死してなお尊厳を踏みつぶされている光景に、胸の奥がスカッとした。
「おまえおまえおまえだけはッ……殺す殺す殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺すッ!」
「前回とは、立場が逆になったな……」
憎しみを剝き出しにしたデモンの攻撃を、俺は無心で受け流した。
「うぅううぅぅぅっ……!」
体勢を崩したデモンが、空中で身動きが取れずにうめく。
「デモン、貴様への復讐は終えた……もう、俺の前から消えてくれ」
俺はデモンの憐れな姿を見て静かに微笑み、聖剣グレイシアを振り下ろした。
***
ウィリアムがデモンを倒す、少し前──デモンと対峙するウィリアムとすれ違った直後。
「もっといろんな技を見せてよっ!」
「調子に乗るなよ人間……!」
ワタシが接近するとザレクは翼を羽ばたき、一段と高度を上げる。さらに、その時舞い落ちた赤い羽は炎を纏い、砲撃となってワタシに襲い来る。
ヒュドドドドンッ!
赤い羽が直撃した足場では爆炎が上がるが、ワタシはすでにザレクへ向かって跳躍していた。
「それも最初に見たよ……もっと他に技はないの?」
「だが、これで貴様は宙空──足場のない貴様はこれをかわせるか?」
「うんっ! かわせるよ!」
ザレクがもう一度翼を羽ばたき、赤い羽を射出する。ワタシはそこで初めて、実戦で『空歩』スキルを発動した。
タタンッ……。
軽やかに宙を蹴り、赤い羽をかわす。対してザレクは翼を丸め、炎の障壁を張った。この動きは、ライラの結界すら破りかけた、すべてを焼き尽くす炎の攻撃の予備動作。
「いいねいいよ! それも攻略してみたかったっ!」
正直この技を突破する手段は見当たらない。だからただ、ワタシは全力で剣を振る。そう決めた直後、ザレクの頭上に、大柄の男の影が現れた。
「オレ様のことも忘れんじゃねぇよ!」
「なっ……貴様いつの間に!?」
空が剥がれるように、黄緑色の光を纏ったロクの姿が露わになっていく。
「くたばりやがれ鳥野郎っ!」
ロクのフルスイングした拳が、ザレクの脳天に突き刺さる。
「グガアァァァアアァァッ!」
ザレクすらをも驚愕させるミスリル砕きの一撃。それはロクの『怪力』スキルと、ライラの支援魔術が合わさって初めて生まれたものだ。
ザレクの障壁は突き破られ、その巨躯は無様に落下する。そして、落下地点に先回りしていたワタシは、ザレクの首に狙いをつけて剣を振るった。
パキイィィィンッ!
「えっ……!?」
だが、ザレクの首は斬れなかった。逆に、ワタシの剣が折れる。
「カハッ……」
剣が折れ、隙が生まれたワタシに、ザレクの翼が直撃。ワタシの身体はミシミシと悲鳴を上げ、地面に叩きつけられた。
ライラが咄嗟に風魔術で落下の衝撃を抑えてくれたが、それでも肺から空気が勢いよく抜け、喉を焼く。
なにが起きたのっ……?
「サクラ、生きてるかい?」
「は……い……ゲホッ……」
ライラに返事をしようとしたらむせてしまった。
「喉とアバラをやられてるね。おめぇ、なんでこんな大怪我してい笑ってられるんだい……」
白い目を向けられながらも、ライラが治癒魔術をかけてくれたおかげで喉の痛みが引く。
「久しいな。この姿を見せるのは」
どこまでも人をバカにするような声。その声の主であるザレクは、全身が水色に変容し、周囲には目に見えるほどの冷気を纏っていた。そして、ワタシが斬ろうとした首は分厚い氷で覆われていた。
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