33.不死鳥のザレク戦①
「どうだウィリアム? 貴様の妹が生きていた感想は?」
ウィリアムを見下し、ザレクはウィリアムの妹──エレナの頬を赤い翼で撫で上げる。だがエレナは何の反応も示さず、虚ろな目で遠くを見ていた。
彼女の背中には異形の翼が一対生えており、白いワンピースの合間から見える肌には、びっしりと火傷や切り傷の跡がついている。
「ザレク貴様ッ! エレナに何をした!」
「はて? 貴様は何をそんなに怒っておる? ワレはこの娘を食らった後、蘇生させてやったのだぞ……それから少し、可愛がってやったまでよ」
「……っ!」
奥歯を噛みしめ、地面を踏み砕くウィリアム。彼がザレクに向かって跳躍するより一足早く、ライラが動いた。
「行きな若造ども! アタシが隙を作ってやる」
ライラが掲げた杖の上に六色の魔法陣が重なる。次の瞬間、周囲から色と音が抜け落ちた。
…………シュドオォォォオオォォン!
魔法陣から放たれた白い光線。それはエレナを避け、ザレクのみを打ち抜く。同時にライラは空に氷を生成し、無数の足場を作った。しかもそれだけではない。
「これって……」
ワタシやウィリアムの剣、ロクの拳には黒く禍々しいモヤが立ち上る。
「おめぇらの武器に回復阻害の呪いを付与した。存分に暴れてきな! 回復阻害の呪いは、ザレクにも効いているようだからねぇ」
ニヤけるライラ。その視線の先では、二枚の翼が使い物にならないほど溶け落ちたザレクが、炎の中から姿を現した。
「なぜ再生しない……貴様らまさか、呪術書を──」
「ザレクッ!」
一瞬のうちに距離を詰めたウィリアムが、直線的な動きでザレクに斬りかかる。
「バカ野郎! 読まれるぞ!」
「人間ごときが! ワレに傷をつけるなど、貴様らは皆殺しだ!」
ザレクへの殺意がにじみ出るウィリアムの目は、ザレクしか見えていない。ザレクが残った四枚の翼で羽ばたくと、炎を纏った羽が容赦なくウィリアムに降り注ぐ。
だが、ウィリアムの、冷静さを失ったかに思えた表情はすべてブラフ。彼はライラが用意した氷の足場を踏み砕き、降り注ぐ火の雨を最適解でかわした。
「ヂィッ……小癪な!」
ウィリアムに頭上を取られたザレクは翼を丸め、炎の障壁を張る。
「くっ……」
ウィリアムが、ザレクの横にいるエレナを見て剣を振り下ろすことを躊躇う。彼が苦虫を嚙み潰したような顔をしたその時──。
「うおらぁっ!」
ワタシはロクの強肩に投げ飛ばされ、ザレクに急接近した。同時に、ライラが水属性魔術でザレクの障壁の一部に風穴を開ける。
「……っと。行くよっ!」
空中で体勢を立て直し、炎の障壁の内側へ。勢いそのままに、ワタシはザレクの尾を突き刺した。
「人間……風情があぁぁあぁっ!」
ヤバそうっ……!
ワタシは咄嗟に剣を引き抜き、ザレクの身体を蹴ってザレクから離れる。その時、ワタシはエレナを、体当たりする形で奪還した。
「ありがとうサクラ……」
ワタシがエレナを取り戻すのを見て、ウィリアムの瞳からは躊躇いの色が消えた。
「サクラ、ロク! アタシの後ろに来な!」
ライラが叫んだ次の瞬間、ザレクを中心として広がる炎の膜が、一瞬で部屋中を焼き尽くした。壁も床も天井も崩壊し灰と化す中、ワタシたちはライラの水属性結界によって守られる。
「チッ……こりゃ持たないね」
ライラの結界はミシミシと悲鳴を上げ、ヒビが入る。その時、収まる気配のない業火の中で、神々しい水色の光が煌めいた。
スパアァァァンッ!
瞬間、ありとあらゆるものを焼き尽くした業火が止む。炎に埋め尽くされていた視界が晴れ見えたのは、ウィリアムの聖剣がザレクの胴を袈裟に斬り裂いているところだった。
「ぐうぅっ……ウィリアムッ!」
聖剣グレイシアの特性で、ザレクの身体は傷口から凍っていく。身体を燃やして溶かそうとするが、ウィリアムの追撃がその隙を与えない。
「ワタシもっ!」
ワタシはエレナをロクに預け、ライラの手によって再び作られた氷の足場を利用しザレクに近づく。後ろからはライラが、回復阻害の呪いを付与した岩弾を連射。
ブオン。
息つく暇もない波状攻撃に、誰もがこのまま押し切れると思ったその時、黒い転移の穴が現れザレクの姿が消えた。
「逃げやがったのか!?」
ロクの驚く声に、ウィリアムは首を振る。
「いや、そんなはずはない。自尊心の塊のようなザレクが、このまま引き下がるはずが──」
「その通りだウィリアム。この程度で死ぬでないぞ……まだまだいたぶり足りぬからな!」
跡形もなくなった屋根よりも遥か上。満月を背に雄々しい翼を広げたザレクがワタシたちを見下ろす。
「チッ……あの転移能力、厄介だねぇ!」
「ライラさん! もっと上まで足場をくださいっ!」
ワタシが、氷の足場の上からライラを見るためにザレクから一瞬目を離したその瞬間。ザレクの周りは闇夜に浮かぶ太陽のように輝きだした。
「まずい!」
「わっ!?」
反応が遅れたワタシを抱えて、ウィリアムが『俊足』スキルで駆け回る。周囲の景色が線に見える速さで駆けるウィリアム。その彼と並走してくる赤い影は、ザレクが放った炎の鳥だった。
炎の鳥はハヤブサのような造形をしていた。それが数えきれないくらい放たれ、ワタシたちを追尾し、やがて接近してくる。
このままじゃウィリアムさんでもかわせない……。
「ワタシを離してっ!」
「だが……」
「大丈夫ですっ! 何とかしますっ!」
ワタシを離すことを躊躇うウィリアムだったが、僅かに緩んだ彼の手からワタシは抜け出す。すると炎の鳥は二手に分かれ、それぞれワタシとウィリアムを追ってきた。
ワタシじゃ逃げきれないし、相殺できるような魔術もない……だからっ!
「斬ってみせるしかないよねっ!」
仰向けで落下し始めたワタシに、炎の鳥は一瞬で追いついてくる。
火なんて斬ったことないけど……でもっ、ワタシならできるよねっ!
ワタシは挑戦的な笑みを浮かべ、音速の壁を突き破った炎の鳥たちに刃を通す。
スパパパパアァァァンッ!
七連撃。それでちょうど十匹の炎の鳥を斬った。斬られた炎の鳥は切断面が膨れ上がり、爆発を引き起こす。その爆発が後続の炎の鳥たちを巻き込み破壊した。
「できたできたできたっ……できたよ炎斬りっ!」
ジジッ……。
だが当然、その爆炎はワタシにも襲い掛かり、服がところどころ焼け落ちる。だが幸い、ライラが張ってくれた水の膜が残っていたおかげで火傷はしなかった。
「おいサクラ! 無事なのか?」
着地すると、ライラの結界に隠れていたロクが走り寄ってくる。
「はい。大丈夫です……」
ワタシはロクに生返事を返し、もう一度氷の足場に足を掛けた。見上げると、聖剣グレイシアでついたザレクの傷は、じわじわと治っていく。
まだ、戦えるっ!
「もっと……もっともっと楽しませてよっ!」
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