31.ブレイズウルフ戦①
「ウィリアムさん!?」
ウィリアムの金色の双眸には鋭い眼光が宿る。妹を早く助けたいという衝動に耐えられず、ウィリアムは一人、ブレイズウルフのいる部屋に先行した。
「姿を現せブレイズウルフ! 不死鳥のザレクをこの場に呼び出せ!」
大人数の夜会にすら使えそうな広い部屋。その中にブレイズウルフの姿はなく、ウィリアムは扉付近で立ち止まり焦燥を孕んだ声を上げる。ワタシたちも彼に続いて部屋に入ると突如、背筋に悪寒が走った。
「ザレク──神獣って奴ぁ手下でもこのレベルの殺気を放ってきやがるのかよ……」
ロクがクマのように大きな身体を強張らせ、唾をのむ。その隣で、ライラも警戒レベルを引き上げる。
この殺気……ブレイズウルフって期待以上かもっ!
「上か!」
ブレイズウルフによる天井からの奇襲。炎を纏った巨狼が、その鋭利な爪を容赦なく振り下ろす。
ガキイィィィン!
「ぐぅっ……」
いち早く反応したウィリアムが、ブレイズウルフの爪を剣で受けた。だが、
ドオォォォン!
ウィリアムの剣とぶつかった爪が爆ぜ、炎がワタシたちを焼き尽くす──はずだった。だが実際は、ワタシたちの全身を薄い水の膜が覆い、爆炎を打ち消した。
「ったく、世話が焼けるねぇ」
これすごいっ! ワタシの身体に密着しているのに動きにも感覚にも何の影響もないなんて……。
「うおらぁっ!」
ロクが、ウィリアムの剣と拮抗していたブレイズウルフの前足を殴る。その衝撃にブレイズウルフの纏う炎がのけ反り、その巨体ごと殴り飛ばされた。
だがブレイズウルフは器用に身体を捻り着地。全く隙のないブレイズウルフの立ち姿に、ワタシたちは睨み合いを余儀なくされる。
「やはり、一筋縄ではゆかぬか……我の元までたどり着いただけはある」
なんだろう? なんだかこの魔物、今まで戦ってきた魔物とは何か違う気がする……。
「『怪力』、『無詠唱』、そして『狂戦士化』。どれも強力なスキルだ。そして何より──」
ワタシたち一人ひとりに視線を寄越し、ブレイズウルフの赤い目は、最後にウィリアムを見た。
「──歴代最年少で隊長の座に就いた、聖剣持ちの逸材……手は抜かぬ。我の全霊を以って相手しよう」
そうか。ブレイズウルフはワタシたちのことを警戒してるんだ。今まで出会った魔物はみんな人間のことを見下してたけど、ブレイズウルフだけはワタシたちのことを対等に見てる。
ワタシたちを捉えるブレイズウルフの目は獲物を狩る捕食者の目ではなく、冷静に思慮深く獲物を確実に仕留める狩人の目をしていた。そこに、油断など微塵もない。
イモルター王国で二番目に強い魔物が全力で戦ってくれるっ!
その事実に、ワタシはもう戦うことを我慢できなかった。口角を吊り上げ、瞳を真紅に染め上げ地面を蹴る。
フッ……。
あったはずの距離が消え、突如目の前に現れたブレイズウルフの爪。ワタシの顔を引き裂く軌道で迫る爪に、ワタシはなんとか反応した。
「……っと!」
爪を受け流し、流れるようにブレイズウルフの前足に剣を振り下ろす──だがその時にはすでに、ブレイズウルフは遥か遠くに佇んでいた。
速い……ウィリアムさんよりも。
「アッハハッ! さすがこの国二番目に強い魔物。いいねいいよ倒し甲斐があるっ!」
ワタシは再びブレイズウルフに向かって走り出す。
「同じことを……」
ブレイズウルフの姿がかき消えた次の瞬間、ブレイズウルフの二本の前足が、ワタシ目掛けて振り下ろされる。その動きを見て、ワタシはしてやったりと笑った。
「ウィリアムさん!」
「その動きはもう見たぞ」
「ぐぬっ……」
ウィリアムが『俊足』スキルで距離を詰め、ブレイズウルフの前足を二本とも弾く。反動で一瞬、ブレイズウルフの動きが止まる。
ウィリアムが攻撃を防いでくれると信じていたワタシは、迷いなくブレイズウルフの胴体の下に潜り込み、腹部を斬り裂いた。
「グオォァァアアァッ!」
ブレイズウルフの悶絶する声が鼓膜を打つ。ブレイズウルフは纏った炎を爆発させ、ワタシたちを焼き尽くさんと抵抗するが、それもライラが張った薄い水の膜によって防がれる。
「ライラさん!」
「ああわかってるさ! 若造! その犬っころを押さえな!」
後方に飛び退こうとするブレイズウルフ。だが、その後ろ足をロクががっしりと掴み、ブレイズウルフの後退を許さない。
「ぐぬぅっ! まだだっ!」
突如現れた炎の竜巻がブレイズウルフを包み込み、その熱風をもってワタシたちを吹き飛ばす。
「くっ……」
「ちっくしょぉっ!」
ロクとウィリアムは壁や床に着地し、ライラは魔術で風を相殺した。
「いっっ……」
だがブレイズウルフの真下にいたワタシだけは、竜巻の上昇気流に巻き込まれ天井に背中を強打した。口から吐いた血とともにワタシの身体が自由落下を始める。
どこっ?
そんな中ワタシは、宝物を探す子供のように楽しげな目をしてブレイズウルフの姿を探した。
「えっ……!?」
そうして見つけたのは、並みの大型犬程度の大きさにまで縮んだブレイズウルフの姿。小さな炎狼は扉と反対側の壁にまで下がり、赤い瞳でじっとウィリアムを見ていた。
ふとその重心が、僅かに下がる。
これ、突っ込んでくる……。
「ウィリアムさ──」
タンっ……。
「ぐっ……!」
ブレイズウルフは、広い神聖の間の端から端までを、瞬間移動したかのような速さで駆け抜けた。その鋭い爪で、進路上にいたウィリアムの肩を裂きながら。
そのあまりの速さに、ワタシは『見切り』スキルを以ってしても完全に目で追うことはできなかった。
「はぁっ!? 速すぎんだろおい! ふざけんな!」
「こりゃあ、なかなか面倒なのがいたもんだねぇ……」
理不尽ともいえるブレイズウルフの速さにロクは逆上し、ライラは苦笑いを浮かべる。そんな中ウィリアムは肩を押さえ、剣を構えた。
「ブレイズウルフ。俺と妹に一切手を出していない貴様自身に恨みはないが、貴様がザレクの居場所を吐かないというのなら、俺はなんとしてでも貴様を倒すっ!」
「そのような戯言は、我の動きを見切ってから言うのだな」
タンっ……。
速度に見合わない軽い足音が、ワタシの耳に届くコンマ数秒前。ブレイズウルフは、反応できないウィリアムの横を素通りし、ワタシの首に噛みつこうと牙を剥く。その瞬間、ワタシは愉悦に浸った微笑みを浮かべた。
「やった……ワタシのところに来たっ!」
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