30.猛進
「国王様! 侵入者です!」
有力貴族たちも集まる王城の会議室。その中に、一人の騎士の焦った声が響く。
「侵入者だと?」
「門兵は何をしている!」
「大丈夫なんだろうな?」
その報告に貴族たちがどよめく中、立派な白い髭を生やした国王は、厳粛な声で聞き返す。
「して、侵入者の数は?」
「侵入者は四人。現在、城内の一階を進行中です。中には、元王国騎士団第二隊長ウィリアムの姿も確認されております」
「ウィリアムか……」
含みを持たせたため息を吐く国王。その後ろに控えていた王国騎士団団長が、一歩前に出て発言する。
「皆さまご安心を。皆様は、我々王国騎士団の誇りをかけてお守りします」
「おお! 流石はカイゼンブルク団長だ。『歴代最高』と称されるだけはあるな」
白銀の鎧に身を包んだカイゼンブルクの宣言に、貴族たちからは安堵の言葉が漏れる。それを見て、カイゼンブルクは報告に来た騎士に向かって指示を飛ばす。
「各隊の隊長に伝令せよ。第一隊は私とともにここ会議室の防衛。第四隊はこの場におられない王族の方々を護衛。第三、第五隊は侵入者を直ちに捕らえろと」
「はっ! 承知しました」
伝令を伝えに去っていく騎士を見送り、国王は額を押さえた。
(ウィリアム……どうか死なないでくれ。お主とお主の令妹を見捨てた余に、どうか償いをさせてくれ)
***
「撤退、撤退だ撤退せよっ!」
「ぎゃあぁぁああああぁぁっ!」
「ほれほれどうした若造ども! それでも栄えある王国騎士団なのかい?」
悪魔的な笑みを浮かべ、炎の大波に乗るライラ。彼女の火属性魔術は、王城の広く荘厳な廊下を余ることなく燃やし尽くし、騎士に回避の選択肢を与えない。
「やはり出てくるのは第三隊と第五隊の団員のみ。第一隊と第四隊は護衛に回ったようだ」
ライラが乗る炎の大波の後ろを並走するウィリアムが、作戦が効いていることを確認する。
「あえて目立った動きをすることで、第一隊と第四隊を護衛に専念させる。これならばおそらく団長も国王様の横から動くことはないだろう」
王城に侵入する前、ウィリアムが提案した作戦は功を奏し、ワタシたちは順調に王城内を侵攻できていた。だが、それも長くは続かない。
「水よ、世界に遍く大いなる聖水よ。集い、激流と成りて我が敵を蹂躙せよ。グレートウェーブ」
詠唱の完成。それと同時に、大質量の水が津波のごとく押し寄せる。
「チッ……王国騎士団にもまともな魔術師がいたんだねぇ!」
即座に反応したライラが、炎の波から降りた直後。
ドゴオォォォン!
低い地鳴りのような音を立てて正面衝突した炎と水の大波。それらは互いに打ち消し合い、消滅した。
「やはり、下賤な侵入者の技など他愛ないものだ」
津波の残骸が小雨を降らせる廊下の先で、白髪の男は黒のメガネをクイっと持ち上げる。
「ほう……? たった一度防いだだけでアタシの魔術をバカにするかい……若造が、デカい口叩くんじゃ──」
静かに怒りを募らせたライラの横を、突風が吹き荒れる。次の瞬間、ウィリアムがメガネの男の背後に現れた。
「舐めるなっ!」
背後から振るわれた剣に反応するメガネの男。彼は身の丈ほどある杖を使い、ウィリアムの剣を受け止める。
「火よ、焼き払え。ファイアボール」
メガネの男の杖から火球が乱射され、ウィリアムは一度距離を取る。
「私は王国騎士団第三隊長、イドラス・フォン・ブルーローズ。魔術師だが、近接戦闘であろうと貴様らのような下賤な侵入者などに遅れは取らな……」
振り向き、ウィリアムの顔を見たイドラス。彼はその瞬間、澄ました表情を崩し目を見開いた。
「なっ!? おまえまさかウィリ──」
トンッ……。
「すまないイドラス。今だけは俺の邪魔をしないでくれ」
隙を見せたイドラスの首を峰打ちし、崩れ落ちるイドラスを支える。そしてウィリアムは、気絶したイドラスを壁に寄りかからせた。
その直後。柱の陰から現れた華奢な影が、その体格に見合わない大剣を振りかぶり、ウィリアムの首を狙う。
「くっ……」
イドラスに気を取られていたウィリアムの反応が、一瞬遅れる。
「ワタシも混ぜてよっ!」
キイィィィン!
斜めに振り下ろされる大剣と正面から打ち合い、大剣を弾く。
ミシッ……!
反動で、左腕から鳴った嫌な音とともに腕の骨が砕けた。ダラリと剣から離れる左手。そんなものを気にすることなく、ワタシは紅い瞳で嗤った。
「この子、理性が壊れてる……」
影の正体──二十代後半くらいのお姉さん騎士は弾かれた大剣を離さず、のけ反った体勢から無理やり大剣による一撃を繰り出す。
パリイィィィン!
「うそ……だろう……?」
大剣をかわすのと同時に振るったワタシの剣は、『狂戦士化』のステータスアップも加わり、大剣を砕くのに十分な威力を発揮した。
「まだだ! わたしは王国騎士団第五隊長として──うぐっ……!」
ワタシに掴みかかってきた女騎士の鳩尾に蹴りを入れ、身体の自由を奪う。フラフラとよろける彼女を気絶させると、ワタシは彼女をイドラスの横に寝かせた。
「サクラ。助かった」
「いえ、むしろワタシのために相手を残しておいてくれてありがとうございますっ!」
女騎士を寝かせるためにしゃがんだワタシに、ウィリアムが手を差し伸べてくれる。ワタシはその手を取って立ち上がると、周囲の騎士が怯えているのが見えた。
「バカな……隊長が一対一で負けるなんて……」
「あんな奴ら、一般騎士のおれたちでどうにかできるわけがない……」
「だが、おれたちは誇り高き王国騎士団だ。最後まで抗ってみせるぞ!」
「ああそうだなっ! せめて一矢報いてやる!」
一人、また一人と剣を手放すなか、それでも立ち向かってくる勇敢な騎士たち。ライラは彼らの意識を睡眠魔術で奪った。
「ふんッ……心意気は嫌いじゃないが、まだまだ若いね……サクラ、腕出しな」
眠りに落ちた騎士たちを一瞥し、ライラはワタシの左腕に治癒魔術を行使する。
「ありがとうございます」
「ったく、おめぇはもう少し上手くやりな。魔力の無駄なんだよ」
「おい! ブレイズウルフがいる部屋ってのはこの扉じゃねぇのか?」
廊下を曲がった先から、両手に一人ずつ騎士を引きずったロクが顔を出す。軽く走ってロクに追いつくと、そこには炎に包まれた狼が描かれた扉があった。
「ああ間違いない。この扉だ」
「よし。まずはアタシが扉を吹き飛ば──」
バゴンッ!
ライラが魔術を行使しようとしたその時、ウィリアムはすでに部屋の中へと侵入していた。
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