29.最終準備
ウィリアムと模擬戦をした翌日。ライラは呪術書の解読を終え、最上位の回復阻害の呪術を習得していた。
「何なのよぉ~。呪術をずうっと研究してきたわたしが、二十年はかかりそうな量を一日で解読しちゃうなんて理不尽すぎるのよぉ~」
「ふんッ……それはおめぇのやり方が悪いからだよ。今度からはアタシがやって見せた方法を使いな。そうすりゃおめぇの研究もちょっとは捗るだろうさ」
ライラがティーナに、自分の解読法を使ってもいいと言うと、ティーナは目の色を変えて食いついた。
「ええ~! いいのぉ~! ありがとねクソババアさん。今度からあなたのことぉ~師匠って呼んであげるわぁ~」
「くっつくな。鬱陶しいねぇ……」
小動物のようにライラにすがりつくティーナ。お婆さんと実年齢二百歳の女性。誰得のいちゃつきを見せられて、ワタシとロクは生気を失った目をした。ライラはティーナを振り払い、ワタシたちに向き直る。
「おめぇら、王都に戻る準備はできてるかい?」
「もちろんですっ!」
「ああ」
「当然だろ!」
ワタシたちの返事を聞いてライラは頷き、ティーナを振り返る。
「よし……じゃあねぇ若作り女。二度と会うことがないよう願っとくよ」
「わたしも同じことを願っておくわぁ……それとぉ~、お土産に一つ忠告しといてあげるわぁ~」
眠そうな目でそう言ったティーナは、ふいに眼光を鋭くし、緊迫した雰囲気を纏った。
「古代にねぇ~、不死鳥のザレクを含むクソ三神獣さんたちはぁ~、あらゆる呪術を習得した魔王と、歴史上で最も強いって言われてる勇者、二人を同時に相手して余裕で勝ったらしいわよぉ~。呪術を持ってるからと言って油断しないことねぇ~」
***
「早く王城に乗り込みましょうよっ!」
「俺もサクラと同意見だ。一刻も早く妹を蘇生させてやりたい」
王都に戻ったワタシたちはライラの指示により、王城付近の裏路地に身を潜めていた。
「まあまちな若造ども。何の作戦もなくおいそれと敵の本拠地に乗り込むようなバカは早死にするよ」
近くに置いてあった木箱に座り、ライラはウィリアムに視線を向ける。ライラの試すような視線を受け、ウィリアムも冷静になる。
「小僧。城の警備はどうなってるんだい?」
「平時ならば王国騎士団第一隊から第五隊までが交代で見回りをしている。そして右翼のブレイズウルフは基本、城の最奥──神聖の間から出ることはない」
強い相手との連戦っ……楽しみだなぁ。
「なるほどねぇ……こりゃあ、どれだけ王国騎士団との戦闘を避けて体力を温存できるかがカギだね」
「えっ? 避けちゃうんですか? せっかく強そうな隊長たちと戦えるのに?」
ワタシがそう言うと、ライラは呆れた目を向けてくる。
「隊長どもが強いから避けるんだよ。アタシらの目標は不死鳥のザレク。誰もが神と認める怪物に挑むんだ。できるだけ万全な状態で挑もうとするのは当然だよ」
まあそうだよね……確かにザレクとの戦闘が一番楽しそうだし、その途中で体力切れするよりはずっとましかな。
納得した様子のワタシを見て、ウィリアムが口を開く。
「話を戻すぞ。緊急時は第一隊と第四隊はそれぞれ、王族と来賓の護衛に専念することになっている」
「それなら、その二つの隊とは戦わずに済みそうだねぇ」
それからしばらく作戦を練った後、ライラが立ち上がった。
「第一、第四隊との交戦は避ける。第三、第五隊は鉢合わせたら速攻潰す。そんでブレイズウルフを殺さずに制圧してザレクを呼び出す。いいね!」
「はいっ!」
「ああ」
「おう! 任せろ」
ウィリアムは剣に手を添え、ロクは拳を打ち鳴らす。ワタシは身体の底から湧き上がる期待感に武者震いした。
「ふんッ……若造ども。先走るんじゃないよ!」
***
「うん……? そこの四人止まれ! この先は限られた者しか足を踏み入れることが許されない王城だ。貴様らが正当な賓客であるのなら招待状を──」
槍を構え、ワタシたちを警戒する門兵たち。彼ら二人の視線は、元王国騎士団隊長のウィリアムに釘付けとなった。
「あ、あなたはウィリアム様──ではなくウィリアム!? てっ、敵しゅ──」
ワタシは、叫ばれる前に門兵二人を峰打ちで気絶させ、剣を引き抜く。見上げるほどに壮大な城門を前に剣を構えると、ワタシは無意識のうちに微笑んだ。
日本にいた頃は、こんな風に笑える日が来るなんて想像もできなかった。最初は突然生贄にされて最悪だったけど、そうやって死にかけたから戦闘の楽しさに気付けた。やっぱり……。
「……この世界にこられてよかった!」
ズバアァァァンッ!
三度に分けて放った斬撃は城門を破壊し、ワタシたちの道を切り開く。その奥では、前庭を巡回していた騎士たちが目を見開き、呆然と立ち尽くしていた。
「アッハハッ! 一般騎士でも、少しは楽しませてくれるよねっ!」
ワタシは、ワタシたちと王城の玄関との直線上にいる騎士数人を一蹴。ウィリアムたちもワタシに続いて、王城の中へと侵入した。
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