28.空き時間の過ごし方
「アタシはこれから呪術書を解読して回復阻害の呪術を覚える。おめぇらは好きに過ごしな」
ログハウスの中、呪術書を手にしたライラは早速ページをめくる。ライラの邪魔しないように、ワタシたちはログハウスの外に出ることにした。
……何しようかな。
ロクは胡坐をかいて頬杖をつき、遠くを見ている。ウィリアムは腕を組み、目を瞑っていた。濃い霧に覆われた空の下、ワタシたちはしばらくの間、無為な時間を過ごした。
そうだ! せっかく時間があるんだからあれやろう。
「ウィリアムさん。一つお願いしてもいいですか?」
「ああ。構わないが……」
こんな何もないところで何をするのか?
そう問いかけるウィリアムの目に、ワタシは口角を吊り上げた。
「模擬戦、しましょうっ!」
ウィリアムさんは優しいからきっと無意識に手加減される……でもたぶん、ウィリアムさんの実力ならそれでも面白いはずだよねっ?
キラキラと目を輝かせてウィリアムの返事を待っていると、ウィリアムは肩の力を抜くように微笑んだ。
「キミらしいな。それで、ルールはどうするんだ?」
「剣術、魔術、体術なんでもありで、急所に寸止めした方の勝ち。これでどうですか?」
「わかった」
そう言うとウィリアムはワタシと向かい合い、王都で新調した剣を抜き、下段で構える。ワタシも鞘から剣を引き抜き、正眼で構えた。
「ロクさん。開始の合図をお願いしてもいいですか?」
「おう任せろ! オレ様は子分の頼みは断らねぇ」
ウィリアムさんの剣技を間近で見られる! 技を磨くチャンスっ!
「ウィリアムさん。手加減しないでくださいねっ!」
ウィリアムは静かに頷く。ロクは立ち上がり、右手を掲げた。
「じゃあ行くぜ……始めっ!」
キイィィィンッ!
開始の合図と同時にウィリアムの間合いに飛び込み一閃。それをウィリアムは正面から受け、火花が散る。
キリキリッ……。
鍔迫り合いになったその瞬間。ワタシはすぐに剣を倒し、空いたウィリアムの左頬に向かって回し蹴りを放つ。だが、ワタシの足は空を切った。
危なっ!
体勢を僅かに下げ、最小限の動きでワタシの蹴りをかわしたウィリアム。同時に放たれる鋭い突きを、ワタシは剣で受け流す。だがウィリアムの突きは三連撃。二撃目をかわし損ね、頬から血が流れる。
キイィィィンッ!
ワタシの首元を狙って繰り出された三撃目の突き。それを側面から弾き、ワタシは一度距離を取る。
「氷よ、槍と成りて貫け──」
距離が開くと即座に詠唱が聞こえ始める。ウィリアムの周囲を水色の光が舞った。
ウィリアムさんが本気出してくれてるっ!
「やっぱり、ウィリアムさんはすごいですっ!」
頬から流れた赤い雫が地面に落ちる。次第にワタシの瞳は真紅に染まっていった。
「──アイスランス」
ズドドドドドッ!
ワタシを貫かんと地面から生える氷の槍。その連撃を軽いステップでかわす。
ドンッ!
ウィリアムが立っていた地面が砕ける。眼前に迫るのは、『俊足』スキルによる最速の振り下ろし。地面から生えた氷の槍が、ワタシの逃げ道を塞いでいた。
あっ……これ、狙える。
カアァァァン……。
ウィリアムの攻撃を斜めに受け流し、そのまま剣を振り抜いてウィリアムの首元へ。ワタシの横薙ぎの一撃に、ウィリアムは紙一重で防御を間に合わせた。
「……っ! サクラ、キミは本当に剣を取ってからまだひと月も経っていないのか?」
「はい。だからもっといろんな技を見て、自分のものにしたいんですっ!」
向上心からくる挑戦的な笑み。目的を見据える目をしたワタシを見て、ウィリアムも表情を和らげる。
「キミは本当に楽しそうに戦うな」
「ウィリアムさんも、少しくらい楽しんだってバチは当たりませんよっ?」
「そうだな」
お互いの剣を弾き合い、大きく後ろに跳ぶ。
「俺も少しだけ、楽しませてもらうぞ!」
***
カランッ……。
「ワタシの……勝ち?」
ウィリアムの剣が地面を転がり、ワタシの剣先がウィリアムの喉を捉える。二時間ほど続いたワタシとウィリアムの模擬戦は、唐突に終わりを迎えた。
「やったあっ! ハァ……ハァ……ウィリアムさんに勝った……」
大の字になって寝ころび、霧の空を見上げる。汗が頬の切り傷に沁みる痛みも、今は心地よかった。
「俺の負け、か……だがなぜだろうな。どこか清々しい気分だ」
天を仰ぎ、呼吸を整えるウィリアムの表情にくもりはなかった。
「ウィリアム、サクラ。飯できたぜ!」
いつの間にか、ホクホクと湯気が立ち上る鍋を持ってきたロクがワタシたちを呼ぶ。
この匂い……クリームシチューかな?
乳製品のまろやかな香りと、新鮮な野菜の優しい香りが立ち込める鍋。ロクは鍋を簡易テーブルに置き、いつの間にか設置されていた背の低い木製の椅子に座った。
「立てるか? サクラ」
ワタシは、ウィリアムが差し伸べてくれた手に掴まり立ち上がる。しかし、体力の限界を越えて戦い続けたせいで足がプルプルと震える。
「あれっ……」
一歩足を前に出そうとすると膝が笑い、ワタシの身体は横に倒れた。
トンッ……。
「大丈夫か?」
そんなワタシの頭を、ウィリアムは胸で受け止めてくれた。
「おいおい……サクラ、おまえはしゃぎ過ぎだろう」
「……い、今が楽しければいいじゃないですか」
ロクにさえ白い目を向けられ、ワタシはウィリアムの胸の中で渋い顔をした。
「サクラ。とりあえず椅子に座ろうか」
「はい。お願いします……それと、迷惑かけてすみません……」
「構わない。俺もサクラに何度か助けられているからな」
「えっ? ワタシ、ウィリアムさんに何かしました?」
ウィリアムはほんの僅かに驚いた顔を見せたが、何も答えない。代わりにワタシを抱え、椅子に降ろしてくれる。
「ケッ……まあおまえがいいってんならこれ以上は何も言わねぇ。さっさと飯食って体力回復させろ」
「ありがとうございます」
ロクに、器に取り分けたクリームシチューを突き出され、ワタシは素直にそれを受け取る。間髪入れずにクリームシチューを口に入れると、途端に口の中はアツアツとろっとろの濃厚な味に満たされた。
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