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魔物が神聖視される世界に転生したら、ワタシは【戦闘狂】に目覚めました〜生贄から始まる狂戦士無双〜  作者: 冬哉


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25.幻惑の森

「これが幻惑の森ですか……すごい霧ですね」


 幻惑の森の入り口。崩れた石門の先には、一寸先も見えないほど濃い霧が充満していた。


 ポウッ……。


 ふいに、ワタシたちの頭上に黄色い光が灯る。黄色い光は大きな球を形成すると、すぐに弾け散った。


「今のでアタシはおめぇらの位置を補足できるようになった。これではぐれる心配はないよ」


 各々が緊張を高める中、ワタシは軽い足取りで崩れた石門をくぐろうとして、振り返る。


「どうしたんですか? 早く行きましょうよっ!」


 ワタシの言葉に、三人は一瞬目を丸くした。


「本当にキミはすごいな……」


「ケッ……子分に引っ張られちゃ世話ねぇぜ……」


 ウィリアムは苦笑混じりに表情を緩め、ロクは自虐的に目を逸らす。


「……ったく、相変わらずだねぇサクラは」


「ん?」


 ワタシの脇をくぐり抜けて森へと入る三人の反応に首を傾げながら、ワタシもその後を追った。


***


「この絵は……太陽か?」


 しばらく真っすぐに進んで見つけた石板。水平に置かれたそれには、太陽の絵と、手のひらサイズの円形のくぼみが彫られていた。


「こっちの石板は何がかいてあったかわからないねぇ」


 水平に置かれた石板のすぐ隣には、地面と垂直に置かれた石板がもう一つあった。だが、その大部分は崩れ落ちていた。辛うじて残っていた右下の部分には、直角に交わる二本の線と、その下に点が描かれている。


 下の真ん中辺りで十字に交わる二本の線ってこれ、どっかで見たことあるような……。


「頭使うのは得意じゃねぇからな。オレ様は見張りをするぜ」


 ワタシとライラ、ウィリアムが石板の謎について考える中、ロクはそう言って濃い霧の先へと警戒を向ける。


「……おい。誰かいるぞ!」


 ワタシが記憶の中を探っていると、ロクが緊迫した声を上げた。その声に、ワタシたち三人は一度思考の海から抜け出す。


 ロクの視線の先にあったのは、不気味に揺れる人影だった。手足が伸び縮みし、身体が大きくなったり小さくなったり。歪に形を変える人影は、次第に数を増やしていった。


「ありゃ人じゃないね……シャドウだ」


「シャドウ? それって敵ですかっ? 斬ってもいいですかっ!」


「構わんが……」


 語尾を濁すライラの様子を疑問に思いつつ、ワタシは剣を構える。するとシャドウたちは歪んだ身体を伸ばして、ワタシたちに接近してきた。


 ヒュンッ……。


「あれっ?」


 シャドウを完全に捉えたはずの剣から伝わってきたのは空振りの感触。だというのに、ワタシの目の前にいたシャドウは跡形もなく霧散した。


 ヒュンヒュンヒュンッ……。


 どれだけシャドウを斬ろうと、物を斬ったという感触は一度も伝わってこなかった。


「シャドウは実体のないゴーストだ。斬っても意味はないんだよ」


 そう言ってライラは顎で前方を指す。そこでは霧散したはずの影が集まり、再びシャドウが生まれ落ちる。


 攻撃が効かない実態がない敵……どう倒そうかなっ?


「無駄だサクラ。ここを離れるぞ」


 シャドウを見据えながら攻略法を模索していると、ウィリアムがワタシの肩を叩いた。


「シャドウは一種の地縛霊だ。ここを離れれば追ってくることはない」


「でもっ、せっかくなら倒してみたいんですっ!」


「ダメだ。今はおめぇの趣味に付き合ってやる時間はないんだよ」


「でも──」


 ポカッ!


「いたっ……」


 ワタシは、ライラに後ろから杖で叩かれた。


「冷静になんな! おめぇはこのまま時間を潰して、ザレクと戦えなくなってもいいってのかい?」


 ……そう、だよね。今はまず呪術書を手に入れないと。きっとまた、シャドウと戦える機会が来るよね?


「わかりました」


 ワタシは剣を納めると、ウィリアムたちに続いてその場を去った。


 ──去り際。振り向くとシャドウたちは、どこか寂しそうにゆらゆらと影を揺らしながらワタシたちを見ていた。


***


「また同じような石板ですね」


 シャドウから逃げてしばらく。方向感覚を阻害する濃い霧の中を進んできたワタシたちの前に、再び石板が現れる。水平に置かれた石板には、前と同じように太陽と円形のくぼみが彫られていた。


「チッ……今度の石板は完全に崩れてるねぇ」


 ライラの言う通り、地面と垂直に設置されていたはずの石板は砕け、瓦礫の山を形成していた。


「だが幸い、この瓦礫からは何か読み取れそうだぞ」


 瓦礫の山を観察していたウィリアムが、一つの大きめの瓦礫を裏返す。そこには、先の尖った直角三角形が描かれていた。


 ああそっか! これって……。


「これって方位記号じゃないですか?」


「何言ってんだサクラ? 方角は矢印で書くんだぜ」


 ロクの言葉に、ウィリアムも頷く。どうやらこの世界では、方位は矢印で示すらしい。


 なら違うのかなぁ……。


 そう思った時、押し黙っていたライラが何かに気付く。


「……ったくそういうことかい! アタシとしたことがこんなことにも気付けないなんて……もう年かねぇ」


「ライラさん何かわかったんですか?」


「ああわかったよ。こいつはサクラの言う通り方位記号さ──古代の、だがねぇ」


 するとライラは急ぎ足で石板の瓦礫に近づく。


「考えてみりゃ当たり前のことさ。幻惑の森はずっと昔から存在した魔境──むしろ現代の文字や記号が描かれてる方が変だよ」


 ライラは杖で、直角三角形の上に打たれた点を指す。


「おそらくこの点は進むべき方角を指してるんだよ。あとはどうやって方角を割り出すかだが……」


 太陽が見えないこの森で、どう方角を割り出すか。その答えに、ワタシはすでに気付いていた。


「ウィリアムさん、懐中時計持ってましたよね?」


「ああ……だがこんなものをいったい何に使うんだ?」


 ウィリアムが懐から取り出した懐中時計を受け取り、ワタシは水平に置かれた石板の前まで歩く。そして、懐中時計を円形のくぼみに置いた。


 カチッ……!


 機械的な音とともに、懐中時計が金色の光に包まれる。光の中、時計の針は目まぐるしく回転した。


「これは……」


「何が起きてやがるってんだ!?」


 やっぱり! 時計を置くと、この石板にとって正しい時間を指すようにできてる。


 金色の光は次第に弱くなり、時計の針はやがて、四時十八分を指して止まった。


「サクラ。おめぇもなかなか物知りだねぇ。正しい時間を指した時計と太陽があれば方角を割り出せる、そんなことを知ってる奴ぁ滅多にいないよ」


 集中しているワタシの耳には、ライラの賛辞も届かない。


「そして太陽は、石板に最初から描かれてます」


 そう言ってワタシは、懐中時計の短針を太陽の絵に合わせる。


「つまり、北はこっちです!」


 ワタシは確信を持って、石板の向こう側を指さした。すると、ロクはワタシの背中をパンっと軽くたたいた。


「すげぇじゃねぇかサクラ! おまえもオレ様と同じで腕っぷしだけのバカだと思ってたが見直したぜ」


「そんな風に思ってたんですか?」


「悪かった。もうおまえをバカだなんて思わねぇよ!」


 調子よくワタシの背中を何度も叩くロクにジト目を向けた後、ワタシはウィリアムを見た。


「ザレクと戦うためにも、早く進みましょう!」

この話を読んでいただきありがとうございます!


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