24.王都観光
「サクラ。おまえ次はこれ着てみろ」
王都に到着したワタシたちは今、服屋に来ている。ライラが情報収集をするといってどこかへ消えてしまい、手持ち無沙汰になったロクがワタシの穴だらけの服を見て、
「そんなボロボロの服着るもんじゃねぇよ」
と言ったからだ。そこに、同じくやることがなかったウィリアムも同行し今に至る。
この服……なんかいいかも。
白のラフなインナーに赤の羽織物。コーデとしての良さはもちろん、通気性もよくラフな分、動きやすくもある。
「着替えました」
店員に許可を取り、物陰で服を試着したワタシはロクとウィリアムの前に出る。
「さすがはオレ様の見立て。似合ってんじゃねぇか」
「ロクさん服選びのセンスすごいです! なんでこんなに詳しいんですか?」
この服の前にもロクさんのおすすめを何着か試着したが、どれも色合いや組み合わせのセンスが良かった。それだけではなく、戦闘好きなワタシに合わせて動きやすいものを選んでくれる。
「オレ様はな、果ての牢獄にぶち込まれる前は女と遊びまくってたんだ。どの女にどんな服が似合うかくれぇ、一目見りゃわかるんだよ」
「ろくでもない理由ですね……」
自慢げに話すロクにジト目を向けつつ、ワタシは今着ている服の値札を見た。合わせて銀貨八枚──日本円だとだいたい八千円くらいだった。
少し高いけど今は少しお金に余裕があるし……買おうかな。
購入を決めて店員の元へ歩こうとすると、ウィリアムと目が合った。
「ウィリアムも男だろ。女の服には感想言えよ」
「そうだな」
横からちゃちゃをいれるロクに、ウィリアムは頷く。それからワタシの格好をじっと見つめた。
なんか、改めて見られるとムズムズする。
ワタシはなんだか気恥ずかしくて横髪を弄った。
「その服、サクラに似合っててかわいいぞ」
ウィリアムが浮かべたのは、優しく微笑む王子様スマイル。でもワタシは知っている。たぶんこれはお世辞だと。
「ありがとうございます。でも、お世辞なんて言わなくていいんですよ」
「いや、お世辞では──」
「店員さん。この服買いますっ!」
ワタシは買った服を着たまま店を出た。後から追ってきたウィリアムが懐中時計で時間を確認し、ワタシたちはライラとの集合場所に向かった。
***
「お待たせしました。バッファステーキとロールパン。それと山菜シチューです」
大通りから少し外れた、客の多い庶民向けレストラン。ライラと合流したワタシたちは、そこで昼食を摂ることにした。
「いただきます」
ジューっと鉄板の上で音を立てるアツアツのステーキ。焦げ目の付いたステーキをナイフで一口大に切ると、中からは鮮やかな紅色が顔を覗かせた。
ジュワッ!
噛んだ途端に口の中いっぱいに広がる濃厚な肉汁に、ワタシの舌は溶かされた。
アツっ……けどおいしいっ……。
「どうだサクラ。ここの店うめぇだろ」
この店を選んだロクが、フォークに刺したステーキを自慢げに突き出す。
「はいっ! こんなにおいしい料理食べたことないですっ!」
このステーキは、日本の発展した食文化の中でさえ味わったことがないほどの絶品だった。ステーキを口に運ぶ手が止まらない。
「それでライラ。何かわかったのか?」
そんな中、真剣な顔をしたウィリアムがライラに問う。ライラは問いに答える前に、ワタシたちを包み込む、透明な遮音結界を張った。
「もちろんさ。ザレクを倒すために必要な呪術書の在り処がわかったよ」
「呪術書……ですか?」
ワタシは口に入れかけたフォークを止め、聞き返す。
「ああそうさ。ザレクを倒すためには、奴を『不死鳥』たらしめる尋常じゃない治癒速度を突破する必要があるだろう? そこで闇属性魔術の一大系統──呪術の出番ってわけさ」
残り少なくなったステーキを噛みながら、ライラの説明に耳を傾ける。
「呪術は三神獣どもが禁術に定めた魔術系統の一つ。わざわざ禁術指定するくらいだ。そこに何か不都合なものがあるって考えるのが妥当だろう?」
「確かに俺も、呪術の中には不治の呪いもあると聞いたことはある。だがあくまで噂だ。本当にそんな魔術が存在するのか?」
ウィリアムのもっともな疑問に、ライラは自信ありげに笑った。
「アタシゃ会ったことがあるんだよ。いつまでたってもかすり傷一つ治らなかった──不治の呪いを受けた男をね」
「ならば今すぐ呪術書を──」
「まあ待ちな小僧」
目の色を変えて食いつくウィリアムを制止して、ライラが説明を続ける。
「呪術書は今、世界に三冊しか存在しないんだよ。その内の一冊がここ、王都フィニクスにあることは知っていたんだけどねぇ……いろいろと調べたら、その所有者は永遠の魔女ティーナ──二百年以上生き続ける隠居魔術師だってことまではわかったよ」
「永遠の魔女ティーナか……」
「その人強いんですかっ?」
ウィリアムが渋い顔をするのを見て、ワタシは目をキラキラと光らせる。
「いや、永遠の魔女本人の強さはわからないが、彼女の住む場所が厄介なんだ」
「ん? 王都に住んでいるんですよね? なら何の問題も──」
「大ありさ。ティーナが住んでいるのは王都近郊にある幻惑の森──立ち入ったものは誰一人として帰ることのない、正真正銘の魔境なんだよ」
ヒュドラを前にしても笑い、ザレクを討伐すると口にした時でさえ余裕を見せていたライラ。そんなライラでも、幻惑の森の話をする時ばかりは表情は強張り、揺れる紫紺の瞳からは緊張がうかがえた。
「幻惑の森、か……」
一刻も早く復讐を果たし、妹を助けたいと思っているウィリアムでさえ、幻惑の森に入ることに躊躇いを見せる。考えに考えを重ねる熟考の末、ウィリアムは覚悟を決めた。
「リスクはあるが……ザレクを倒す手立てが他にない以上、行くしかないだろう」
「オレ様も賛成だ。正直そんなおっかねぇとこ行きたかねぇが、烙印の期限まであと半月もねぇ……ただ死ぬのを待つなんて御免だってんだ」
首筋にタトゥーのように刻まれたザレクの烙印を忌々しげに叩き、ロクも決意を決める。
「サクラ。おめぇの考えはどうなんだ?」
決意を固めた紫紺の瞳を向けてくるライラに、ワタシは口元を歪めて見せた。
「賛成に決まってるじゃないですかっ!」
誰も帰ってこられない森……きっと強い相手とも戦えるっ!
「そんな面白そうなところ、行かないわけがないでしょ!」
「ふんッ……ったく、相変わらず命知らずな女だねぇ」
ライラは、魔境に挑むワタシたち三人の士気の高さに満足げに頷いた。
「若造ども、こんな中途半端なところで死ぬんじゃないよ!」
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