23.再出発
朝方の激戦を終え、ワタシたちは再び王都へと馬車を走らせていた。御者はいつの間にかいなくなっていたため、今はライラが馬車を動かしている。
「ぐっ……」
ワタシの隣では、気を落ち着かせるためとライラの魔術で眠らされたウィリアムがうなされていた。彼が負った傷も同じくライラの魔術で完治していたが、眉間にはシワが寄り、冷や汗を流す彼の寝顔は見るに堪えない。
「ウィリアムさん。一人目の復讐を遂げたのに辛そうですね」
「ケッ……あたりまえだろ。妹を殺した相手に呆気なく死なれたらやるせねぇよ」
「そうですね」
足を組んで座っているロクは、遠くを見る目でそう言った。彼もヒュドラに子分を殺された身だ。何か思うところがあるのだろう。
「それにそいつぁ過去しか見てねぇ。今守りたいものがねぇんだ」
「でも、ウィリアムさんは復讐が終わった後のことも考えていましたよ」
「そんなんだといざ仇を前にしたときには何の意味もねぇ。それじゃあどれだけ復讐しても気分は晴れねぇよ」
ウィリアムさんが今守りたいものか……。
ウィリアムの苦痛に歪んだ寝顔を見て、ワタシはふと、ある可能性に気が付いた。それを口にするよりも早く、ウィリアムはゆっくりと目を開ける。
「ここは? ……デモンは本当に死んだのか?」
寝起きにもかかわらず、ウィリアムの目元には濃いクマができていた。
「ああ死んだ。間違いねぇ」
抑揚のない声で答えるロクの声に、ウィリアムの金色の瞳からは光が消えていく。
「そうか……」
荷台を包む、雨音だけが響く重苦しい雰囲気。そんなものはお構いなしに、ワタシは思いついた可能性を口にする。
「ウィリアムさん。これはワタシの勝手な憶測なんですけど──」
ワタシの憶測が外れていたら、ウィリアムさんをもっと傷つける。だけど……。
カークスの町でワタシに心を開いてくれたウィリアムが、優等生じゃないワタシの姿を見てもなお頼ってくれたウィリアムが、絶望する顔をこれ以上長く見たくなかった。
……何もせずにはいられない。
ワタシはウィリアムを真っすぐ見て、言った。
「──ウィリアムさんの妹さん、蘇生できるかもしれませんよ」
「それは本当なのか!?」
ワタシの言葉を聞いた途端、今にも死にそうな目をしていたウィリアムが急に立ち上がった。彼はワタシの肩を揺すり、先を促す。
「はい。でもあくまで可能性です」
そう断ってから、ワタシは自分の考えを話した。
「まず蘇生に必要な遺体ですけど、魔物に捧げられた生贄の骨は町に返還されて祀られているはずです」
「サクラ。蘇生魔術に頼ろうってんなら無理だよ。蘇生魔術はそいつが死んでから三分以内でないと効果がないんだ」
御者台で馬の手綱を引くライラから指摘が入る。だが何も問題はない。
「大丈夫です。ワタシが考えているのは蘇生魔術じゃないので」
「ならどうするつもりだ? 蘇生魔術以外に死者を蘇らせる方法などない──」
「ザレクの羽です! ワタシがさっき戦ったモーグって名前の副隊長が『ザレクに羽を使って蘇生してもらった』みたいなことを言いかけていたんですよ」
そう言った途端、ウィリアムは固まった。そしてゆっくりとワタシの言葉を呑み込むと、ウィリアムは嬉し涙をこらえるように潤んだ目を細め、口をわななかせた。
「……っ! だが、ザレクの羽にも蘇生可能な時間に制限があるかもしれない」
「だからこそあくまで可能性の話なんです……でもっ、絶対に蘇生魔術よりは制限時間が長いはずですっ! だって、モーグが死んだときに都合よくザレクがその近くにいたと思いますか? 王国騎士団や魔物づてで聞いてから蘇生に向かったと考える方が自然じゃないですかっ! そうなら三分じゃ足りないですよねっ!」
ワタシが言葉を重ねる度、ウィリアムの目に光が戻っていく。
「……試してみる価値はあると、思いませんか?」
「そうだな……エレナが戻ってくる可能性が微塵でもあるのなら試したい」
ウィリアムは一度目を瞑り、涙を堪える。次に金色の瞳が開かれた時、ウィリアムはいつもの冷静さを取り戻し、優しく微笑んだ。
「ありがとうサクラ。キミのおかげで希望が見えた」
ワタシの両手を握って微笑むウィリアムに、ワタシも少し口元が緩む。
「それは、よかったです」
***
サクラたちが王国騎士団第二隊と激戦を繰り広げた河原──気絶した、もしくは命を落とした三百の騎士たちが横たわる戦場後。
そこでは今──夜空の下、騎士たちは生死にかかわらず、その身体を真紅の業火に焼かれていた。
ファサッ……。
雄大な鳥のシルエットから舞い落ちる真紅の羽が、凍り付いたデモンの遺体の上にそっと乗っかった。すると次の瞬間、顔がつぶれたデモンの足先が、僅かに跳ねた。
***
王城──。
王国騎士団第二隊が全滅して丸二日が経過した頃。右翼のブレイズウルフが眠る部屋の扉が勢いよく開かれた。
「ブレイズウルフ! モーグとアーガスだ。第二隊がボクたち二人を除いて全滅した……だから王国騎士団全軍で奴らを──神童たるこのボクの顔に泥を塗ったあの地味女を殺しにいく許可をッ!」
モーグは栗毛の髪を搔きむしり、鬼気迫る声で叫ぶ。隣にいるアーガスも槍を握る手を軋ませ、奥歯を噛みしめていた。
「貴様ら、我の眠りを妨げておいて言うことはそれだけか? その程度、我が把握できぬとでも思ったか?」
「はあッ!? ならさっさと王国騎士団を動かせよ! ボクは今すぐにでもこのクソみたいな屈辱を晴らしたいんだ! ウィリアムよりボクの方が天才だということを証明して、あの女が無様に泣き叫ぶ声を聞きたいんだよ!」
「黙れ……」
地に響くような低い声を上げ、ブレイズウルフがゆっくりと立ち上がる。
「早くしろブレイズウルフ! ボクは神童。しかもザレク様に直接寵愛をいただいた選ばれし人間なんだ。このボクの命令は絶対──」
シュボッ!
憎悪を隠そうともせずに歪んだ表情は、炎弾によって首ごと消し飛ばされた。
「利用価値すらなくなった愚かな人間など要らん……して、貴様はどうする? 完膚なきまでの敗北を喫した貴様らに、我はどう利用価値を見出せば良いのだ?」
「……っ。俺……は……」
モーグを殺され、逃げ腰になったアーガス。弱気な態度を見せた時点で、ブレイズウルフはアーガスを見限った。
ドンッ!
ブレイズウルフの殺意を感じ取った瞬間、『俊足』のスキルを使って一目散に逃げるアーガス。彼は全身の怖気を振り払い必死に足を動かす。
「やはり人間は愚かで矮小な存在のようだな……」
だが、ブレイズウルフは一切息を乱すことなくアーガスを追い越す。ブレイズウルフはアーガスの正面に回り込み、炎を纏った爪でアーガスの身体を引き裂いた。
「だが、精鋭揃いの第二隊を四人で全滅させた人間か……油断はせぬぞ」
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