22.vsデモン(ウィリアム視点)
「チィッ! おまえはいつもおれの邪魔ばかりしやがってぇっ!」
俺の聖剣を受け、デモンのロングソードは霜を帯びていく。デモンが立つ小石の地面は陥没し、霜はやがて彼の身体を蝕み始めた。
「貴様は俺が、エレナが味わった何十倍もの苦痛を味わわせてから殺すッ!」
腕が凍り付き、顔をしかめるデモン。だが彼は突如、堀の深い悪人面をいっそう邪悪に歪めた。
「スキル『聖剣殺し』ぃッ!」
ピシッ……。
デモンがスキル名を叫んだ途端、聖剣グレイシアに亀裂が走る。
「なっ……!」
直後、聖剣はガラスが割れるような音とともに砕け散った。砕けた刀身は白い光子となって、俺の中へ戻っていく。
そうか……デモンは隊長になった時に三つ目のスキルを……。
「くっ……氷よ、守護せよ。アイスウォール」
俺は咄嗟にデモンとの間に氷の壁を張り飛び退く。刹那、デモンのロングソードは氷の壁を斬り砕き、飛び散った氷の破片が俺の頬を掠めた。
「氷よ、我が手に剣を。アイスソード」
間髪入れずに迫るデモンのロングソードを、俺は生成した氷の剣で受け流す。だが──。
「くっ……『腐食』のスキルかっ……!」
触れたものを溶かすデモンのスキルによって、氷の剣が一瞬で溶け落ちる。
落ち着け……思考だけはやめるな! この憎悪をデモンにぶつけるためにッ!
「氷よ、我が手に剣を。アイスソード」
今度は右手と鞘の中に一本ずつ、二本の氷の剣を生成する。
「無駄なんだよぉ! 聖剣を潰した今ぁ! おまえがおれに勝てるはずがないんだよぉっ!」
岩をも砕く強烈な振り下ろし。甘く入ったその一撃をヒラリとかわし、俺はデモンの間合いの内側へ──。
「かかったなウィリアムっ!」
勝ちを確信した嘲笑を浮かべるデモン。彼はロングソードをバットのように振り上げ、河原の小石を俺に向かって打ち付ける。
打ち上げられた数十の小石。そのすべてに『腐食』の効果が付与されていた。
『俊足』の発動も魔術の詠唱も間に合わないっ……。
スパパパパパパンッ!
氷の剣で、全小石のうち三分の一ほどを斬る。だが俺に、残りの小石を防ぐ手立てはない。
「ぐうっ……!」
『腐食』が付与された小石は俺のローブを溶かし、服を貫き、最後には俺の腹や腕を溶かし始めた。紫色の煙を吐き出しながら俺の身体が溶けていく。肉を焼くような激痛に、俺は片膝をついた。
「いいザマだなぁウィリアム!」
デモンは俺を見下し、俺の頭を鷲掴みにする。俺も痛みを振り払いデモンを睨み返す。次の瞬間、デモンは俺の顔面を地面に叩きつけた。
「ぐっ……!」
「おまえのその顔が嫌いなんだよっ! 自分は謙虚ですって顔しておいて隊長の座を奪いやがるその顔がぁ! どうせおまえはおれらを見下してんだろぉ!」
暗赤色の髪を振り乱し、眉間に深いシワを刻んだデモン。彼はもう一度俺の頭を持ち上げ、地面に叩きつけようとした。
……ここだ。
「ようやく隙を見せたなデモンッ!」
獲物を仕留めるヒョウのごとく金色の瞳を光らせ、俺はデモンの肩を掴んだ。
「ハッ! 何のつもりだぁ? おれの肩を掴んでもおまえの腕力じゃあ……」
そう言って俺をあざ笑うデモンの顔からは、急速に余裕が消える。
どうやら気付いたようだな……だがもう遅い!
「こい……『聖剣グレイシア』」
聖剣と呼ばれる武具はすべて、破壊されても持ち主の魔力を消費して再構築できるという特性を持つ。当然、その特性はグレイシアにも備わっていた。
「カハッ……」
聖剣グレイシアは所有者の手の位置を参照して出現する。そして今、俺の手がデモンの肩を掴んでいることにより、聖剣グレイシアは、デモンの身体を貫く形で構築される。
「ウィィィリアァァアムッ!」
聖剣グレイシアに内臓を貫かれ、身体の内側から凍っていくデモン。彼は激痛に強張る腕で必死に俺の首を絞め、己の喉を潰す勢いで発狂した。
「貴様がッ! 貴様らさえ裏切らなければエレナを逃がせた! エレナは今でも笑って生きていたはずなんだ!」
「ああそうだろうよぉ! あの時立てたおまえの計画は憎たらしいほど完璧だった……だからこそあの計画を壊してやったのさぁ!」
隊服までもが凍り始め、白い息を吐くデモンはなおも嫉妬に狂った目で吠えた。霜焼けた舌を出し、俺を見下した。
「妹が食われるときのおまえの顔、最高だったぜぇ!」
「……っ!」
ズバンッ!
怒りが頂点に達し言葉を失った俺は、鞘に納めていたもう一本の氷の剣でデモンの両腕を断つ。痛みができるだけ多く長く感じられるよう、引き千切るようにしてデモンの両腕を斬り落とした。
「ぐおぉぉぁあああぁぁぁっ!」
「この程度の苦痛で許されると思うなッ!」
俺はデモンの後ろ髪を乱暴に掴み、発狂する口に手を突っ込んで舌を引き抜く。舌と一緒に吹き出す血を浴びてなお、俺の憎しみが収まることはなかった。
許さない許さない許さない許さない……!
俺はデモンに馬乗りになり、白目を剥いた醜い顔を拳で殴り続ける。
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない……!
やがてデモンの頬は凍り付き、眼球も凍って砕けた。──気にせず俺はデモンの顔を殴り続けた。
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さな──。
「ウィリアムさん」
サクラの柔らかな手によって、振り上げた拳を止められる。
「邪魔をするなッ!」
俺は鎮まることを知らない憎しみを吐き出し、サクラの手を振り払った。だがすぐにまた俺の腕は拘束される。今度はロクの逞しい腕によって。
「落ち着いてよく見てみやがれウィリアム!」
拳を振り下ろそうと渾身の力を込めるが『怪力』スキルの前には、腕はピクリとも動かない。代わりに頭突きしようとすると、今度は紫色の光で構築された鎖に全身を拘束された。
「小僧……そいつはもうとっくに死んでるよ」
ライラの言葉に、俺はデモンの様子を確認する。すると確かに、デモンは息をしていなかった。そうとわかった途端、全身の力が抜ける。
もう……終わりなのか? 俺からエレナを奪っておいて、この程度で死んだのか?
顔も判別できなくなるほど殴り続けたデモンは、ピクリとも動かない。
「ふざけるな……エレナが味わった苦痛はこんなものじゃない……楽に死ぬなッ!」
デモンの胸倉を掴んで叫ぶ。だがそれにデモンは一切の反応を示さない。
「オエッ……」
俺はぶつける相手がいなくなった憎悪に胸焼けし、嘔吐した。
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