21.無双
「三流魔術師どもが……このババアが一流の魔術ってやつを見せてやるよ!」
地面に膝をついたウィリアムの隣。ライラが地面についた杖の先端から水が湧き出る。それは曲線を引いて集まり、やがて水晶玉くらいの大きさをした水玉が形成された。
「ウォーターボール? そんな初級魔術で我らのフレイムトルネードに対抗しようなど……あの魔術師、気でも触れたか?」
「若造ども。離れな!」
ライラの指示に従い、ワタシとロクは一度騎士たちとの交戦をやめ、河岸に飛び退く。その瞬間、炎の竜巻に呑み込まれるライラと目が合った。
「いいものを見せてやる」
炎に包まれる直前のライラの目は、そう言っているようだった。
「大丈夫なのかよババア……」
雲にまで届く炎の竜巻を、隣で呆然と見つめるロクは心配を口にする。だがワタシは、炎に包まれた二人の心配などしていなかった。
ライラさん。今度はどんな魔術を見せてくれるんだろう?
ワタシは目をキラキラと輝かせ、魔術の発動を待ちわびる。
もっと魔術について知りたい! たとえ自分で使えなくても、いずれはライラさんみたいな強い魔術師とも戦って、そして勝てるようになりたいっ!
「ライラさんの魔術、楽しみですねっ!」
ワタシの一言に、ロクは心配そうに細めていた目を逸らした。
「ケッ……あんなクソババア、死んでくれた方が清々するぜ」
「ロクさんは素直じゃないですね」
「うるせぇ──」
「キイィィィイイィィィッ!」
ライラとウィリアムが炎の竜巻に呑み込まれてから約十秒。ロクの声と重なるようにして、ライラの魔術が発動した。人間のものではない甲高い叫び声が響き渡ると同時に、世界を赤く染め上げていた炎の竜巻は一瞬にして霧と化した。
「バ……カな。大精霊の疑似召喚……だと!? これほどの大魔術を一人で……ありえない。魔術師を二百人以上使い潰さねば発動できぬ大魔術だぞ!」
ライラの横に浮かぶ人に近い形を取った水に、魔術師団の誰もが目を疑い腰を抜かす。その様子に、ライラはすかした顔で鼻を鳴らした。
「ふんッ……これが魔術だ若造ども! 冥土の土産だ。しっかりと目に焼き付けな!」
「キイィィィイイィィィッ!」
再び響く甲高い声に呼応するように、魔術師団員の身体から大量の水があふれ出す。
「ガボッ……」
「何だこれガフッ……」
「息がっ……」
喉や毛穴、目。至る所からあふれ出した水は、水を出した本人に纏わりつき楕円形の膜を張る。どんなに足掻こうと分厚い水の膜から逃れられるものはおらず、やがて魔術師団は誰一人動かなくなった。
「なにが、起きたんだ……?」
指揮を執っていた栗毛の青年が顎をガクガクと震わせ絶句する。ウィリアムを囲んでいた周囲の騎士たちも金縛りにあったかのように動かない。
「ライラさん。今のって……」
ロクと一緒に、ライラとウィリアムの元へと駆けつけ問う。するとライラは魔術を解き、大精霊をただの水に戻した。
「対象の魔力を水に返還して操る魔術だよ。魔術師殺しってやつさ」
それって強過ぎないっ!? 魔力を持っている人にとって発動されたら終わりの即死魔術……ワタシ、魔力持ってなくてよかったぁ……。
改めてライラの強さに感心していると、ワタシの隣で蹲っていたウィリアムが急に立ち上がった。
「助かった」
たった一言を残し、ウィリアムは再びデモンへと斬りかかる。
「こい……『聖剣グレイシア』」
「畜生ッ! ウィリアム! おまえ、なんて化け物仲間にしてやがるんだ!」
今度はウィリアムと正面から打ち合うデモン。彼はロングソードでウィリアムの攻撃を受け止めながら、部下に指示を出した。
「モーグ、アーガス! おまえたちはなんとしてもあの化け物魔術師を仕留めろぉ!」
「「了解」」
モーグと呼ばれた栗毛の青年は他の騎士を指揮し、自らも剣を掲げる。対してアーガスと呼ばれた前髪で目元が隠れた槍使いは、地を這うように疾走し、誰よりも早くライラに肉薄した。
この速さ……もしかしてウィリアムさんと同じ『俊足』のスキル!?
アーガスの前では五十メートル程度の距離など一瞬で潰された。
「チッ……小僧が──」
魔術師であるライラでは、目で追うのが限界。
ズザッ……!
音をも置き去りにするスピード。それを一瞬で殺しきったアーガスは、殺した推進力をすべて槍に乗せ、突き出す──。
速い……でもなんでだろう……。
「見えるっ!」
キィィィンッ!
ワタシは剣で槍を側面から叩き、軌道を逸らした。
よしっ! ワタシもちゃんと成長してるっ!
「……っ!?」
無邪気に笑うワタシの前で、前髪の隙間から覗くアーガスの目が見開かれる。軌道を逸らされた刺突は衝撃波を引き起こし、ワタシたちの背後から迫っていた騎士たちを吹き飛ばす。
「アーガス副隊長の最速の突きを流した!? まずいですよモーグ副隊長! こいつら全員化け物──ぐハッ……!」
「おらおらおらぁッ!」
ロクはロクで暴れていた。彼は熊のような体躯と『怪力』スキルをふんだんに使い、全身に重い鎧を纏った重騎士装備の大男をハンマー投げの要領で振り回し、近くの騎士を片っ端からなぎ倒していた。
「皆一度引け! 体制を立て直すんだ!」
騎士たちを指揮するモーグの頬を冷や汗が伝う。指示に従いモーグの横に戻ったアーガスも、己の最高の技を見切られたことによる動揺が収まらない。王国騎士団第二隊が誇る二人の副隊長は、そろって顔を青ざめた。
「ああもうなんでだよ! ウィリアムの時代は終わったんだよ! 神童たるこのボクを差し置いて歴代最年少で隊長就任? ふざけるなッ! この世に天才はボク一人でいいんだ! ボク一人だけのはずなんだ……」
モーグはヒステリックに声を上擦らせ、栗毛の頭を掻きむしる。彼はデモンと斬り合うウィリアムを血走った眼で睨んだ。隣でアーガスもウィリアムに憎悪を向ける。
「俺より速いやつ……許せない……」
「あなたたちはそんなことでウィリアムさんを裏切ったの?」
自分でもびっくりするくらい冷たい声が出た。身体中に騎士たちの返り血を浴びたワタシは、心からの軽蔑を込めてモーグとアーガスを見据える。
突如目の前に現れたワタシを見て、モーグの肩が跳ねた。
「おまえいつの間に!? ……っ、アーガス!」
モーグの焦った声に、固まっていたアーガスが我に返る。
ズドドドドッ!
直後、ゼロ距離から放たれる音速の刺突。マシンガンのごとく連続で迫る音速の槍はしかし、どれも精彩を欠いていた。半分以上の刺突は避けるまでもなく当たらない。ワタシは残り半分の刺突を受け流し、前進した。
バリンッ!
ワタシは顔の正面、甘く入った刺突を見切り、槍先を素手で掴んで握りつぶした。
「そんなつまらない嫉妬で、ウィリアムさんの妹を奪ったの?」
手から流れた血と一緒に、槍の破片を横に捨てる。
「ありえ……ない……」
槍を砕かれたアーガスは膝から崩れ落ち、放心した瞳で天を仰ぐ。
「なんでなんでなんでだよっ! どうしておまえみたいな地味でチビな女が王国二位の速さを誇るアーガスの槍を防げるんだよっ!」
ワタシと身長が大して変わらないモーグは、ワタシを近づけまいと一心不乱に剣を振り回し後退る。だが彼の剣には技の片鱗すらなく、側面から蹴り折ることは簡単だった。
バキンッ!
「ありえない……ありえないありあえないありえない! ボクはザレク様の神々しき羽で蘇──」
ワタシが漆黒の瞳を向けると、たったそれだけでモーグは口から泡を吹き倒れた。
今回の戦闘はあんまり楽しくなかったな……ロクさんたちも騎士を全滅させたみたいだし、あとはウィリアムさんのところだけかな。
ワタシは深くため息を吐き、ウィリアムとデモンが戦っている河原に目を向けた。
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