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魔物が神聖視される世界に転生したら、ワタシは【戦闘狂】に目覚めました〜生贄から始まる狂戦士無双〜  作者: 冬哉


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18.脱出

「通路に逃げるぞ! おそらくこの崩落は通路の先まで影響しない」


「わかりました」


 ウィリアムの瞬時の判断にワタシも従おうとしたその時──。


「待ってくれ! 私たちを置いていかないでくれ……」


 逃げようとするワタシたちの後ろ髪を引いたのは、クハに従わされていた兵士たち。十数人いる彼らは今、一人を除いて動くことができない。


「……っ! ダメだ。彼らは助けられない。彼らを助けようとすれば俺たちも……」


 ウィリアムは見ず知らずの人も気遣える優しい人だ。だからこそ、この判断は彼にとって究極の二択と言えるだろう。兵士たちに背を向ける彼からは悔しさがあふれ出す。


「俺には、復讐を果たすという使命があるんだ……」


「頼む助けてくれ! ようやく五年ぶりに家族と会えるってところなんだよ……頼むから助けてくれよ……」


「……っ!」


 ウィリアムは足を止め、兵士たちを振り返る。そのとき、彼の頭上に自動車ほどの大岩が落下する。


「ウィリアムさんっ!」


 ズバンッ!


 ワタシはウィリアムに駆け寄り、大岩を真っ二つに叩き斬る。しかしそれと同時に、ワタシの拙い技量で無理をさせ続けていた剣が悲鳴を上げて折れた。


 嫌だ……ウィリアムさんとは模擬戦をしてみたいし剣の技も見せてもらいたい。だから、ここでウィリアムさんを死なせるわけにはいかないっ!


「すまないサクラ、助か──」


「ウィリアムさんはここにいる全員を助けたいんですよねっ? だったら今すぐ魔術で氷の坂を作ってくださいっ!」


「サクラ……?」


 クハが死んでアドレナリンはとっくに切れた。そのせいで身体中の痛覚が戻ってくる。死んだ方がましとさえ思える激痛に顔を歪めながら、それでもワタシは声を張り上げた。


「早くしてっ! じゃないとみんな死ぬよ!」


 怒鳴り声を上げるワタシに、ウィリアムは数瞬戸惑った。けれど彼はすぐにワタシの意図に気付いてくれた。


「……そういうことか!」


 ウィリアムはすぐに目を閉じ、詠唱を始める。それを見てワタシは、兵士たちが倒れている場所に走った。


「氷よ、生まれ現れよ。アイスボーン」


 ワタシの後を追うように構築されていく氷の坂。それは滑らかな傾斜を持って、ワタシと通路の間を埋める。


「いつでもいいぞ!」


 ウィリアムが叫ぶ。それを合図に、ワタシは一番近くに倒れていた兵士を氷の坂へと放り投げた。


「うわぁああっ!」


 ワタシが放り投げた兵士は勢いよく坂を滑り、通路へと吸い込まれていく。その様子に目もくれず、ワタシは次々と兵士を氷の坂に放り投げた。


「ひいぃぃっ!」


「おわっ……!」


 よく見ると氷の坂の表面は少し濡れていて、兵士たちは巨大ウォータースライダー並みのスピードで通路へと吸い込まれていく。


 この人で最後っ……。


 最後の一人を放り投げ、ワタシも氷の坂に飛び込む。同時に、天井が限界を迎えた。


 間に合って!


 落下してくる大質量の土砂や岩。仰向けで氷の坂を滑るワタシは、天井が落ちてくる恐怖に目を閉じる。


 間に合わない……死ぬっ!


「氷よ、槍と成りて貫け。アイスランス!」


 ウィリアムの詠唱が、先が丸い氷の槍となってワタシの背中を押す。そのおかげでワタシは加速し、通路の床を転がった。


「いたっ……」


 その直後、身体の芯に響く轟音を轟かせ、地下の巨大空間は完全に崩壊した。


***


「私たちを救ってくれてありがとう。ここにいる兵士を代表して感謝する」


 地上に戻ったワタシたちは、旧カークス教会の中で感謝された。片足を引きずった兵士が、騎士然とした礼をする。


「息子と夫を救っていただき、本当に感謝の言葉もございません。どうお礼をしたらいいか……」


 崩落した巨大空間の近くに囚われていた女性の一人が、男の子を抱きしめながら涙を流す。そんな彼らに、ウィリアムは頭を下げた。


「すまなかった。俺はあの崩落の時、あなた方を見捨てようとした。自分だけ助かろうとあなた方から目を逸らした。本当にすまない」


「おいおい顔を上げてくれ。おれたちはこうして救われたんだ。感謝こそすれど、謝られる筋合いはないぞ」


「その通りだ。最終的にあなたたちは我々を救ってくれた。胸を張ってくれ」


 終わらない感謝の言葉がワタシたちを讃える。そんな時、崩れた壁の隙間から朝日が差し込んだ。


「ウィリアムさん。そろそろ行かないと……」


「そうだな。ライラたちとの約束まであまり時間がない」


 それもそうだけど。そんなことよりとにかく痛い……もう本当に身体中が痛すぎるっ! 無茶したワタシの自業自得なのはわかってるけど痛すぎる……早くライラさんに魔術で治してもらいたい!


 朝日にさらされて痛みを思い出したワタシは、歯を食いしばって痛みに耐える。


「もう行ってしまわれるのですか? せめて何かお礼を……」


 痛い痛い痛い……早く行かせてよっ!


「そういうのいいですからっ! ワタシたち急ぐので……行きましょうウィリアムさ──」


 早くライラの元へ行きたくて、急に身体を動かしたのが悪かった。ひと際大きな激痛に、ワタシの身体は限界を迎えた。身体は言うことを聞かず、視界は暗転し、ワタシは地面に倒れる──。


「サクラッ!」


 その寸前、地面すれすれでワタシの身体を受け止めた柔らかい感触。それはウィリアムの腕だった。


「大丈夫かサクラ! 返事をしてくれ!」


「だい……じょうぶですよ。ちょっと……怪我しすぎただけ、です……」


 全然大丈夫じゃないワタシの様子を見て、ウィリアムはワタシを抱えたまま立ち上がる。


「すまない。俺たちはここで失礼する」


 助けた者たちの返事も待たず、ウィリアムは走り出す。


「治癒術師は新しい方の教会に──」


 後ろから上がる声を置き去りにしてカークスの町を駆けるウィリアム。彼の揺れる金色の瞳には、不安と焦燥の色が浮かんでいた。


「どうして……キミはあんな無茶な戦い方ばかりするんだ! もっと自分を大切にしてくれ……」


「だって……楽しいから。戦闘が楽しいから……痛みなんてどうでもよくなって、ただ勝ちたいって思うんです。そうしたらもう、身体が勝手に動いてて……」


 薄っすらと瞼を開いて微笑み、ワタシは細々とした声を上げる。ウィリアムと目が合うと、彼は全力疾走しながら苦笑した。


「サクラは、そういう女の子だったな」


 そう言うとウィリアムは視線を前に戻し、落ち着いた声を上げた。


「ライラたちが見えたぞ。もう少しだ」


 ウィリアムに抱えられ、朦朧とする意識の中、ワタシは無機質な音声を聞いた。


「スキル『狂戦士化』のレベルが十になりました」


「スキル『見切り』のレベルが八になりました」


「スキル『剣術』のレベルが九になりました」


「スキル『蹴術』のレベルが六になりました」


「スキル『空中歩行』のレベルが四になりました」

******

8日から12日までは、時間不定で毎日一話ずつ投稿します!


******


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