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魔物が神聖視される世界に転生したら、ワタシは【戦闘狂】に目覚めました〜生贄から始まる狂戦士無双〜  作者: 冬哉


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16.三度目の死闘

 とある渓谷──。


「そうか。ヒュドラは死んだか」


 魔術によってイモルター王国王城と通話していたのは、全身を赤い羽で覆った強大な鳥型の魔物──不死鳥のザレクだった。


「して、奴を殺したのはやはり……」


「はい。元王国騎士団第二隊長のウィリアムです。奴に加え、他にも三人の人間が同時に果ての牢獄を脱獄しております。特にサクラと名乗る者は──」


「他の者などどうでもよい。貴様は至急ウィリアムを捕らえよ。我が名において王国騎士団を使うことも許可してやろう」


 そう言ってザレクは、さぞつまらなそうに通話を切った。その魔物らしからぬ金色の瞳は、遊び終えた奴隷を殺す悪徳貴族のように冷めきっていた。


「つくつぐ……人間という生き物は度し難いものよな」


 ザレクは眼下に佇む青髪の少女を蔑視して、羽を休めた。


 ザレクを前にして無表情を貫く青髪の少女の緑色の瞳は、死んだ魚のようだった。


***


「ヒュドラめ……ザレク様に賜った役目も全うできずに死ぬとは、とんだ愚図だな」


 ザレクとの通話が終わると、全身に炎を纏った赤毛の巨狼が愚痴を漏らす。


「奴は実力こそ我と同格だったが、あまりにも知性が低すぎた。あれならば、実力も知性も申し分ない地方都市を支配するエリートどもの方が幾分ましだ。少人数相手に戦うのならば、確実にエリートどもの方が強いだろう──特にカークスのハイオーク。奴は──」


「よおブレイズウルフさんよ。本当なのか? ウィリアムのやつが脱獄したって話」


 突然、巨狼──右翼のブレイズウルフがいる神聖の間の扉が雑に開かれる。そこから現れたのは、堀の深い顔にだらしなく伸びきった暗赤色の髪を持つ老け顔の中年男性だった。


「デモン貴様、いつから盗み聞いていた? 至高なるザレク様との会話を盗み聞くなど──」


「まあ細かいことはいいだろう……それより、さっきの話がマジなら、ウィリアムを殺す役、おれにやらせてくれないか? ──奴を最初に裏切ってみせた、このおれに」


 ウィリアムを陥れ、今や第二隊長にまで上り詰めたデモン。彼は鈍い灰色の瞳を邪悪に光らせ、野性的な笑みを浮かべた。


***


「これ……扉?」


「ああ。おそらくこの先にハイオークがいるのだろう」


 旧カークス教会の地下。その最奥に設置された扉はあまりにも巨大で、それが壁ではなく扉だと認識するまでしばしの時間がかかった。


「開くぞ」


「はいっ!」


 何はともあれ、念願の戦闘が始まる。そう思った途端、ワタシの鼓動は恋する乙女のごとく高鳴った。


 スパンッ!


 ウィリアムは扉の一部を斬り、蹴り崩した。


「やはり来たか、人間ども」


 だだっ広い部屋の奥。三匹のオークがそろってワタシたちを睨む。内一匹は、他の二匹が二メートルくらいの身長であるのに対し、その倍近くの体躯を持ち、食い散らかした人骨の山にふんぞり返っていた。


「あなたがハイオークのクハで合ってる?」


「様を付けろ人間! クハ様の前で図が高いぞ」


 どうやらひと際偉そうなやつがクハで間違いないらしい。そうとわかった途端、ワタシは真紅の狂気を双眸に宿し、クハを含めた三匹のオークへと突進していた。


「待てサク──」


 まずは邪魔なオーク二匹っ!


 フェイントを織り交ぜ、オークが持っている大剣を空振らせる。その隙を突こうと、ワタシは腰だめに剣を構えた。その時──。


「やれ」


 ハイオークの短い一言に呼応して、人骨の山の裏から現れた十数人の兵士がワタシに向かって矢を放った。


「えっ……?」


 ワタシの命を刈り取ろうと迫る矢。突然の出来事にワタシの頭は一瞬真っ白になる。その遅れが、矢を不可避の攻撃へと変えた。


「サクラッ!」


 『俊足』スキルを発動するウィリアム。だが彼の行く手はもう一匹のオークによって妨げられる。まさに絶体絶命。


「こういうの……やっぱり楽しいっ!」


 ワタシはこの絶望的な状況に妖しく嗤う。


 ズバンッ!


 狂戦士としての直感が、防御よりもオークへのとどめを優先した。斜めに斬り上げた剣がオークの胴体に致命傷を与え、ワタシの身体を矢が貫く。


「いっっ……!」


 腕や足、肩や腹に突き刺さる矢。そして最後の一本は、剣を握るワタシの右手を貫いた。致命傷は避けたが、右手はもう使い物にならない。


 カラン……。


 窮地は終わらない。ワタシの手から剣が滑り落ちる音を合図に、兵士たちの手から一斉に第二射が放たれた。


***


 俺はもう、エレナのように誰かを失いたくない……。


 目の前のオークの攻撃をいなし、頭部を貫く。しかし、それでもなお動きを止めないオークに足止めされる。オークの肩越しに見えるサクラの全身には惨たらしく矢が刺さっていた。


 あれではまともに動けないっ……。


「早く……そこをどけっ!」


 スキル任せの乱れ切り。オークの胴も腕も足も大剣も斬り刻みサクラの元へ走る。だが──。


 ヒュンッ!


 俺がオークを倒すより一足早く放たれていた十数本の矢が、剣を落としたサクラに襲い掛かる。


 間に合わない……また俺は間に合わないのか? あと少し……ほんの一秒でいい。今もあの時も、ほんの一秒あれば間に合ったはずなんだ!


 手を伸ばしてもサクラには届かない。無力な自分を呪い、奥歯が砕けそうなほど歯を食いしばる。絶望に見開かれた金色の瞳は、受け入れがたい現実を拒むように閉じられた。


 カンッ!


「……!? 何が……」


 金属同士がぶつかる甲高い音に驚き、俺は恐る恐る目を開ける。信じられないことに、サクラは左手で剣を拾い、その剣で矢を弾いていた。もちろんすべてではない。弾いていたのは頭や急所に向かっていた矢だけだった。


「アッハハッ! 今のは危なかったよ! 楽しませてくれるねっ!」


 サクラが一度目の矢に打たれてから二十秒にも満たない時間。永遠にも感じられた時間の先で、サクラは心底楽しそうに嗤っていた。


 そうして彼女は足や脇腹を矢に貫かれながらも兵士たちに突撃する。次々と生傷を増やすサクラ。普通なら全然安心できないようなこの光景に、なぜだがほっとする自分がいた。


「……っ!」


 サクラが生きてる。


 うれしさのあまり涙が出そうになる。しかしここは戦場。泣いている暇はないと自分に言い聞かせ、俺はサクラの援護をしようと駆け出した。

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