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魔物が神聖視される世界に転生したら、ワタシは【戦闘狂】に目覚めました〜生贄から始まる狂戦士無双〜  作者: 冬哉


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14.刺客

 ウィリアムさん、急にどうしたんだろう……まあいいか。寝よっと。


 ウィリアムの心の内を聞かされた後、ワタシは眠ろうと布団を口元まで被る。だが──。


 カタッ……。


 部屋の入り口付近で鳴った小さな音が、ワタシを眠らせてくれなかった。その音は明らかに作為的で、誰かがワタシたちの部屋に侵入しようとしている音だったからだ。


「誰っ?」


 ベットの下に置いていた剣を取り跳ね起きる。一瞬ウィリアムの様子を確認すると、昨日までの用心深さが嘘のように熟睡していた。


 ……まあ、楽しみを独り占めできるからいいんだけど。


 気を取り直して侵入者がいる扉の方を見ると、人影がこちらに近づいてきた。ワタシが構えた剣の先が侵入者に触れるかどうか。そこまで距離を詰められてようやく、月明かりが侵入者の顔を照らし出す。


「よお! また会ったな」


 字面とは裏腹に、何の抑揚もない声がした。だがその仏頂面を見ても、ワタシはすぐにはピンとこなかった。


「えっ? 誰ですか?」


「もう忘れたのか? 昼間正門で会っただろう」


 つばの付いた帽子で目元は見えない。だが彼をよくよく見てみると、ワタシの記憶の中から一人、心当たりが見つかった。


「ああ、あなたは確か……門兵さん」


 女性の髪を食べるガリスがキモすぎて忘れていた。カークスの町に入るとき、通行料の代わりにワタシの顎を持ち上げてセクハラしようとしてきた門兵。それが、今目の前にいる男だった。


「それで、兵士さんがこんな夜遅くに何の用ですか?」


 剣先を向けたまま、ワタシは口角が上がりそうになるのを我慢して門兵に問う。すると彼は、昼間の槍ではなく、室内戦に有利な短剣を取り出し弄ぶ。


「心当たりがあるだろう。貴様らは今日、密売人を一網打尽にしたそうだな? 魔物様はそんな勇士の姿を一目拝みたいそうだ」


 至って真面目に話す彼に、ワタシは笑いを堪えることができなかった。


「ハハッ。嘘が下手すぎますよ……客人を招くためにどうして短剣を取り出したんですか? それにあなた、本当に昼間の門兵さんですか?」


 目の前に立っている男が纏っている雰囲気が、昼間のいやらしい門兵のものとあまりに違いすぎた。それに何より──。


 スパンッ!


 つば付き帽子を斬り落とす。そうして露わになった彼の双眸は赤く、白目の部分は黒くなっていた。


「その目の色。やっぱりあなたは魔物──」


 キイィィィンッ!


 ワタシが言い終わるより早く、短剣がワタシの首めがけて振り抜かれる。不意の一閃に、ワタシはなんとか剣を滑り込ませた。


 ミシミシミシッ……。


 だがその膂力は到底人間の受け止められるものではなかった。剣を握るワタシの両腕が一秒と持たずに悲鳴を上げる。


 受け止めきれないなら……流すっ!


 その瞬間、脳裏に浮かんだのはウィリアムの剣技。密売人の剛腕を受け流した流麗な動きを鮮明に思い出し、なぞる。短剣を滑らせ、ワタシは魔物の背後を取った。


「なに!? 人間ごときが何故これほど強──」


 一閃。振り向きざまに放った一撃は、正確に魔物の首を斬り落とした。


「……よしっ! できたっ!」


 できることが増えるのは楽しいねっ! ゴリ押しもいいけど、これからはもう少し技も使っていきたいな。今度ウィリアムさんに頼んでいろいろ見せてもらおうかなっ。


 一人剣を握り締めて歓喜する。しばらくして気持ちが落ち着いてくると、ワタシの目には床に転がった魔物の首が映り込んだ。よく見るとそれは、黒い本物の皮膚の上から、人の皮のようなものを貼り付けた構造になっていた。


「まさかこれ、本物じゃないよね……?」


 ワタシは恐る恐る首を覗き込む。


「これは正真正銘人間の皮膚だ。この皮膚の元所有者から生きたまま剥ぎ取った」


 喋った!?


 ワタシの肩がビクッと跳ねる。男のフリをした魔物の首に近づけていた顔を慌てて引っ込める。驚きこそしたがただ虚を突かれただけ。意識せずともすぐに冷静さは戻ってくる。


「その状態でまだ生きてるの?」


「当然だ。我らオークは人間ごときが推し量れるほど脆弱ではない」


「そう……でももう動けないんでしょ? なら最後に一つだけ答えて。どうしてワタシたちを狙ったの?」


 ワタシに敗者をいたぶる趣味はない。脅しの意味もあるが、答えてくれたならすぐに楽にしてあげようと思い、ワタシは剣を構えた。


「貴様らが捕まえた密売人たちは我らが主──ハイオークであらせられるクハ様にとって重要な存在だったからだ。クハ様は食欲旺盛なお方だ。彼らが違法に捕らえた奴隷たちを食らうことで、クハ様は空腹を満たしておられたのだ」


「そう……教えてくれてありがとうね」


「待ってくれ!」


 今にも剣を振り下ろしそうになっていたワタシを、オークは大声で止めた。


「まだ何かあるの?」


 戦闘不能になった相手を一方的に殺すの、ちょっとだけ辛いんだよね。だから早く終わらせたいんだけど……。


「貴様に伝えねばならないことがある」


「なに?」


「我が主にして、ここカークスを支配する者──クハ様の居場所と、この町に住む我らオークの総数だ」


 どういうことかな……罠ってこと? まあいいか。罠であろうと本当であろうと、行けばきっと楽しい戦闘ができるだろうからねっ!


 沈んでいた気持ちが少し、期待に上書きされる。お出かけするのを待ちきれない子供のように、ワタシはオークを急かした。


「早く教えてっ! ワタシ信じるからっ!」


 怪しさ満点の言葉を、しかもその内容を聞く前から信じると断言するワタシに、オークといえどその声には戸惑いが混じっていた。


「……わ、わかった。教えよう」


***


 翌朝。と言っても眠ったのが明け方だったため、ほとんど昼なのだが──。ウィリアムが起きるとすぐに、ワタシは昨夜のオーク襲来について話した。


「そんなことがあったのか……すまない。気を抜くだなんてどうかしていた」


「いいですよ。ずっと気を張り続けていたらいつか倒れますから」


「そう……だな」


 ワタシは気にしてないというのに、それでもウィリアムは肩を落とす。でもワタシは彼に気を遣わない。ただ傍若無人に、やりたいことを述べるだけ。


「それよりも次です。ウィリアムさんっ! 早速ハイオークがいるっていう旧カークス教会の地下室? ってところに行ってみましょうよ!」


 どれほど楽しい戦いができるのか。そんな期待を膨らませれば当然声も弾むというもの。ドアノブに手をかけ、ウィリアムを振り返るワタシの顔はきっと笑っていたに違いない。


 ワタシと目が合うと、落ち込んでいたウィリアムの表情も少し明るくなった。


「ああ。昨日は見苦しいところを見せてしまったからな。今度は俺がキミに付き合おう──と言いたいところだが、まずはそこにあるオークの死骸をどうにかしようか」


「あっ……忘れてました……」


 冷静に優先順位を示したウィリアムに、ワタシは照れ笑いを返す。そうしてワタシは死骸の前へと引き返した。

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