12.奴隷密売人
「ゴーゴス! そこの兄ちゃんにここに来たことを後悔させてやれ」
黒コートの男が指示を出す。それに応えて、ゴーゴスはウィリアムに殴りかかった。
ブォンッ!
対してウィリアムは、鞘に納めたままの剣でゴーゴスの剛腕を受け流し、流れるような動きでゴーゴスの背後に回り込む。それと同時に、ウィリアムは鞘に納めたままの剣を振るった。
「ぐおっ!?」
ウィリアムの動きに置いて行かれたゴーゴスは呆気なく気絶。ウィリアムは気絶したゴーゴスを一瞥し、黒コートの男に向き直る。
「なっ!? ボスどうしやす──」
焦った声を上げるガリス。その視線を向けた先では、既にウィリアムがボス──黒コートの男に一撃を入れていた。
「ぐっ……」
やっぱりウィリアムさんは強い……スキルももちろん強いけど、それだけじゃない。相手の意表を突くのが上手いな。
「ボスまで……なんなんだよおまえェッ! こっ、こいつがどうなってもいいのかぁ!」
仲間を瞬殺したウィリアムの金色の瞳に見つめられ、ガリスはパニックを引き起こす。ウィリアムにムチを投げつけ、ワナワナと震えた手でナイフをワタシの喉に突き付けた。
相手の意表を突く、ね。こういうことでいいのかなっ!
バリンッ!
瞬間、ワタシの血液とともにナイフだった金属片が舞う。
「ハアッ!? ありえねぇだろ!」
ワタシは口元を歪ませ、突き付けられたナイフを嚙み砕いたのだ。
人質という最後の勝機を失ったガリスに、ウィリアムは剣を振り下ろした。
「キミは相変わらず無茶なことをするな」
「そうですか?」
苦笑するウィリアムは剣を抜き、ワタシや後ろの子供たちの枷を斬った。それからウィリアムは何も言わずに剣とローブを渡してくる。ワタシはそれらを身に着け、ガリスを他の密売人が気絶しているところまで運んだ。
「ウィリアムさん。ロープか何かありませんか? 一応密売人たちを縛っておきたいんです」
するとウィリアムは手枷や首枷についた鎖を持ち上げる。
「それならこの鎖を──」
首筋に悪寒が走る。同時に、ウィリアムは鋭い声を飛ばした。
「下がれサクラ!」
間髪入れずに飛び退く。
「……っと」
刃が足を掠める。一瞬動きが鈍る足でなんとか着地。それと同時にワタシは剣を引き抜いた。
「テメェら……さっきはよくもやってくれたなァッ!」
目を血走らせたガリスは右手に剣をダラリと下げ、吠える。フラフラと左右に揺れるようにして接近するガリス。だが、ワタシが感じた悪寒の元凶はこんな小物ではない。
シュンッ!
「がはッ……」
一瞬。──瞬きにも満たない僅かな時間。突如現れた一筋の銀光はガリスの心臓を突き抜け、ワタシの頭を掠める。
「へぇ……それ、この世界にもあるんだ」
頭から流れる血で右目を染めたワタシは、期待に顔を歪ませる。狂戦士と化したワタシが真紅の瞳で見つめたものは、黒コートの男が構える拳銃だった。
「おまえ、これを知っているのか?」
「似たような物はね。そんなことより早く戦おうよっ! もう我慢できないっ!」
言うや否や、ワタシは一直線に黒コートの男に飛び込む。フェイントの二連撃。そこから本命の横薙ぎ。ワタシの剣は正確に男の拳銃を弾き飛ばした。
だがそれでもワタシは油断せずに追撃を仕掛ける。その時、男は反対の手でもう一丁の拳銃を取り出した。
パアァァンッ!
「それはもう見たよっ!」
音を置き去りにして眼前に迫る銃弾。ワタシはその極小の的を正確に蹴り飛ばした。
パリンッ!
蹴り飛ばした弾丸は天井で跳ね返り、男の拳銃を破壊する。拳銃のパーツが舞い散る先で、黒コートの男は瞼も唇も震わせて戦意を喪失した。
「ありえない……銃弾を蹴るなど、人間には不可能な芸当だ。おまえはなんなんだ? 世界にはまだこんな化け物がいるのか……?」
両膝を突き、黒コートの男はうわ言をブツブツと並べ立てる。最後にウィリアムが彼の意識を奪ったことによって、この一件は幕を閉じた。
***
「キミも無事か?」
ウィリアムが囚われていた赤毛の女の子に手を差し伸べると、彼女は紫色の唇を震わせてウィリアムに懇願した。
「わたしよりも二人を──弟たちをお願いします……もうずっと眠ったままなんです」
少女の言葉に、ワタシとウィリアムは目を見合わせる。ウィリアムはワタシに少女を預け、少女の弟二人の呼吸を確かめる。
「大丈夫だ。二人の呼吸は安定している」
そう言って二人を抱えるウィリアムの姿を見て、少女は胸を撫でおろす。少女は安堵のため息を吐き、精神的疲労も相まって涙を流した。
***
「本当にありがとうございました。娘たちを助けていただいて、もうなんとお礼を言ったらよいか……」
「お礼なんていいですよ。ついでだったので」
それだけ言って少女やその家族と別れる。子供たち三人を親元へ送り届けた帰り、ワタシたちは衛兵の詰め所に立ち寄った。
「これが今回の報酬だ。確認してくれ」
衛兵から、違法奴隷密売人に懸けられていた賞金が詰められた皮袋を受け取る。その額は金貨百五十枚だった。
「ワタシこの世界の基準が分からないんですけど、これってもう馬車代には十分ですよね?」
「そうだな」
無感情に答えるウィリアムに、ワタシは立て続けに質問した。
「ちなみに金貨百五十枚ってどのくらいの価値なんですか?」
「……いいたとえかはわからないが、平民が一年間生活するために使う金貨は五十枚ほどだと聞いたことがある」
じゃあこれがあれば三年は遊んで暮らせるってこと?
「結構な大金ですね……」
「そうだな」
会話が続かない……。
「もう夜中ですし、とりあえず宿でも探しましょう」
「宿なら昼間、大通りのはずれで見た。案内しよう」
「お願いします」
***
「二部屋? こんな時間に二部屋も空いてるわけないでしょうが! 一部屋だけ空いてるからそこを使ってくださいよ」
直前まで寝ていたらしい宿屋の女店主が不機嫌な声でそう言った。
「一部屋か……なら俺は外で寝るとしよう」
「いやいいですよ同じ部屋で」
男と二人。全く気にならないわけじゃないけど、そう気にすることでもないでしょ。
「いいのか? 俺は男なんだぞ。キミを襲うかもしれない」
「ワタシ、ウィリアムさんになら襲われてもいいです」
ウィリアムさんと全力で戦いたいからね。ウィリアムさんが襲ってくれれば戦う口実ができるんだけどなぁ……。
そう思ってウィリアムの顔を覗くと、彼の頬は少し紅潮していた。
「それは……キミは俺をからかっているのか?」
「ん? 別にからかってるわけじゃないですよ。まあ、ウィリアムさんはそういうことをしない人だと思いますけど」
「……っ!」
柄にもなくたじろぐウィリアムに首を傾げる。そんなやり取りを見ていた宿屋の店主はこれ見よがしに大きく息を吐いた。
「そこのバカップル。一部屋でいいんだろ? これが鍵、部屋は二階の一番奥だ。代金は二人合わせて一泊銅貨二十枚」
「……ああ。わかった」
照れ隠しのためか、ウィリアムは素早く支払いを済ませ、部屋に向かって歩き出す。その後ろ姿からはもう、心の壁を感じなかった。
「はぁ……あたしも早く彼氏欲しー……」
後ろから聞こえた店主のぼやきは、ワタシたちの耳には届かなかった。
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