38.
庭に重い静寂が落ちた。
鳥のさえずりさえ遠くから聞こえる。重い空気が三人を包む。
ロザリンの胸に冷たい予感が走る。彼女の視線は、テーブルの縁をきつく握っているマクシミリアンの手に吸い寄せられる。
「ロザリン嬢」
マクシミリアンがようやく口を開いた。静かだが、どこか痛みを帯びた声。普段の穏やかな彼からは、想像もつかない重い響き。
「この話は危険すぎる。君には関係ないところで、終わらせたいと思っています」
「関係ないなんて、言わないでください」
ロザリンは反論する。
ここまで来て、自分を遠ざけようとするなんて、受け入れられるはずがない。
彼女の声は震えているけれど、瞳は揺るがなかった。
彼女の脳裏に、アイザックの婚約者として過ごした日々がよぎる。
全てが悪いことばかりではなかった。あの日々が麻薬という闇に塗り潰されるなんて、許せない。
「私もこの問題に関わってきたんです。マクシミリアン様が一人で背負うなんて、許しません。」
ロザリンの真っ直ぐな瞳に、マクシミリアンの唇がわずかに動く。
言いたいことが喉元まで出かかっているのに、それを飲み込むように、彼は目を伏せる。
長い睫毛が影を落とし、赤い瞳に複雑な感情が揺れる。
デニスが小さく息を吐き、二人を見比べる。
燃えるような赤い髪が太陽に照らされ、彼の黒い瞳には冷静さと鋭さが宿っている。
「マクシミリアン。彼女の言う通りだ。ロザリン嬢はもうただの傍観者じゃない」
その言葉にマクシミリアンはゆっくりと顔を上げる。ロザリンの瞳と視線が交錯する。
そこには、彼女の決意と、マクシミリアンを信じて揺るがない意思があった。彼は長い沈黙の末、かすかに頷く。
「わかりました。……ロザリン嬢、君の覚悟を信じます」
彼の声はどこか諦めと、諦めと希望の入り混じった響きだった。
ロザリンは胸の奥で安堵と緊張が交錯するのを感じながら、そっと微笑む。
デニスが一歩進み出して言葉を続ける。
「ロザリン嬢との婚約破棄のの騒動で、商会は大きく動き始めている。二日後の夜、王都の外で商会が荷物を動かすという情報を掴んだ。そして表では、商会所有の美術品が出品されるオークションが開催される。そこでだ……」
デニスは言葉を区切りる。ロザリンとマクシミリアンを交互に見つめた。
「マクシミリアンとロザリン嬢にはオークションに忍び込んで欲しい」
マクシミリアンの赤い瞳が鋭さを帯びる。




