36.
デニスの言葉にマクシミリアンの表情がわずかに硬くなる。
彼はスプーンを置き、ゆっくりと立ち上がった。いつもの穏やかな笑みは消え、代わりに冷静で鋭い光が瞳に宿る。
「デニス、今は——」
「ここで話してください」
ロザリンの声が鋭さと、落ち着いた響きで割り込んだ。彼女の青い瞳には、迷いのない決意が宿っている。
マクシミリアンがアーヴェント商会の話題を避けようとするたび、彼女の心にはもどかしさが募っていた。
だから、今この瞬間を逃すわけにはいかない。
「ロザリン嬢」
前のめりで話すロザリンに、マクシミリアンは低く、どこか抑えた声で制する。
「今は、その話は——」
「私も関係者です。仲間外れにされるのは嫌です」
ロザリンは彼の言葉を遮り、デニスから視線を移してまっすぐに視線を合わせる。
"仲間外れ"
まるで我が儘を言う子供のような短絡的な言葉。けれど、その言葉はロザリンの本心を表していた。
今の彼女には、言葉を選ぶ余裕はない。胸の奥で渦巻く感情が、そのまま言葉となって溢れ出る。
マクシミリアンの瞳がわずかに揺れる。
彼の赤い瞳には、苦しげな影がよぎる。
しばらくの間、二人は見つめ合ったまま沈黙が続く。
デニスはそんな二人のやりとりを黙って見守っていた。
彼の黒い瞳には、どこか焦りと、決断を迫られているかのような複雑な色が浮かんでいる。
まるで、何かを口にするべきか、黙しているべきか、その狭間で揺れているかのようだった。
「デニス様」ロザリンは視線をデニスに移し、毅然とした口調で続けた。「どうぞ、話してください。」
「今はダメだ。」マクシミリアンが素早く割って入る。「デニス、後で話す。帰ってくれ。」
「マクシミリアン様、なぜですか?」
ロザリンの声に鋭さを増す。彼女の手に握られたスプーンが、わずかに震えている。
揺れる瞳を伏せ、口を開く。
「なぜ、私には何も教えてくれないんですか?」
その声は震えていて、心の奥底から絞り出されたように悲痛さが滲む。
ロザリンの言葉は、ただの問いかけではなく、信じてくれないことへの悲しみを帯びていた。
「私はロザリン嬢を——」
マクシミリアンは言葉を切り、唇をきつく結んだ。
その瞳には、守りたいという強い思いと、言えない何かを抱えた苦悩が入り混じる。
再び沈黙が落ちる。
テーブルの上のマーガレットが風に吹かれる。
デニスは口を開くことなく、ただ二人の間に流れる緊張を見守っている。
そして、マクシミリアンが一歩踏み出し、椅子に座るロザリンに近づいた。
「ロザリン嬢。」彼の声は低く、しかしどこか切実だった。「今は信じてほしい。話すべき時が来れば、必ず全てを話します」
ロザリンの瞳が揺れる。
彼の言葉には真摯な響きがあったが、それでも彼女の心に渦巻く疑念を完全に拭い去るには足りない。
彼女は唇を噛み、視線を落とす。
黙って二人の話を聞いていたデニスが静かに口を開いた。
「マクシミリアン、ロザリン嬢の言う通りだ。彼女にも知る権利がある」




