35
「マクシミリアン様……アーヴェント商会のことは、どうなっているんですか? 私、最近何も聞いてなくて……。何か、私にできることがあれば、教えてください」
ロザリンの声は静かだったが、その奥には揺るがない意志が宿っていた。
彼女の言葉は、穏やかな庭の空気を切り裂くように響き、マクシミリアンの手が一瞬止まる。
彼は彼女の顔を見ず、遠くの花壇に視線を向けた。
花壇の花が風に吹かれて、不安げに揺れている。
「ロザリン嬢には心配をかけたくないんです。商会のこと……少し複雑で、時間がかかっています。ですが、解決しますので心配はいりません」
彼の声は優しかったが、ロザリンはその裏に隠された重さを感じ取る。彼女はそっと唇を噛み、テーブルの上のマーガレットの花びらに視線を落とす。
白い花びらが風にそよぐたびに、彼女の心がざわつく。
「でも、私も関わってるんです。マクシミリアン様が一人で背負う必要はないですよね? だって……私たち、仲間でしょう?」
その言葉に、マクシミリアンの瞳がわずかに揺れる。彼はゆっくりと彼女を見上げる。ロザリンの青い瞳に宿る真剣な光に、胸の奥が小さく締め付けられるのを感じた。
「仲間……か」
彼は小さく呟き、ふっと自嘲するような笑みを浮かべる。だが、その笑顔にはどこか温かな光が混じっていた。
「ありがとう、ロザリン嬢。その言葉、ちゃんと覚えておきます。……ただ、今はこうやって一緒に庭を眺めたり。食事をしたりする時間が、私には何よりも大事なんです」
ロザリンの頬が、ふっと熱くなった。
彼女は慌ててスープに視線を落とし、言葉を飲み込む。
明確な拒絶と優しさ。
心の奥では彼の疲れた眼差しと、彼女を遠ざけようとする優しさに、複雑な感情が渦巻く。
二人は再び静かな食事を続ける。
庭に吹く柔らかな風。スプーンの軽い音と、時折交わされる穏やかな会話が、穏やかに時間が過ぎていく。
「お待ちください!」
突然、鋭い声が静寂を破る。
ロザリンの手が止まり、マクシミリアンも顔を上げた。
屋敷の方から響いた執事の叫び声に、二人は同時に視線を向けるを
庭の小道を、執事の制止を振り切って一人の男が近づいてくる。
騎士服に身を包んだその男は、マクシミリアンと同じ黒を基調とした制服を着ていたが、燃えるような赤い髪が夕陽に映えてひときわ目立っていた。
黒い瞳には焦りと、どこか危機を孕んだ鋭さが宿っている。
「デニス」
マクシミリアンが低い声でその名を呼ぶと、男――デニスは足を止め、息を切らしながら二人に近づいた。
彼の額には汗が滲み、騎士服の裾がわずかに乱れている。
まるで急ぎ駆けつけてきたかのような様子に、ロザリンの胸に不穏な予感が走る。
「マクシミリアン、急ぎだ。商会で……新しい動きがあった」
デニスの声は低く、抑えたものだったが、その言葉には重く響く。
デニスの視線が一瞬ロザリンにちらりと向き、すぐにマクシミリアンに戻る。その短い一瞬に、ロザリンは何かを見透かされたような気がした。




