34.
ロザリンはスプーンをギュッと握りしめる。
「マクシミリアン様……さっきの言葉、覚えてますいますか?」
彼女の声はどこか悲しみを帯びながらも真剣だった。
「花は正直だって。私の心がこもれば、応えてくれるって……本当に、そう信じてもいいですか?」
マクシミリアンはスプーンを置いて、彼女の青い瞳をじっと見つめる。
「もちろんです。花は、育ててくれる人の気持ちを映す鏡のようなもの。ロザリン嬢の優しさや思いやりは、きっとあのマーガレットにも伝わりますよ」
彼はそう言って、柔らかく微笑んだ。
「それに、もし上手くいかなくても、失敗ではありません。私も、昔はよく苗をダメにしてましたから」
「マクシミリアン様がですか?」
ロザリンは驚いたように目を丸くし、思わず身を乗り出す。
「信じられない!だって、こんな素敵な庭を管理してるんですよ?」
マクシミリアンはくすっと笑い、遠くの花壇に目をやった。
「今でこそ慣れましたが、最初は失敗の連続でした。土の状態を間違えたり、水をやりすぎたり……でも、そのたびに学んで、こうやって庭が育っていったんです。ロザリン嬢も、きっと同じように素敵な庭を作れますよ」
その言葉に、ロザリンの心にあった小さな棘が、また少しだけ溶ける気がした。
過去の失敗や、母との思い出に縛られていた心が、ほんの少し軽くなる。彼女は深呼吸をして、テーブルの上のマーガレットを見つめる。
「じゃあ……私、頑張ってみます。マクシミリアン様の言う通り、失敗してもいいって思って。母が好きだった花、そして父が好きかもしれない花……大切な人たちのために、素敵な庭を作りたいです」
マクシミリアンはその言葉に、静かに頷く。
「その気持ちがあれば、きっと素晴らしい庭になります。僕も、楽しみにしています」
ロザリンは笑顔で頷き、スープを一口飲んだ。温かいスープが喉を通り、身体の奥まで温める。
彼女はふと、父の好きな花をまだ知らないことに気付いた。
「まずは、父の好きな花を聞いてみない……。今度、話してみます」
「それはいい考えですね。家族の好きな花を植える庭なんて、きっと特別なものになります」
マクシミリアンはそう言って、パンをちぎりながら穏やかに笑う。
食事が進むにつれ、二人の会話は自然と弾み、庭のこと、好きな花のこと、そして幼い頃の思い出へと広がっていく。
ロザリンはマクシミリアンの庭仕事のエピソードに笑い、彼の少し不器用な一面に親しみを覚えた。
だが、ふとした瞬間、彼女は再び彼の目の下のクマに目がいく。
薄暗い影と、どこか疲れを帯びた彼の横顔に、心がざわめく。
「最近のお仕事は順調ですか?」
「えぇ。忙しいですが、何の問題もなく順調に進んでいます」
マクシミリアンはなんでもないように軽く答えたが、その声にはわずかな硬さが滲んでいる。
嘘だ。
ロザリンの心の中で、その言葉が鋭く響く。
アーヴェント商会のことはまだ解決していない。
ロザリンとマクシミリアンはそもそも、アーヴェント商会の調査での協力関係が始まりだ。
彼女自身、商会の問題が片付くまで彼と協力するつもりだった。
けれど、アイザックとの婚約破棄以降、マクシミリアンは彼女をその問題から遠ざけ、まるで守るように距離を置いている。
ロザリンはスプーンを握る手に少し力を込め、言葉を選ぶように口を開く。
「マクシミリアン様……本当に、すべて順調なんですか?」




