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31.

 午前の太陽に手をかざし、ロザリンは目を細める。

 汚れても良い動きやすい服にエプロン。

 彼女の青色の瞳はイキイキと輝いている。

 

 耳にかけていた髪が、ハラリと顔にかかる。

 彼女が耳にかけ直すより早く、隣から手が伸びてきた。


 ソッと優しい仕草で髪を耳にかけると、交錯する柔らかな視線。


 ロザリンは一瞬、言葉を失った。マクシミリアンの指先が彼女の髪に触れた瞬間、心臓が小さく跳ねる。

 柔らかな仕草と、どこか穏やかな眼差しに、彼女の頬がほんのり熱を帯びる。


「疲れましたか?」

 

 マクシミリアンの声は低く、優しく響く。まるで庭の風がそっと葉を揺らすような、落ち着いた調子だ。


 シンプルな服に身を包んだ姿に、ロザリンは慌てて首を振った。

 

「い、いえ!全然疲れてません! ただ、ちょっと……その、びっくりしただけで」


 彼女は笑ってごまかそうとしたが、声が少し上ずってしまう。マクシミリアンはそんな彼女を見て、くすっと小さく笑う。


「びっくり、ですか。髪が顔にかかっていたので、つい。失礼しました」

 

 彼はそう言うと、軽く手を引いて一歩下がる。だがその目には、どこかからかうような、温かい光が宿っていた。


 ロザリンは耳まで赤くなりながら、目の前のマーガレットの苗に視線を落とす。


 マクシミリアンの屋敷の庭の片隅に、用意された小さな花壇。

 彼女が彼に会いに来た日。

 園芸が苦手だという彼女に、マクシミリアンが園芸を教えてくれることになった。 

 

 園芸を教わると知った庭師が、ロザリンのために作ってくれた花壇。


 二人は並んで花壇の前に立つ。


 ふかふかの土が丁寧に整えられ、太陽が柔らかく差し込んでいる。マクシミリアンの助言通り、風通しも良い場所だ。

 彼女はしゃがみ込んで、土の感触を確かめるように指で軽く触れる。


「前に来た時はここには何もなかったのに。数日で準備するなんて、マクシミリアン様は本当に慣れてるんですね。まるで庭師さんみたい」

 

 ロザリンは少しからかうように言うと、顔を上げて彼を見る。


 さっきのお返しだ、といたずらな視線を向けると。

 マクシミリアンは片眉を軽く上げ、軽い笑みを浮かべる。

 

「庭師、ですか。騎士の名誉にかけて、剣の腕も負けてないつもりですがね。まあ、土をいじるのは、子供の頃からの習慣です。花は手をかけた分だけ応えてくれる。ロザリン嬢も、やってみれば分かりますよ」


 彼はそう言って、しゃがんだロザリンの隣に膝をつく。手には小さな手袋と園芸用のシャベル。慣れた手つきで土を軽く掘り、マーガレットの苗を植えるための穴を整え始めた。


「ほら、ここ。根が伸びやすいように、土はふわっとさせておくのがコツです。硬く詰めすぎると、根が息苦しくなる」


 マクシミリアンは説明しながら、シャベルで土を軽くほぐす。その手つきは、剣を握る時とはまるで別人のように繊細で、ロザリンは思わず見とれてしまう。


「マクシミリアン様って、ほんとに花が好きなんですね。なんだか意外で……でも、すごく素敵です」

 

 ロザリンは素直な気持ちを口にし、苗を手に持つ。マクシミリアンが用意した穴にそっと苗を置き、土をかぶせる。


「好き、というより……花は、静かに寄り添ってくれる存在ですから。母の言葉ですが、どんなに忙しくても、どんなに心がざわついても、花はただそこにいて、じっと待っていてくれる。剣や政事とは違う、穏やかな時間です」


 マクシミリアンの声には、どこか遠くを見るような響きがあった。ロザリンはその言葉に、胸の奥が温かくなるのを感じた。

 彼女自身、母との思い出は儚く、病床の母を喜ばせようとしたあの日の失敗が、今も心に小さな棘のように刺さっている。

 だからこそ、彼の言葉が深く響く。

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