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28.

 ロザリンはその微笑みに、胸の奥が温かく、しかし同時に少しざわつくのを感じた。


 マクシミリアンの笑顔は、まるで春の陽だまりのように穏やかで、普段の騎士の姿とはまるで別人のよう。

 彼女は慌てて視線をカップに落とし、紅茶に反射して映る自分の顔を見つめる。そこには、頬を赤らめる少女のような自分がいた。


「ロザリン嬢、気にしないでください」

 

 マクシミリアンの声は、いつもの落ち着いた調子に戻っていたが、どこか柔らかな余韻を残しているり

 

「あなたの言葉は、とても嬉しかった。母が愛したこの場所を、褒めてくれて……ありがとうございます」


 彼の言葉に、ロザリンはそっと顔を上げる。



 マクシミリアンの赤い瞳は、暖炉の火よりも温かく、しかしどこか遠くを見つめるような深さを持っていた。

 まるで、彼自身もこの別邸に特別な思い入れがあるかのよう。


「この庭の花は、実は私が少し手入れしているんです」

 

 マクシミリアンが意外なことを口にした。

 ロザリンは驚いて目を丸くする。

 

「え、マクシミリアン様が? 騎士のお仕事で忙しいのに、園芸まで?」


 彼は小さく笑い、肩をすくめた。

 

「剣を振るばかりが騎士の仕事ではないですよ。たまには土に触れるのも悪くない。母が教えてくれたんです。花を育てるのは、まるで自分自身を育てることだと」


 その言葉に、ロザリンはふと自分の過去を思い出した。

 路地裏の暗い記憶、冷たい石畳の感触。それでも、こうして今、温かな部屋で紅茶を飲みながら、誰かと心を通わせている。

 この瞬間が、種が芽吹き小さな花が咲くように、彼女の心にそっと根付いていく気がした。


「マクシミリアン様……その、白いボタンのような花、なんて名前なんですか? 私の屋敷でも育ててみたいんですけど……教えていただけますか?」

 

 ロザリンは少し勇気を振り絞って尋ねる。自分の声が少し震えていることに気づき、恥ずかしさでまた顔が熱くなる。


 マクシミリアンは一瞬考え込むように目を細め、ゆっくりと答えた。

 

「あれはマーガレットです。母が特に気に入っていた花で、純粋さと誠実さを象徴するんだとか。もしよければ、苗を分けてあげましょう。ロザリン嬢の屋敷の庭にも、きっと似合いますよ」

「本当ですか? ありがとうございます!」

 

 ロザリンは思わず身を乗り出し、笑顔が溢れる。

 その瞬間、頬の傷の疼きも忘れていた。

 マクシミリアンの言葉とその穏やかな眼差しが、彼女の心に小さなあたたかい光を灯す。


 執事が静かに新しい紅茶を注ぎ足す中、暖炉の火がパチパチと小さく音を立てる。

 窓の外では、夕陽が空を茜色に染め、庭のマーガレットがそよ風に揺れていた。

 二人の会話は途切れず、まるで長年の友人のように自然と続いていく。


「ロザリン嬢、あなたの屋敷の庭にはどんな花を植えたいですか?」

 

 マクシミリアンがふと尋ねる。ロザリンはカップを手に、窓の外を眺めながら考える。


「そうですね……マーガレットに、それから、色とりどりの花をたくさん。少し賑やかなくらいがいいかなって。寂しい庭にはしたくないんです」


 マクシミリアンはその言葉に、静かに頷いた。


 かって母が生きていた頃。庭は母の故郷の花で溢れていた。

 母の部屋の窓から見えるその花は、母が寂しくないようにと願って植えられたものだった。

 その花の苗は、アーヴェント商会を通じて手に入れたもの。今はもう、その花を愛でる者はいない。

 そろそろ、庭に新しい花を植えてもいいかもしれない。

 

「賑やかな庭、いいですね。きっと、あなたらしい場所になる」


 ロザリンはその言葉に、胸が温かくなるのを感じる。彼女の心の中の小さな花壇に、また一つ新しい花が咲いた気がした。


 夕陽が完全に沈み、部屋の中が暖炉の光だけで照らされる頃、二人の会話はさらに深まっていく。

 ロザリンは、マクシミリアンの意外な一面を知るたびに、彼への信頼と親しみが芽生えていくのを感じていた。


 この小さな別邸でのひと時は、二人にとって、まるで時間を忘れるような穏やかな瞬間だった。

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