20.
次の瞬間、何かが空気を裂く。男の悲鳴を上げて倒れ込む。
「う、ぐあっ……な、なんだ……!」
「お前たちが触れていい女性じゃない。……その手を、今すぐ離せ」
ロザリンは拘束された手首の痛みに耐えて、震える視線を声のした方へ向けた。
路地の入口、街灯の淡い光に照らされて立つ人影一ーそこにはマクシミリアンがいた。
ぼんやりとした視界。
それなのに、そこに彼がいる。それだけで、恐怖が和らぎロザリンは目尻が熱くなる。
先ほどと同じ服を着ているのに、なぜかいつもとは違う姿に見えた。
普段の穏やかな微笑みは消え、鋭い眼光が男たちを射抜く。その姿は、まるで別人のように凛々しく、威圧感に満ちていた。
眼差しに一片の容赦もないマクシミリアンが、路地裏の砂利を踏み締める。
「おまえ……誰だっ……!」
ロザリンの前に立つ男は、鋭い目を細めてマクシミリアンを威嚇した。
彼女を拘束する男は、無言で手首を掴む力を強める。
「……っ」
痛みで声を漏らすロザリンに、マクシミリアンの瞳に深い闇が宿る。
マクシミリアンの変化に気付かず、男の一人がマクシミリアンを指さし、嘲るように笑った。
「お嬢さんの騎士気取りか?悪いな、こいつは俺たちの獲物だ」
「獲物?」
マクシミリアンの声は低く、抑揚のない冷たさで響く。
「彼女は誰のものでもない。ましてや、お前たちの手には渡さない」
その言葉と同時に、マクシミリアンは一歩踏み出した。
ロザリンの前に立つ男は、懐から何かを出そうとするが、彼の動きはあまりにも速かった。まるで風のように滑り込み、一人の男の手首をひねり上げる。
男の手からナイフが滑り落ち、乾いた音を立てた。
「ぐあっ!」
男が呻き、腕を押さえて後ずさる。
「名乗る必要はない。だが――」
マクシミリアンが懐から短剣を引き抜く。月光が刃に鈍く光った。
「ロザリン嬢に手を出したその報いは、十分に受けてもらおう」
マクシミリアンの赤い瞳が、ロザリンを拘束する男を捕らえる。
「赤い、瞳……。ま、まずい……。コイツは――」
男が言い終えるより早く、ロザリンは痛みから解放される。
「クソっ!!こんなの聞いてねぇぞ!!!!」
ロザリンをマクシミリアンに投げ飛ばすと、男たちは背を向けて一目散に駆け出した。
(身体が、動かない……)
衝撃にそなえて瞳をギュッと閉じる。
けれど、投げ出された身体は、ふわりとマクシミリアンに支えられる。
遠ざかる足音が路地裏に響き、やがて静寂が訪れる。
マクシミリアンの温もりに包まれ、ロザリンは震える唇でかろうじて声を絞り出した。
「……なぜ……なぜ、ここに……?」




