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18.

 カフェの扉が軽やかな音を立てて閉じる。

 ロザリンの心には、不思議な静けさがあった。


 ミエールとの再会は、心を疲弊させるような会話だったはずなのに。不思議と涙は出なかった。

 それはきっと、もう自分の中で答えを出ていたから。

 ゆっくりと歩き出し、角を曲がったその時――

 待っているはずのクロエと馬車はそこになく、予想外の人がそこにいた。


 「……マクシミリアン様?」


 騎士服ではなく、私服に身を包み街路樹の影に寄りかかるように立っていた彼は、ロザリンに気づくと姿勢を正した。

 表情は変わらないのに、目元が柔らかく緩んで見える。


「ロザリン嬢。……やはり、ここにいらしたんですね」


 彼の声は、どこか安堵していた。まるで、ここで彼女に会えると信じていたかのように。


「どうしてここに……まさか、私を?」

「……偶然です」


 ふ、と笑って彼は続けた。


「――と、言えば、貴女は納得しますか?」


 ロザリンは一瞬目を見開くと、唇を結び、彼を見つめ返した。

 沈黙が流れる。けれど、それは気まずさではなく、出会いから今までの出来事を思い出させた。


「もし今までの出会いすべてが偶然なら、マクシミリアン様が私を守ってくれる守護天使だと勘違いしてしまいそうです」


 マクシミリアン様が守護天使ならどれほど心強いだろう。

 けれど、彼は公爵家の令息の高位貴族。彼には、お城で暮らすお姫様がよく似合う。私は何者でもないただの伯爵令嬢。住む世界が違う。

 今ここで話しているのも不思議なぐらいだ。


 街路樹の隙間からもれる木漏れ日が、彼の銀髪をキラキラと輝かせる。


 なぜ、彼がこんなにも気遣ってくれるの分からない。

 仕事の延長?それとも、私の父に?


 ロザリンはドレスの裾をギュと握る。

 ちらりと彼の目を見つめた。柔らかな木漏れ日が、彼女の頬をほのかに染めていた。


「ですが……、今日のここで会ったことを偶然だと思うには、少し惜しく感じてしまいます」


 ロザリンはゆっくり、噛み締めるように言葉をもらす。


 マクシミリアンはほんの少しだけ、赤い瞳を見開かせる。

 遠くから子供たちの声が聞こえる。街の喧騒が遠ざかり、風の音だけがふたりの間を通り過ぎる。


「……ええ。あの日も、今日も――偶然ではありません」


 それははっきりとした肯定だった。


「手紙が届いたんです。ロザリン嬢から」

「手紙ですか?」


 何の手紙のことかしら?

 ロザリンとマクシミリアンは、商会の件で手紙のやり取りをしていた。会うより手紙の方が簡単だったからだ。

 手紙の内容は業務的で、私的なやり取りはしたことはない。


 首を傾げるロザリンに、マクシミリアンはバツが悪そうな顔をする。

 

「はい。今日とあるカフェで、ロザリン嬢が婚約者の浮気相手である親友に会うという内容でした」


 ロザリンとミエールが今日ここで会うのを知っている人は、ごく僅か。

 誘ったミエール本人と、私。そして、クロエと馬車の御者。

 マクシミリアンの言葉に、全て納得がいった。

 クロエではなく、彼がここにいる理由。

 

「貴女が傷ついているのではないかと、気になって。何かあっても、貴女ひとりで抱えないでほしかった。……だから、ここに来ました」


 彼女は一瞬息を止めて、彼の瞳を見上げた。

 

「それは、“騎士”として、ですか?」

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