表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/39

15.

 風のない穏やかな午後。

 アイザックとミエールの浮気や婚約破棄の話題で騒がれている中。ロザリンは屋敷で一人の時間を過ごしていた。


 外出した時。周囲からの好奇の視線が突き刺さったが、そんな視線より思い悩ませることがあった。


 考えても解決しない悩み。心を落ち着かせるために深く息を吐く。

 

 館の書斎に一人いたロザリンのもとに、控えめなノックの音が響いた。


「マクシミリアン様がお見えです」


 扉の向こうから聞こえるクロエの声に、ロザリンはゆっくりと顔を上げた。


「……通してちょうだい」


 ほどなくして姿を現したマクシミリアンは、整った騎士の制服。けれどロザリンを見つめるその瞳の奥には、かすかな憂いが滲んでいた。


 何か悪いことでもあったのかしら?

 

 数日ぶりに見るマクシミリアンの険しい表情に不安になる。


「わざわざ来ていただきありがとうございます。……何か悪いことでもありましたか?」

「……顔色が良くありませんね、ロザリン嬢」


 相手を気遣ったつもりが、かえって心配されてしまい、言葉に詰まる。


「…………いつもと変わらないようにしているつもりだったのですが、分かってしまうのですね」

「ひと目見れば分かります。隠しきれるものではありません」


 彼は静かにロザリンの前に膝を折り、目線を合わせた。


「本当に…よく頑張られましたね。信じていた方に裏切られるなんて、想像を絶するほど辛かったでしょう。それでもロザリン嬢は、最後まで気丈に耐え抜いて……、毅然とした判断をされた。そんなあなたを心から尊敬しています」

「……ありがとう、ございます」


 マクシミリアンの心からの労りの言葉は、春の綿毛のようにふわりと優しく、ロザリンの心に静かに溶け込んでいった。


 言葉に詰まり溢れそうになる感情を、ぎりぎりで押しとどめた。彼の前で涙を見せたくなかった。 


「ことは上手く進みましたか?」


 赤子を見るようなマクシミリアンの優しい視線に、気恥ずかしさと戸惑いを覚える。

 そっと話を逸らした。


 マクシミリアンは腰を上げ、ロザリンの向かいの席に座った。


「もちろんです。貴女に報告したいことがあります」


 マクシミリアンは声を落とし、声量を抑えて告げた。


「アーヴェント商会が取引を行う現場を捉えることができました。そして、彼らの裏にいる人物の存在が分かりました」

「その人物は誰ですか?」

「フィルナート侯爵家」


 告げられ名に、ロザリンは持っていたスプーンを落としそうになる。

 驚きを隠せず、眉をひそめる。

 

「フィルナート家は、父と古くからの付き合いがありますが……まさか、そんな」

「表向きは慈善活動にも熱心な高位貴族です。ですが、その資金の一部が違法な取引……、港湾都市を経由し不正に動いていることが、密輸の記録から判明しました。主に宝飾品や美術品に偽装して、別のものを運んでいるようです」


 マクシミリアンの声には、憤りと慎重さが混ざっていた。密輸と偽装してまで取引するもの……、明かされなくても想像がつく。


「商会の裏側にそんなものが……」

「あなたの婚約破棄騒動のおかげ、結果的に事の発覚を早めました。皮肉ですが――あなたが正義を貫いた証です」


 マクシミリアンはそう言って、やわらかく微笑んだ。


「ですが、ロザリン嬢。婚約者と友人の裏切りは、決してあなた個人に対してのものではなかったのかもしれません」

「……どういう意味ですか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ