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13.

 ロザリンはゆっくりと背筋を伸ばしたまま、室内を見渡した。

 アイザックとミエールの表情は蒼白のままかたまっている。二人の距離は近いまま。

 彼らがどれほど弁明を繰り返そうと、彼女の意志が揺らぐことはなかった。


「ロザリン、待ってくれ……僕は、本気で――!」

「“本気”?」


 ロザリンの声が遮った。柔らかいが、その底には冷ややかな怒りがある。


「本気で裏切ったの? 本気で“私の親友”と、こんな――みっともない関係を築いたの?」


 彼女の視線は、アイザックからミエールへと移った。

 ミエールは小さく震えながらも、かろうじて笑みを保とうとしていた。


「ロザリン……。私、本当にそんなつもりじゃ――」


「だったら、“こんな姿”を見られても構わないわよね? それが、あなたの“ただの友達”との距離感だというのなら」


 部屋の外が騒がしくなる。

 扉の外に使用人の影が見えた。


 ロザリンはわずかに唇に笑みを浮かべる。

 クロエが上手くやってくれたみたいね。


「……あなたたちの関係を、ここで明らかにすればいいわ。証人も揃っているもの。貴族令嬢として婚約を破棄するに足る理由よね?」


 ロザリンは開け放たれた扉の外へと視線を向ける。

 アイザックはその言葉の意味を理解したのか、ハッと顔をさらに青ざめさせる。

 

「や、やめろ!ロザリン、頼む、話せば分かる!」


 慌てて近寄るアイザックに、ロザリンは一歩後ずさった。


「……私を侮ったのが、間違いだったわね。あなたがどれだけ“言葉”で私を繋ぎ止めようとしても、もう何も届かない。――私の“信頼”は、たった今、死んだの」


 指輪はすでにテーブルの上。まるで証拠品のように、そこに転がっている。

 あれほど大切にしていたものが、今では何の輝きも宿していなかった。


 ロザリンは扉へと向かいながら、最後にふと振り返った。


「……ちなみに、これは助言よ。ミエール」


 名指しされたミエールが、ビクリと肩を震わせる。


「可憐で弱い女性を演じるのやめた方がいいわ。……真似事で生き残れるほど、この世界は甘くないもの」


 その瞬間、ミエールの顔から血の気が引いた。


「……ロザリン、あなたは……っ」

「あなたが思っていた“都合のいい私”は、もういないの」


 その言葉を最後に、ロザリンは扉へと近づく。

 廊下に立ち尽くしていた使用人たちが、息を呑んで部屋の中を見ている。


「これをもって、正式に婚約を破棄させていただきます。手続きは後日、家を通じて行わせていただきます。裏切りには、それ相応の代償を払ってもらいます。そして、どうか忘れないで。“信頼”を失ったあなたには、もう何も残らないということを」


 ロザリンの声は、冷たくも澄んだ音色で部屋に響き渡った。


 「婚約破棄」という言葉に、使用人たちの息を呑む気配が伝わってくる。

 注がれる視線は痛いほどだったが、ロザリンはそれらを一瞥もせず、一階で待つクロエのもとへと静かに歩みを進めた。

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