9.
薄曇りの午後。
ロザリンは淡いペールブルーのドレスに身を包んでいた。艶やかな黒髪をまとめ上げ、穏やかな微笑を浮かべながら、ミエールの住む邸宅を訪れていた。
事前に、彼女から「お茶会を開く」と手紙が届いていたのだ。
まるで何事もなかったかのように、軽やかに筆を走らせたあの手紙――。
(“今度ゆっくりお話ししましょう”……なんて、よく書けたものね)
心の奥に冷たい水が流れるような思いを抱えながら、ロザリンは用意された客間へと案内された。
「まぁ、ロザリン。来てくれて嬉しいわ。ロザリンが好きなスイーツと、紅茶を用意したの」
現れたのは、柔らかな笑顔を浮かべたミエール。
生成りのドレスに小花を散らしたレース、ピンク色の髪には同系色のリボン。まるで少女のような愛らしさを演出していた。
けれど、その瞳の奥は笑っていない。
ロザリンは一目でそれを見抜いた。
「ありがとう。楽しみだわ」
互いに微笑み合いながらも、空気には薄い緊張が張り詰める。
「アイザック様と最近お会いしていなくて。元気かしら?」
ミエールがカップに紅茶を注ぎながら、無邪気に言う。
「ええ、きっと。商会の仕事でお忙しいのでしょうね。……あなたのことも、よく気にかけていらっしゃるのでは?」
ロザリンも負けずに、仮面を貼りつけた微笑みを返す。
「まぁ。私なんて。ロザリンのような立派な婚約者という関係に比べたら、ただの友人でしかないもの」
「そうね、あなたは“私の友人”だったわ」
ロザリンは紅茶を一口すする。
「でも、今は……“違う関係”になったのかしら?」
その言葉に、ミエールの手がピクリと止まる。けれど、すぐに笑顔を作り直す。
「何を言っているの?……私たち、昔と変わらず仲良しじゃない」
「そうかしら? ――あなたが、私の知らないところでアイザック様と“とても仲良くしていた”のを、知ってしまうまでは、私もそう思っていたのだけれど」
ミエールの微笑みが、僅かに引きつる。
「……それは誤解だわ。久しぶりに会えたのに悲しいことを言わないで」
ミエールは明るい茶色の人を潤ませた。
小動物のような庇護欲をそそる姿に、ロザリンは目を細める。
「そんなつもりじゃないのよ?それこそミエールの誤解だわ。私は久しぶりに会った幼馴染との会話を楽しくて、つい……そうだわ!今日はミエールに聞きたいことがあるの」
「聞きたいこと?」
「たとえば、“婚約者の部屋に恋人を隠す方法”。“偶然を装って香水やハンカチを忘れていく演出”についてどう思う?」
ロザリンの言葉にミエールは一瞬顔を歪ませた。




