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第8話 働き先を探さないといけないと思いました

「ともかく、住むところと働く先を探さないとですね」

ユゼフ、しっかりしている。えらいな。

「そうね! そうしましょう!」


………。


「私、どうやって、仕事って見つけるか知らない。住むところを探す方法も分からない…ごめん…」


私って、こんなに基本的なことも知らないで生きてきたんだ。

私って本当に情けないな。

ユゼフに申し訳ない。


「何もごめんなことなんてないです! お嬢様はそんなことを知らなくていいんです。僕が探しますから!」


頼もしすぎるって…。

庶民の10歳って、こんなにたくましいの?


「ありがとう! じゃあ、一緒に行きましょう」

ユゼフから世間を学んで、一人でも生きていけるようにしなきゃ。

「じゃあ、街中に行きますね」


街中のほうが情報が集まるらしい。

それには靴磨くつみがきがいいらしい。


「私もやってみたい」

と言ったが、

「ダメです」

0秒で拒否されてしまった


「え、なぜ?」

「なぜも何も、お嬢様にそんな仕事させられません」

「そんな仕事…? くつを磨くだけなのに…?」

まさか、なにかエッチなことでもするんだろうか。

身寄りがない子どもは、ときに男女関係なく身を売って生活をしているとも聞く。

「……わかった。でもユゼフ、これだけは約束して」

「え、なんですか?」

「もうエッチなことはしないでね」

「しませんし、してませんよ!?」


ユゼフが靴磨きの仕事道具を購入したいと、お店に立ち寄った。

「これ、いくらですか?」

ユゼフが店員さんに尋ねたら、首をかしげられた。


「お前、外国人か? この国に来たんだから、この国の言葉でしゃべってくれ」

ヴェール語でそう言われてハッとなった。

そういえば、ここは異国だった。


「これはおいくらですか?」

私は言葉をヴェール語に言い直して尋ねた。

「2ドルだよ」

またハッとなった。

そうだった。

お金の単位が違う。


「この金貨で払えない?」

私が金貨を出してそう聞くと、店員は首をふった。

「異国の金か? 俺にはその金がどれくらいの値打ねうちがあるかわからねえ。ニセ金つかまされたらたまったもんじゃない。換金かんきんしてから来な」




とりあえず、お店を離れた。

「このぶんだと、今日の宿も危なそうね」

そんな言葉が漏れてしまった。

不安で心がいっぱいになってる。

ユゼフがいなかったら、もう泣いてたと思う。

異国の空気に酔っていたんだなあと思った。

酔いが一気に冷めてしまった。


「帰りますか?」

私の不安げな顔を見てか、ユゼフがそんなことを言う。

「ユゼフは帰って大丈夫! 私は絶対に帰らない!」

何もしてないのに帰るなんてことしたら、私は私のことをもう信じられなくなる。

さっきのは、なし! なしなし!


「お嬢様ならそう言いますよね」

ユゼフがそう言う。

「でも、今日の宿も決まらないようでは無理ですよ。夕暮ゆうぐれまでにどうにもならなそうなら、国に帰りましょう」

ユゼフも同じ気持ちなんだろう。

ユゼフはここの言葉をまったく知らない。

きっと私なんかよりはるかに心細いはず。


「だいじょうぶ! 働き先も宿も今日中になんとかする!」

「わかりました。でも約束ですからね。今日中に見つからなかったら帰りましょう」

「…だいじょうぶ!」


帰るためのお金にと、金貨を一枚ユゼフに回収された。

しっかりしてるなあ。

帰ることなんか考えてなかった。


…いや、帰らない!

少なくともここで錬金れんきんをやらないで帰るなんてありえない!

「とにかく行動あるのみ! よね!」




「私をここで働かせてくださいませ」

錬金工場っぽいところがあったので、受付の方に尋ねてみた。

「前職は錬金でしたので、きっと御社おんしゃのお役に」

求人きゅうじんしておりませんのでお引き取りください」


「残念でしたね」

ユゼフがあわれむような目で見てそう言う。


「さすがにいきなりはそうよね。しかたないしかたない。次行きましょ!」

自分に言い聞かせるように答える。

かぶせ気味に無下むげに断られたのがちょっとショックだったけど、そんなの当然当然。

「まだ1つ目でへこたれてる場合じゃない! がんばろ!」

自分に言い聞かせる。



「困った……」

もう10件は回ったと思う。

どこも求人してないの一言で追い返されてしまう。


「お嬢様はよく頑張りましたよ。そろそろ国に戻りますか?」

「まだ! まだお昼にもなってないよ!」

「そうですね。やれるだけやりましょう」


さすがに私でもわかる。

ユゼフはもう諦めてる。

そして、かく言う私もくじけそうになってる。


「仕事を探すのって、大変なのね」

「そうですね。誰もが仕事があれば、誰も飢えて《う》えて死ぬこともないでしょうからね」

ユゼフの言葉で自分の浅はかさを思い知らされる。


私は飢えとはほど遠い世界で生きてきた。


ごめんね…。


言葉にはしないけど、あやまりたい。

ごめんねじゃないんだろうけど、ごめん。

私は誰かの命と引き換えに幸せに生きてしまった。


「そんな顔をしないでください」

気づいたら、ユゼフがまっすぐ私を見ていた。

「お嬢様のおかげで僕はパンを食べられるようになりました。いえ、僕たちは、です。街のみんなはお嬢様のおかげでパンを食べられるようになったんです」

「それは私のおかげじゃなくて」

「いえ、お嬢様のおかげです。お嬢様がいなかったら、あの工場があんなに大きくならなかった」

「買いかぶりだよ。みんなのおかげなんだから」

「そうかもしれません。それでもやっぱりお嬢様がいたからこそなんです」


私は、ユゼフが思うような立派な人じゃない。

私はいつだって、私のために働いていた。

みんながパンを食べられるようになったのも、人手が必要になったのと、みんなが頑張って働いたからだ。


それでも。


「僕はお嬢様が、もっともっとパンを食べられる人を増やしてくれるって、そう信じてます」


私はユゼフの期待に答えたいって思った。


「でも約束は約束ですからね。夕暮れまで仕事が見つからなければ国に帰りますよ」

「ぐぬぬ」


太陽を見上げる。

昼時は過ぎている。


このままだとジリひんだ。


やっぱりまずは情報なのかな。

このまま同じことをしていても、雇ってもらえると思えない。

ユゼフに靴磨きを教えてもらおうかな。

エッチじゃないほうの靴磨きで。


この地面、舗装ほそうがきれいだな。

ついつい、うつむきがちに歩いているから、道路の舗装に目が行く。


「なんだろ、これ。鉄? え、長」


5cmほどの高さと幅の鉄が、2本、同じ間隔かんかくでずっと見えない遠くまで続いている。

道?

でも鉄をわざわざ使う意味って?

しかも、わざわざキレイに平らにしているのに、鉄は埋め込まれているわけでもなく平らな舗装の上に固定されている。

鉄道でいいのか?

錬金だから、装飾そうしょく関係のほうがいいのでは?



不思議に思って見ていると、鉄が振動しんどうし始めた。

いや、地面が揺れている。

ゴウゴウと馬車を引くような音と、耳をつんざく音がした。


「あれは、何?」

 音のほうを見ると、美しい造形ぞうけいをした黒い鉄の塊が、すごい速さで迫ってくる。

「お嬢様!」

ユゼフに手を引かれて下がる。

眼の前を、黒い鉄が風圧ふうあつ轟音ごうおんを残して過ぎ去っていった。


体が震えた。


「なんだったんでしょうね、今の…、すごい速さでした」

「話には聞いていた…。あれが鉄の馬」

「鉄の馬?」

「うん。湯気をエネルギーにして、ものを運ぶんだって」

「湯気? あの湯気ですか? お湯を沸かすときに出る湯気?」

「そうなの」


それで、あんなに大きな鉄の塊が走るなんて。

しかもあのスピード。

本物の馬と比較にならないくらい速い。


「お嬢様、震えています。怖かったですよね」

「怖かった? 違うよ。こんな気持ち、初めてでどうしていいか分からないの」


すごいドキドキしている。


「すごく美しい……」


あの時の銀の輝きを思い出してしまう。

あれを超えることは、もう一生ないと思っていた。


鉄の外装がいそう

車輪しゃりん連結れんけつ

パワー


どれをとっても美しい。


「ここに来て、よかった」

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