第31話
パーティーが終わり、みんなが帰っていった後、私は一人研究室に残っていた。
片付けをしながら、この一ヶ月のことを思い返す。
あの記者会見の後、私の人生は大きく変わった。
まず、正式にヴェールランドの国立研究所の主任研究員に任命された。
外国人で、しかも女性がこのような地位に就くのは前代未聞だという。
でも、反対の声はほとんどなかった。
この国に来たときは外国人への風当たりを感じたが、それはスフィト国との技術さを考えれば当然のことだと今は思う。
ちゃんと力があると分かれば、ちゃんと評価してくれ受け入れてくれる。
この国にはそんな土壌がある。
「一人で片付けなんて、水臭いじゃないか」
声がして振り返ると、キュリー様が戻ってきていた。
「一緒にやろう」
「いえ、片付けはみんながやってくれてて、ほとんど私物です」
「いいよ、一緒にやろう」
二人でグラスを洗い、テーブルを拭く。
こんな日常的な作業も、彼となら楽しい。
「マリ」
「はい?」
この距離感で名前を呼ばれるとドキッとしてしまう。
「君は、後悔していないか?」
手を止めて、彼を見る。
「何をですか?」
「祖国を離れ、家族とも会えず、こんな生活を送っていること」
その問いに、少し考える。
確かに、寂しくないと言えば嘘になる。
お父様、お母様の顔を思い出すと、胸が痛む。
「時々、寂しくなります」
正直に答える。
「でも、後悔はしていません」
「そうか」
キュリー様は、窓の外を見た。
「君の御両親から、手紙が来ていた」
「え?」
「私宛にね」
両親が、手紙を?
しかもキュリー様宛に?
「どんな内容だったんですか?」
手紙の内容を知りたがるなんてはしたないとは思いつつ、聞かずにはいられなかった。
「最初は怒りの手紙かと思った。大切な娘をそそのかした男への」
彼は苦笑する。
「でも、違った。感謝の言葉が綴られていた」
「感謝?」
「『娘が信じる道を歩むのを、支えてくださってありがとう』と」
涙が、溢れてきた。
お父様、お母様...
「君は、愛されているよ」
キュリー様が、ハンカチを差し出してくれる。
「ありがとうございます」
涙を拭きながら、思う。
私は本当に恵まれている。
理解してくれる家族、支えてくれる仲間、そして
「キュリー様」
「ん?」
「私、本当に楽しいです」
彼の目を真っ直ぐ見て言う。
「研究も楽しいけど、それ以上に」
「それ以上に?」
「あなたと一緒にいる時間が、楽しかった」
顔が熱くなる。
でも、言わずにはいられなかった。
キュリー様の目が、大きく見開かれる。
「すみません、変なこと言って」
慌てて視線を逸らす。
「俺も同じだ。私にはもったいないくらい、楽しすぎる日々だ」
思わず振り返る。
その瞳に、深い感情が宿っている。
「君といる時間が、一番楽しい」
これは、ヤバい。
もう一度告白してしまいそうだ。
エリーの顔を思うかべて土下座する。
「エリーさんと一緒だと、もっと楽しくなると思います」
私の言葉に、キュリー様が微笑む。




