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女性に独創的な仕事はムリだと婚約者に言われました ~私はただ錬金術師として天命をまっとうしたいだけ~  作者: 脇役C


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第28話 会見が終わりました

錬金28話


記者会見が終わり、私は控室に戻った。

足が震えている。

今さらながら、緊張が襲ってきた。

椅子に座り込むと、全身から力が抜けていく。


「お嬢様!」

ユゼフが飛び込んできた。目を真っ赤にしている。

「すごかった! お嬢様、本当にすごかった!」


「ユゼフ...」

その純粋な喜びに、また涙が溢れてきた。

「ありがとう。ユゼフがいてくれたから、頑張れた」


「そんな、僕は何も…」

ドアが開き、ジェイムスさんが入ってきた。

「お疲れ様でした、姫様」

いつもの優雅な物腰に戻っている。でも、その目には温かい光が宿っていた。


「ジェイムスさん、本当にありがとうございました」

「いえいえ。ちょっと荒っぽいやり方でしたが、なんとかいい方向に行って良かったです」

彼は微笑んだ。


「それより、あなたの情熱的な演説、素晴らしかった。記者たちも、すっかり魅了されていましたよ」

「いえ、大したことは何も」

恥ずかしさがこみ上げてくる。

「いえ、マリさんの情熱がみなの心に響いた結果です」


バンデンさんも入ってきた。

「マリ様、公爵閣下がお呼びです」

キュリー様が。

心臓が高鳴る。

「すぐに参ります」

立ち上がろうとして、よろける。


「無理をなさらないでください」

バンデンさんが支えてくれる。

「少し休んでからでも構いませんよ」

「いえ、大丈夫です」

深呼吸をする。


キュリー様に会いたい。

お礼を言いたい。

そして…。


廊下を歩きながら、今日のことを振り返る。

ケルヴィは、結局何も理解していなかった。

私のことも、錬金術のことも。


でも、それは彼だけの責任だろうか。


貴族社会の中で、地位と権力だけを追い求めてきた彼。

本当の喜びを知らないまま、形だけの成功を求めてきた。


でもそれは、貴族として正しい生き方だった。


「マリ様」

バンデンさんが扉の前で立ち止まった。

「公爵閣下は、中でお待ちです。よろしいですか?」

うなづく。


ノックをして、扉を開ける。

部屋の中には、キュリー様が一人で立っていた。

窓際で、夕陽を背に。


「マリ」

振り返った彼の表情は、公的な場での厳格さとは違い、優しさに満ちていた。

「キュリー様」

「よく頑張ったね」

その一言で、すべての疲れが吹き飛んだ。

「ありがとうございました。キュリー様のおかげで」

「違う」

彼は首を振った。


「君の力だ。私はただ、事実を指摘しただけ」

「でも」

「君が積み上げてきたものが、大きかったんだ」


キュリー様が一歩近づく。

「正直、心配だった」

「心配?」

「ケルヴィが何を仕掛けてくるか分からなかった。君を守れるか、不安だった」

その告白に、胸が熱くなる。

「でも、杞憂だったね」

彼は微笑んだ。


「君は、自分の力で立ち、自分の言葉で語り、自分の道を切り開いた」

「それは、みなさんのおかげです」

「謙遜しなくていい」


キュリー様の声が、少し真剣になった。

「マリ、君にとって錬金術とは何だ?」

突然の質問に、戸惑う。

でも、答えは決まっていた。


「私のすべてです」

「そうか」


彼は窓の外を見た。

夕陽が、街を金色に染めている。


「私にとってもそうだ。錬金術は、私の人生そのものだ」

振り返って、私を見つめる。

「君は俺の理想だ」

「理想」


おそれ多い気持ちが湧いてくる。

同時に、私のように生きたかったという羨望せんぼうを感じた。


「マリ」

「はい」

「これから、どうするつもりだ?」


どうする?


「今までと何も変わりません。研究を続けます。ようやく研究に専念できそうでホッとしています」

いや、そんな当たり前のことを聞きたいわけがない。

「具体的に言うと、もっと良い通信装置を作りたい。もっと遠くまで、もっとクリアに」

興奮で言葉が早くなる。

「音声も送れるようにしたいんです! 想像してください、遠く離れた人と話ができるんです!」


「素晴らしい」

キュリー様が笑う。

「その研究、私も参加させてもらえないか?」

「え?」

「共同研究だ。君と私で、新しい未来を作ろう」

心臓が、激しく鼓動する。

キュリー様と、一緒に研究ができる?


「でも、公爵様のお立場が...」

「関係ない」

彼の声は、確固としていた。

「私も一人の錬金術師だ。立場なんて、研究室では意味がない」


「本当に?」

「ああ。対等な研究者として、一緒に働こう」

差し出された手を、震える手で握る。

大きくて、温かい手。

「よろしくお願いします」

「こちらこそ」

手を離した後も、その温もりが残っている。


「ところで」

キュリー様が、少し困ったような顔をした。

「エリザベスが、君に会いたがっている」


エリザベス王女。

キュリー様の婚約者。


「私に?」

「ああ。今日の君の演説に、感動したそうだ」

複雑な気持ちになる。


「会ってくれるか?」

断る理由はない。

「もちろんです」


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