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女性に独創的な仕事はムリだと婚約者に言われました ~私はただ錬金術師として天命をまっとうしたいだけ~  作者: 脇役C


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第17話 あなたに会えて嬉しかったと言われました


「好きです」


口から言葉があふれた。

言った瞬間、自分でも驚いた。

頭の中が真っ白になる。

時間が止まったかのよう。


キュリー様の瞳が大きく見開かれた。

彼の手が止まり、円盤の光が消える。


暗闇の中、私たち二人は互いを見つめ合った。

月明かりだけが二人を照らす静寂の中、何秒が過ぎただろうか。

永遠のようにも、一瞬のようにも思えた。


「俺も好きだよ。愛している、という言葉じゃ少なすぎるくらいに」

キュリー様の声が夜風に乗って聞こえてきた。


耳が一気に熱を持つのを感じた。

そんなわけない。

聞き間違えだ、こんなの。


「俺達はとことん、錬金に魅せられたもの同士だね」


「え?」と聞き返しそうになった。

だけど、キュリー様の柔らかく微笑みを前にして、

「あ…はい…」

と小さく頷くことしかできなかった。


まったく頭に入ってこなかった会話の前後を思い出す。

『錬金は自然との対話であり、自然の恩恵そのものだ』

のあと、

『君は(錬金に対して)どう思う?』

そう投げかけられていた。


そして出た言葉が「好きです」


そうなるよね。

自分の思考がバカすぎて力が抜ける。

否定する勇気も元気もなくなった。


「実は君と出会った日から、ずっと気になっていたんだ」

また、心臓が止まりそうになる。


「錬金術に対する君の情熱が、俺には特別に映った。この国でまた出会えたことは、運命だとすら思ったよ」

やっぱり、そっちか。

運命とか、今は変に受け取っちゃうメンタルだから、そういう言葉は使わないでほしい…。


「だから...」

指輪の光る左手で、再び円盤を撫でる。

青い光が戻ってきた。

「一緒に研究しないか?」

「一緒に?」

「ああ。君となら最高の研究ができる」


光栄なことだ。

こんな幸福はない。

これ以上望むのは、分不相応だ。


「謹んでお受けいたします」

精一杯の返事だった。

キュリー様は眉をしかめた。

「無理してないか? 公爵だからと言って、無理に従う必要はないよ」

よそよそしく返答してしまっただろうか。

心配させてしまった。


「無理なんかしていません。本当に嬉しいです」


キュリー様は満足げに微笑んだ。

「よかった。実は不安だったんだ」

「不安?」

「君が、本当に来てくれるかどうか」

彼は星空を見上げた。

「俺は幸せ者だ」


「公爵、エリザベス様が到着なされました」

いつからいたのか、バンデンさんが言う。


「そうか。ありがとう。すぐ向かおう」

キュリー様はそう答えた。

エリザベス様、どなただろう。


「すまないね。本当はもっと話したいが、今日はこれで失礼するよ」

キュリー様は私の手を軽く握ると、立ち上がった。

大きくてゴツゴツした手。

でも優しい手。


「お気になさらないでください。私のために時間を作ってくださって光栄でした」

私はそう言って、顔を上げた。

月明かりに照らされた彼の表情には、何かを言いたげな感じがした。


「こちらこそだよ」

そう言って会場に向かって歩く。


数歩あるいたところで、ふとキュリー様が立ち止まって振り返る。

「君は戻らないのかい?」


そう聞かれて、ただ呆然と立ちすくんでいたことに気づく。


「少し夜風にあたってから戻ります」

「体を冷やさないようにね」

手をふって去っていった。


キュリー様は優しいな。


夜景のほうに向き直る。

宝石に見えた景色が、ただの景色に変わっていた。

星空も町並みも、何も変わってないはずなのに。


_______________________



「お嬢様、まだ戻らないんですか?」

ユゼフの声がして振り返ると、彼は少し心配そうな顔をしていた。

キュリー様のはからいで、ユゼフは私の付き添いとして招かれた。


「こんなところに長くいたら風邪引いちゃいますよ」

「そうだね。ごめんね」

調子を取り繕って答えると、ユゼフは心配そうに顔を覗き込む。


「大丈夫ですか?」

「何が?」

「公爵様と何かあったんですか?」


そう聞かれて、言葉につまる。

何をつまることがあるのだろう。

ただ事実を言えばいいだけなのに。


「一緒に研究しようとおっしゃっていただいたの。あまりに光栄すぎて、不安になってるだけ。ほら、あの方、私のこと過剰に評価してくださるから」


「そうですか」

ユゼフは変わらずじっと私の顔を見つめる。

「言いたくないことは言わなくてもいいですけど、僕に遠慮するようなことだけはしないでくださいね」


ユゼフには本当に心配をかけてばかりだ。

ごめんね。

でも、この気持ちを誰かに言える日が来るのかな。


「さあ、とにかく戻りましょう」

ユゼフが私の手を取る。

キュリー様と違って、小さくて、柔らかい手だなと思った。

「ありがとう、ユゼフ」


広間に戻ると、人々は一斉に静かになった。

絨毯の上でも、自分の足音が気になるくらい。

何事だろうと思って周囲を見渡すと、キュリー様の姿があった。

そしてその横には。


「みなさま、お越しくださり誠にありがとうございます」

キュリー様の声が広間に響く。

「本日は、この国にとっても、私にとっても、特別な方をお迎えしています。我が国の盟友国、ローゼン王国のエリザベス王女です」


キュリー様の隣に立つ女性に、会場から拍手が沸き起こった。

金色の髪が大きく波打ち、深紅のドレスに身を包んだその女性は、まさに王女様と呼ぶにふさわしい気品と美しさを備えていた。

青い瞳は大きく、すらりとした長身は堂々としていて、優雅な立ち姿だ。

公爵様の隣で、彼女はこの上なく輝いて見えた。


「エリザベスです。皆様にお目にかかるのを楽しみにしてまいりました。この国の一員となれることを光栄に思います」

拍手が沸き起こる。


「先に言われてしまいましたが、エリザベス王女とは、このたび婚約を交わしました。ヴェールランドとローゼン王国が相思相愛で、共に発展しているように、私達も見習って良い夫婦を目指してまいりたいと思います。どうかこの若い二人に、これからもご指導とご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」

拍手が鳴り止まない。


そうか、今日の晩餐会はこれがメインだったんだ。


私はユゼフと部屋の隅に立ち、静かに見守るしかなかった。

エリザベス王女は優雅に微笑み、キュリー様の腕に自分の腕をそっと絡めた。

彼女の左手には、キュリー様と同じプラチナの指輪が輝いていた。


「まるで天使のような方ですね」

ユゼフがぽつりとそう漏らす。

「そうだね」

本当に美しい方だ。


晩餐会が始まり、私はユゼフと談笑しながら、静かに食事をしていた。

キュリー様とエリザベス王女は主賓席に座り、多くの目に見守られながら優雅に振る舞っている。

まるで童話の王子様と王女様のようだった。

美しすぎて現実味がない。


「お嬢様、食べないんですか?」

ユゼフが心配そうに言った。

「え? ああ...」

料理をお皿によそるだけよそって、ほとんど手をつけていなかったことに気づく。


「ユゼフも食べてないじゃない」

「僕はお嬢様の護衛で、招待客じゃないですからね」


ユゼフは大人だなあ。


「せっかくの料理ですから、いっぱい食べてくださいね」

「うん、ありがとう」

そう言って、フォークを手に取ったが、食欲はまったくなかった。


突然、バンデンさんが私の側に現れた。

「マリ様、お食事中にすみません」

「なんでしょうか?」

「公爵閣下とエリザベス王女が、あなたにお会いになりたいとのことです」

「え?」

驚いて顔を上げると、主賓席のキュリー様とエリザベス王女が私を見ていた。


「私に? なぜ?」

「ご挨拶したいそうです」


それこそ、なぜ…?


考えても分からないが、断る選択肢はない。

「わかりました」

心臓が速く波打っている。

怖いくらいに緊張している。


立ち上がると、ユゼフが心配そうに見上げた。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫…」

声が震えてた。


私はバンデンさんに導かれ、主賓席に向かった。

一歩一歩がふわふわして倒れそう。


キュリー様は立ち上がり、私に微笑みかけた。

「マリ、エリザベス王女だ。私の婚約者だよ」

「はじめまして」

私は震える手をなだめながら、丁寧なカーテシーを精一杯心がけた。


エリザベス王女は優雅に頷いた。

「はじめまして、マリさん。ポープからあなたのことをよく聞いています」

彼女の声は、思ったよりも暖かで優しかった。


「光栄です、王女様」

「あなたは錬金術の研究者なのね。しかも若くして素晴らしい才能の持ち主だとか」

エリザベス王女の青い目には、純粋な興味が浮かんでいた。


「そんな...大したことはありません」

「謙遜しなくていいよ」

キュリー様が言った。

「マリの研究は素晴らしいんだ。明日から私のもとで働いてもらうことになっている」

「まあ、素敵ね」

エリザベス王女は満面の笑みを浮かべた。


「私も錬金術には興味があるの。いつか研究所を案内してもらえるかしら?」

「も、もちろんです」

思いがけない反応に、少し戸惑った。

エリザベス王女は本当に錬金に興味があるのだろうか?

それとも単なる社交辞令だろうか?


「ありがとう。楽しみにしているわ」

彼女の笑顔は本心から出ているように見えた。

「明日からの研究、頑張ってくださいね」

「はい…、ありがとうございます」


私はカーテシーをした。

「では、失礼いたします」

会話の切り時ではなかったかもしれない。

そもそも、こちらから会話を切ることは失礼に値するかもしれない。


でも、このまま無事に会話を続けられる自信がなかった。


「お時間をつくってくださって、ありがとう」

エリザベス王女は優しく微笑んだ。

「あなたに会えて嬉しかったわ」

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