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雪の国と光の宝石

作者: ミケ

 ある寒い冬の日、リオは家の裏山で遊んでいた。白くふわふわの雪の上を歩いていると、何かが光っているのに気づいた。近づくと、それは大きな氷でできた扉だった。


「なんだろう…?」


 そっと手を伸ばした瞬間、扉がふわりと青白く光を放ち、まるで生きているかのようにゆっくりと開き始めた。吹きつける風が、かすかに誰かの囁きのように聞こえる――。


 その瞬間、冷たい風が吹き抜け、雪が舞い上がる。リオは思わず目を閉じた。

 そして、目を開けると――そこには、見たこともない幻想的な銀世界が広がっていた。


「ここはどこ…?」


 目の前には氷の城がそびえ、雪の森には光る木々が並んでいる。でも、空は暗く、太陽がまるで眠っているようだった。

 そのとき、小さな白いウサギが跳ねてきて、リオに話しかけた。


「君はどこから来たの?」

「えっ、ウサギがしゃべった!?」


 ウサギはくすくす笑って言った。


「ここは雪の国。でも、大変なんだよ。光の宝石が奪われてしまったせいで、ずっと夜のままなんだ」

「光の宝石?」

「そう!あれがないと、この国に朝が来ないんだ。怪物が氷の城に持っていっちゃったんだよ!」


 リオは驚いた。だけど、不思議と胸が高鳴る。

 ぎゅっと拳を握りしめると、鼓動が速くなった。

 怖いはずなのに――それなのに、なぜか足が前へと動きたがっていた。


「よし、僕が取り戻すよ!」


 ウサギは目を輝かせた。


「ほんとに?それなら、スノーフォックスのフロスティを呼ぼう!彼なら、氷の城まで案内できるよ!」


 こうして、リオは雪の国の仲間とともに、光の宝石を取り戻す冒険に出発した。


◆◆◆


 ウサギのスノーとフロスティと一緒に進むと、氷の森にたどり着いた。そこは、まるでガラス細工のように透き通った木々が立ち並び、雪がキラキラと舞い落ちていた。しかし、美しい景色とは裏腹に、森の奥は深い霧に包まれ、どこへ進めばいいのか全く分からなかった。


「この森には魔法がかかっていて、正しい道を選ばないとずっと出口が見つからないんだ」とフロスティが言った。


 リオは周りを見渡したが、どの道も同じように見える。木々が冷たい風に揺れるたび、枝が氷の鈴のような音を立てた。


「どうすればいいの?」とリオが聞くと、ウサギのスノーが雪の上に耳をすませた。

「聞こえる?木々のささやきが…」


 リオも耳を澄ませると、かすかに風が何かを歌っているような音がした。それは、言葉のようにも聞こえるが、はっきりとは分からない。


「きっと、この音が正しい道を教えてくれるんだ!」


 リオは音のする方向へ足を踏み出そうとした。しかし、そのとき、森の奥から低いうなり声が響いた。

「気をつけて…この森には『迷いの霜狼そうろう』がいるって言われてるんだ」とフロスティが警告した。「間違った道を進むと、霜狼に出くわしてしまうかもしれない」

 リオはドキッとした。でも、立ち止まっているわけにはいかない。


「風の声をもっとよく聞いてみよう。何かヒントがあるかもしれない」


 スノーは再び耳をすませた。


「…北風がささやいてる。『陽の光を探せ』って」

「陽の光?」

「そうだ!この森の中にも、わずかに光が差し込む場所があるんだ」


 とフロスティが言った。


「その光の方角を目指せば、正しい道が見つかるはず!」


 リオたちは注意深く進んだ。ところどころで木々の間からほのかに光が漏れている。しかし、その光は動いているようにも見えた。


「うわぁ、なんか不思議な感じがするね…」リオは不安そうに言った。


 突然、霧の奥で白い影が動いた。それは、大きな狼だった!


「迷いの霜狼だ!」フロスティが叫んだ。


 狼は静かに近づいてきた。その瞳は氷のように冷たく光り、リオたちをじっと見つめている。


「落ち着いて…」スノーが小声で言った。

「きっと、怖がらせようとしているだけだよ」リオは勇気を振り絞り、狼の目をまっすぐに見つめた。


 すると、狼はふっと鼻を鳴らし、ゆっくりと後ずさった。そして、風がまたささやいた。


「光へ進め…」


 リオたちは狼が去ったのを見届けると、光が差す方向へ急いだ。そして、ついに霧の出口にたどり着いた。そこには、大きな氷の門があり、その向こうには氷の城がそびえていた。


「やった!抜けたぞ!」リオは喜びの声を上げた。

「君、すごいよ!…って言いたいけど、ちょっと怖かったでしょ?」スノーがくすっと笑いながら、リオの袖を引っ張る。

「ふん、まあまあの胆力だな。だが、次はもっと慎重になれよ」フロスティが鼻を鳴らした。


 リオはぐっと拳を握りしめ、光の宝石を取り戻すために、城へと向かった。


◆◆◆


 城の壁は透き通る氷でできており、内部の影がゆらめいていた。壁に閉じ込められた雪の結晶が、光を反射して青白く輝いている。

 城門は重厚な氷の扉。触れるだけで凍りつきそうな冷気があふれ、リオたちを寄せつけまいとしていた。


「ここが光の宝石を奪った怪物の住処か…」リオは息をのんだ。

「中に入るにはどうしたらいいんだろう?」ウサギのスノーが心配そうに言った。

「試してみるしかないよ!」フロスティが前足で城門を押した。

 すると、その瞬間――。


 ガガガガッ……!!


 城門が大きな音を立てて動き出した。中から冷たい青白い光があふれ、まるで誰かがリオたちを待っていたかのように、ゆっくりと扉が開いた。


「気をつけて…何かが待ち構えているはずだ」フロスティが低くうなった。


 リオたちは慎重に城の中へ足を踏み入れた。

 城の内部は不気味な静けさに包まれていた。天井から氷のシャンデリアが吊るされ、壁には雪の結晶が輝いている。しかし、どこかが妙だった。


「こんなに静かすぎるなんて、絶対何かある…」リオは周囲を見渡しながら言った。

 そのとき――


 ズズン…ズズン…!


 大地を揺るがすような足音が響き、突然、広間の奥から巨大な氷の怪物が現れた!

「誰だ、お前は!」怪物が低くうなりながら、鋭い氷の爪を光らせる。


 リオは勇気を振り絞り、大きな声で言った。

「僕はリオ!光の宝石を返して!」


 怪物はガラスのような瞳を細め、不気味に口角を上げた。

「フフ……光の宝石だと?」


 広間に低く響くその声は、冷たい氷の刃のように鋭く、リオの背筋を凍らせた。


「朝が来ぬこの世界こそが、本来の姿……光など不要なのだ」

 怪物はゆっくりと腕を広げ、闇に包まれた城を見渡した。


「闇こそが静謐せいひつ、闇こそが永遠……」

 その言葉がまるで呪詛のように響き渡り、氷の壁さえもわずかに軋んだ。


 リオは思わず拳を握りしめる。

「そんなの、勝手な言い分だ……!」


 しかし、怪物はまるで聞いていないかのように、ゆっくりと巨大な手を持ち上げた。

 その掌には、まばゆい光の宝石――希望の輝きがあった。


「フフフ……ならば、この光ごと、砕き消してやろう……!」


 次の瞬間――


 ゴゴゴゴ……!!


 城全体が唸るように震え出し、天井から鋭い氷柱が崩れ落ちる。

 リオは息をのんだ。逃げるべきか、それとも戦うべきか――答えを出す間もなく、怪物が咆哮を上げる。


「この光は、決して返さぬ……!」


 怪物は吠えながら巨大な腕を振り上げた。その指には、奪われた光の宝石がぎらりと光っている。


 ゴォォォォ――!!


 氷の嵐が吹き荒れ、空中には鋭い氷の刃が舞う。


「うわっ…!」


 リオは腕で顔をかばったが、冷たい刃が頬をかすめた。

 じんとした痛みが広がる――でも、それ以上に怖かったのは、足がすくみそうになる自分自身だった。


(ダメだ…僕がやらなきゃ、この国は…!)


 震える拳を握りしめ、リオは勇気を振り絞った。


 吹き飛ばされそうになりながらも、リオは歯を食いしばり、必死に踏みとどまる。しかし、さらに激しい突風が吹き荒れ、広間全体が氷の刃と化していく。


「危ない!」


 鋭い氷柱が次々と降り注ぐ中、リオはとっさにスノーとフロスティをかばいながら、転がるようにして避けた。


 冷たい空気が肺を突き刺す――。だが、まだ終わりではない。

 怪物は腕を振り上げ、氷の魔法を発動させた。冷たい吹雪がリオたちに襲いかかり、体を凍らせようとする。


「くっ…このままじゃ動けなくなる!」リオは歯を食いしばった。

「リオ!怪物の手を見て!」スノーが叫んだ。


 リオは怪物の手元に目をやった。よく見ると、光の宝石を握っている指の隙間から、わずかにまばゆい光がこぼれている。


「そうか!あの宝石が光を失わずにいるってことは、まだ希望がある!」

「でも、どうやって奪い取る?」フロスティが焦る。


 リオは一瞬考えた後、ひらめいた。


「フロスティ!氷の床を滑って、怪物の足元に突っ込んで!」

「了解!」


 フロスティは勢いよく氷の床を滑り、怪物の足元に突撃した。怪物はバランスを崩し、大きく揺らいだ。


「今だ!」


 リオはその隙に怪物の腕をよじ登った!


「なに!?貴様ぁ!!」


 怪物は大きく腕を振ってリオを振り落とそうとした。しかし、リオは必死にしがみついた。そして、思い切り怪物の手に飛びつき――


「光の宝石は……僕が取り戻す!!」


 リオは叫び、心の中で強く誓った。怖くても、震えていても、もう引き返すつもりはない――。

 渾身の力で怪物の指をこじ開けた瞬間、まばゆい光が爆発するように広がった。

 時間が止まったような感覚。

 宝石が、ふわりと宙に浮かぶ。


 パァァァァァァ!!


 まばゆい光が広間全体を包み込み、氷の城の壁が虹色に輝き始めた。

 怪物が驚愕の表情を浮かべる。


「ぐ…ぐおおおおお!!」


 そして――次の瞬間、パリンッ!

 怪物は透明な氷の結晶と化し、砕け散った。

 リオは手の中の光の宝石を見つめ、ほっと息をついた。


「やった…!」


 広間の奥に、大きな氷の窓があった。リオが宝石を高く掲げると、そこからまばゆい光が放たれた。

 光は城全体に広がり、氷の壁を透かして、空がだんだんと明るくなっていく。


「朝が来る…!」


 スノーとフロスティも歓声を上げた。


「ありがとう、リオ!これで雪の国に光が戻るよ!」


 リオはにっこり笑いながら、ポケットの中に宝石をそっとしまった。


「さあ、王様のところに戻ろう!」


 リオたちは光に包まれながら、雪の国へ帰っていった。


◆◆◆


 リオが光の宝石を空高く掲げると、それはまるで小さな太陽のように輝き、雪の国全体を優しく包み込んだ。

 次の瞬間――


 パァァァァァァ!!


 宝石から放たれた光が、凍った大地を温め、氷の城の壁を虹色に染めた。夜に覆われていた空が少しずつ青みを帯び、やがてまばゆい朝日が昇ってきた。


「朝だ…!」


 リオは驚きと感動でいっぱいになった。

 雪の国のあちこちから歓声が上がり、氷の城の中に閉じ込められていた雪の精や動物たちが飛び出してきた。


「やったー!」

「光の宝石が戻った!」

「これで雪の国にまた朝が来る!」


 ウサギのスノーは大きく耳を立て、ぴょんぴょん跳ねながら言った。

「リオ!君はすごいよ!僕たちを救ってくれたんだ!」


 フロスティも誇らしげに鼻を鳴らした。

「本当にありがとう、リオ。君がいなければ、この国はずっと闇に閉ざされたままだった…」


 すると、城の奥から壮麗な氷の玉座が現れ、そこに座っていたのは、雪の国の王様だった。王様は長い氷の杖を持ち、優しく微笑んでいた。


「リオよ、よくぞ光の宝石を取り戻してくれた。この国は再び輝きを取り戻した。お前は雪の国の英雄だ!」


 王様が手を振ると、氷の城の上に光の結晶が浮かび上がり、宙に舞いながら美しい音色を響かせた。


「リオ、君の勇気と知恵のおかげだよ!」


 スノーが言うと、フロスティも「英雄の証として、君に贈り物をしよう」と言って、キラキラと輝く小さな氷のかけらを差し出した。


「この氷のかけらは、いつかまたこの国を訪れることができる鍵になるだろう」


 リオは大事そうにその氷のかけらを受け取った。


「ありがとう、スノー、フロスティ。そして王様。この国のことは、絶対に忘れない!」


 そのとき、リオの前に氷の扉が再び現れた。


「そろそろ君の世界に帰る時間だよ」とスノーが寂しそうに言った。

「またいつか会える?」

「もちろんさ!だって君はこの国の英雄だもの!」フロスティが力強く言った。


 リオは最後にもう一度雪の国を見渡し、扉の前に立った。そして、一歩踏み出すと――


「おはよう、リオ!起きる時間よ!」


 リオははっと目を覚ました。気がつくと、そこはいつもの自分の部屋。暖かい布団の中にいて、窓の外には朝日が差し込んでいた。


「えっ…?今のは夢…?」


 さっきまで雪の国にいたはずなのに、まるですべてが夢だったかのよう。

 でも、リオは違和感を覚えた。ポケットの中に手を入れると――

 ひんやりと冷たい、小さな氷のかけらがそこにあった。


 光にかざすと、かけらの中には小さな雪の結晶が揺らめいていた。それはまるで、雪の国がそこに息づいているかのようだった。

 リオはにっこりと微笑んだ。


「やっぱり、夢じゃなかったんだ……また、あの国に行けるかもしれない」


 外はいつもと変わらぬ朝。けれど、リオの心には確かに新しい冒険の記憶が刻まれていた。

 ふと、窓の外に目を向ける。

 真冬の朝。吐く息は白く、静かに空へと溶けていく。

 そのとき――どこからか、風がそっと吹き抜けた。

 ひんやりとした風なのに、なぜか懐かしさを感じる。

 そして――ありえないものが、ひらりと舞い落ちた。

 淡い桜の花びら。まるで、あの国からの贈り物のように。

 雪の降る庭に、たった一枚だけ、そっと降り立つ。


「えっ……?」


 リオは思わず息をのんだ。

 恐る恐る手を伸ばし、そっと指先でつまむ。

 ほんのりとした温もりと、ひんやりとした感触。

 まるで、雪の国とこの世界が、いまもどこかで繋がっているかのようだった。


 何かが始まる――

 そんな予感が、確かにあった。

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― 新着の感想 ―
読者の気持ちもワクワクさせてくれる少年の冒険譚ですね。 最後のまとめかたが今後の新たな冒険を予感させるような格好良い形になっていて好きです!
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