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第1話 シャイニング・アップ

 Kと名乗るメイドは豪勢な屋敷内の扉の前でノックをしていた。


「お時間です。準備は出来ましたか?」


 聞く者に癒やしと悪寒を与える透き通った美麗な声で応答を促す。

 しかし扉の中から一向に返事は返ってこず不本意な静寂が流れていく。


「……入りますよ」


 美しい純黒のショートヘアを掻きむしりながらメイドらしからぬ表情と共に強引に扉を開ける。


 目の前に広がった光景にKは唖然とした。 

 オーダーメイドで発注した上品な家具達の半数は無惨な姿となって四方八方に散らばっている。


 部屋の中心には長机の上に乗り、等身大の鏡を見つめている超絶美少女がいた。


「ハンド、アー厶、レッグ、ヒップ、バスト、ウェスト、アンドフェイス……うんうんベリィグッド! 今日も美少女だッ!」


 自身の容姿に見回しながら鼻につく英語とともに自身を恥ずかしげなく肯定する。

 だがその評価は過大ではなく妥当だ。


 紫のメッシュが入った鮮やかな金髪のサイドテールに大きなサングラス。

 ルビーのように紅い瞳に造形が完璧な顔立ちと舌や耳につけられたピアスの数々。


 色鮮やかな衣服を身に纏い、上からは一回り大きい黒のジャンバーを羽織っている。

 

 奇抜ながらも美少女という要素をこれでもかと醸し出していた。

 鼻歌を歌う上機嫌な彼女だが背後からの明確な殺気に「ん?」と振り替える。


「やぁやぁKじゃないか。どうしたんだいそんなしわくちゃな顔をして、折角の美人が台無しだよ? それとも老けた?」


「えぇ台無しですよ……貴女のせいで」


「あぁこの家具? いやぁ新しい魔法研究の途中で家具が木っ端微塵になってしまってね。許してくれよ、失敗は成功のもとなんて言うだろ?」


「えぇそうですね、許すわけ……ないでしょうがバタフライ・オリジナル! 貴女の自由奔放ぶりをこの私がッ!」


 シワを作りながら激昂するK。

 バタフライ・オリジナルと呼ばれる小柄な存在は悪びれる様子もなくオーバーな動きで自身の正当性を主張していく。


「そんなカッカしなくてもいいじゃないか、家具なんてものは有象無象。そこらを探せば直ぐに同じのが見つかるよ」


「これはオーダーメイド! 二度と同じのは作れないんですよこのアホタレッ! ドクズクソビッチがッ!!」


「ひっどォ!? 一応主人だよ私!?」


「うるせぇバーカッ!」


 メイドとは思えない荒々しい口調でKはバタフライを貶していく。

  

「まぁまぁ少しばかりは悪いことをしてしまったとは思うよ。ソーリーソーリー」

 

「今更謝られてもさァ……!」


 どれだけ謝られても後の祭り。

 バタフライの軽い謝罪にKは頭を掻きむしり激しくイライラを募らせる。

 彼女の鬱憤を理解することなく、身勝手にバタフライは話題を切り替えた。


「そんなことより、君は何しにここに来たのかな? まさかアングリーな気持ちをぶち撒けに来ただけじゃないだろう」 


「……先程、ステラ学園側からの解答が提出され『《《魔法創造科》》』の新設が正式に認められました。一ヶ月後には入学式です。直ぐに学園生活の準備を」


 その言葉を聞いてバタフライは玩具を手に入れた子供のように、無邪気に笑う。


「そうかそうか認められたか! まっこのワタシからの要望だからね。認められて当然の結果というやつだ」


「関係者の大半は反対だったそうですが学園長の特権で条件付きで認められたそうです」


「ハハッ、学園長に感謝感謝だね!」


 狂喜しながらバタフライは背筋を伸ばし、首を鳴らし、獣のように唇を舌で舐め回す。


「バタフライ、何度も言いますが学園での行いは「分かってる」」


「節度を持って優等生らしく真面目な学生生活を送るっしょ? 大丈夫大丈夫、ワタシいい子ちゃんだから、アッハハハハッ!」


「……まだ詐欺師の方が信用できますね」


 まるで説得力のない言葉にKは大きなため息とともに呆れ返る。

 半年という時を共に過ごしているからこそ、彼女の発言が全く信用に値しないのを察していた。


「まぁ安心してよ、『魔法は希望のために、創造は夢のために』その意志はしっかりとココに宿している」


 バタフライは先程とは打って変わり不敵ながら真面目な表情で自身の胸を叩く。

 可憐な姿を見て、Kは怒りに満ち溢れていた顔が緩み微笑を浮かべた。


「その意志があるのであれば……貴方が一線を超えることはないでしょう。問題行動は起こしそうですが」


「問題行動!? 嫌だなぁ、ワタシは天才なんだよ? 優良児さ」


「風雲児の間違いだろ」


 即座に訂正の罵倒を吐くとKは踵を返すと丁寧に仕立て上げられた制服を取り出しバタフライへと差し出す。


「こちらがステラ学園の制服です。貴方が学園の人間であることを自覚させ、示す代物でもあります」


 乱雑にバタフライは受け取ると、まじまじと見つめながら自分の体に当ててサイズを確認していく。


「可愛い! いいねぇこういうの!」


 制服を片手で鷲掴みながらハイテンションなバタフライ。

 窓越しに見える雲一つない晴天を見て振り返りながらKへと微笑んだ。


「サンキューK。君には色々迷惑かけてるけど、よくもまぁ暴言吐きながらも私のメイドでいてくれるよ。お望みならここ止めてセカンドキャリアを過ごせばいいのに」


「何を今更……私は貴女の未来と運命を共にすることを決めている。この命尽きるまでKは貴女の従属です」


「えぇ……激重メンヘラじゃん。エグっ」


 彼女から提案された最後の慈悲をKは即座に拒否する。

 その反応にドン引きの顔を浮かべたが直ぐにいつもの表情をバタフライは取り戻した。


「まぁまぁ君は良くも悪くもメイドでしかいられない生き物ってことか」


「悪くない生き方ですよ」


 一瞬だけ見つめ合うと二人は長年の信頼から微笑を向けあった。


「さ〜てさて、では始めようか。この天才美少女の青春をッ!!」


 紅い瞳を綺羅びやかせバタフライはこれからの思い描く未来に満面の笑みを浮かべた。


 


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― 新着の感想 ―
[良い点] 天才とフランクメイド、実に素晴らしい組み合わせですね。今回はどのようなストーリーが成されるのか、ワクワクします。
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