来訪者
俺は建築現場で働く一人娘の父親だ。
仕事柄俺は毎日欠かさず筋トレを2時間はしている。
やっぱり娘というのができるとどうしても守りたいという親心のようなものが芽生えてしまうもので、そんなことを考えながらダンベルを握っているのだ。
ある日の夜、筋トレを終えて夕飯の席についた俺と娘と愛する妻はコンソメ味のスープや、少なめに盛られたサラダの皿を囲んで楽しく団欒していた。
「忘れてた!今日サッカーの決勝戦じゃん!!」
そういうと妻はリモコンを手に取り、テレビにボコボコにされてる地元チームを映した。
「なんでこんなに弱いのよぉ!」
そう愚痴りながらコンソメスープを啜っているその時だった。目を離していたらテレビから聞こえる実況者の声が今までの興奮していた声から驚きや恐怖の色に変わった。
「ギュオン」
そんな音とともにサッカーボールが観客席に飛ばされる。
「なによこれ!!」
妻はそう叫んでいた。コートの真ん中にはえぐられたような大穴があき、その中には軍服のようなものに身を包んだ若い女性がたっていた。そして一言。
「助けてください!」
そう言って頭を下げた。会場はもちろん大混乱で人1人の声など聞こえるはずもないのだが確かに聞こえた。
「2025年の皆さん!どうか私たちを助けてください!」
明らかに聞こえる。聞こえるはずは無いのに…
というか2025年?確かに今は2025年だが、この人は何を言ってるんだ??
疑問が深まる中、中断されてしまったサッカーの試合は中止になってそのまま臨時ニュースという流れになった。キャスターが事件の詳細を慌ただしい口調で話していたその時、急に画面に砂嵐が舞い、慌てる観客席を背景にした先ほどの女性が流れた。
「なんなんだこの人は‥」
俺たちはただ唖然することしかできなかった。ただその強張った表情にはどこか既視感があるようにも思えた。
「お騒がせしてしまい申し訳ございません。私は2050年からきました。」
なんだこいつ‥初めに抱いた感想はそれだった。安っぽいアニメのセリフのようで馬鹿馬鹿しいように聞こえた。だがしかし、こいつは公共の電波をなんらかの方法で乗っ取ってカメラもない中自らを映し出しているのだ。この話は嘘ではないのかもしれない‥
「私は今統合型ビジョン装置アルゴスを使って皆様とコンタクトをとっています現在我々が住んでいる2025年の日本では‥」
こうして我々2024年の人類は目を疑うような映像を網膜に移すこととなったのだ。