MMW-097
ほとんど変わらない景色が続いていた。
時折、目印なのか光を反射する石が置かれているが、そのぐらいだ。
地上と比べれば、まるで別世界のようなきれいな道。
掘る手間を考えると、まっすぐのほうがいいように思うが、時折左右に曲がる。
その壁も、地面も滑らかなほうだと思う。
でも入り口付近と比べて、やや雑というか、コスト重視であるように見える。
『妙だな……換気のための穴が無い。どうやって……』
(換気? あー……なるほど?)
浮かべた疑問に、同じく頭の中に答えが染み出る。
なるほど、それは問題だ。
通常、地上?へと換気口が作られるらしい。
そうなれば、トンネルの中と外とでウニバース粒子が動くはず。
それもなく、穴も見当たらないとのこと。
何度か未来であろう場所で、死んでしまったであろう俺。
なぜか今に戻ってきて、プレストンとして頭の中にいる。
彼の記憶に、無い出来事が最近増えているのは実感しているが……。
そんな彼が、状況を疑っている。
であれば……。
(警戒して損はない、よね)
ちらりと、目印のように置かれている石を見るが、光ってる以上のことはわからない。
なんとなく、これがポイントなような……。
とはいえ、謎は多い。
この場所まで、どのぐらい降りてきた?
少なくとも、MMWが動けるだけの空間があるわけで。
「……ソフィア、技術格差は思ったより大きいと思う。MMWの技術は別にしてさ」
「そう、ですね。もしかしたら、相手のコロニーは戦士を戦士だけに使ってないのかもしれません」
ソフィアの返事に、幾人かが頷くのがわかる。
なるほど、戦士として力をつけるほど、その辺も知ることができるわけだ。
必要なことだけを知る、というわけね。
ふと、コランダムコロニーで一時の快楽や興奮のために、命を賭ける戦士たちを思い出した。
それが良い悪いということはないけれど、もったいないのだなと最近思う。
戦士に向いていない人はいて、その人は……技術者の素質を持っていたかも、しれないなとか。
「セイヤ、もしかしたらなんだけどよ。いや、妄想が過ぎるな」
「気になるじゃん、言ってよ」
「そうか? うーん、いや……このトンネルがもっと伸びててもおかしくないのにここまでなのが不思議でな。こう、近すぎると争いの種になるからか?と思ってよ」
リングの疑問というか、つぶやきで少し空気が重くなる。
確かに、ありえる話だったからだ。
でも、わざわざソフィアの両親たちを勧誘したり、プレートを残してる以上、それだけではないのだろう。
徐々に、お互いを知って……なんだか普通の接し方だな、うん。
「かもね。でもさ、変に身構えずに同じ人間同士として語らえばいいんじゃないかな」
戦士のことを人間として扱ってるコロニーかどうかは、まだわからないけれど。
少なくとも、別のコロニーは敵同然!という態度ではなさそうなのが救いだ。
そんな会話をしつつ、進み続ける。
何人かは、地図を作りながら進んでいた。
その結果、邪魔がないというのは相当なものだとわかる。
地上の何倍ものペースで進んでいるのだ。
対して、時間の感覚はかなりおかしくなっている自覚がある。
変化や刺激がなく、一定のペースで進むというのは思ったよりきついらしい。
「今日で三日目。変化があったほうがいいような、無いほうがいいような……」
そう口にしてから、こんな都合のいいこと、ある?と思わず叫びそうになった。
視線の先で、ウニバース粒子が動いた。
半ば無意識にMMWに構えを取らせ、気持ちを試合の時のように戦闘モードに。
それは周りにも伝わったのか、一気に緊張感が増してくる。
「セイヤ?」
「何かある。友好的だといいけど……」
少なくとも、MMW級のウニバース粒子を操る何か、だ。
速度を落としつつ、カーブを描くトンネルを進んだ先は……光差す出口だった。
「出てすぐドカンはって、そこまで疑ってたら何もできないか。俺が行くよ」
ソフィアが止めるのを聞きながらも、フローレントを前に。
どきどきしながら、その上半身をトンネルの出口にさらして……光を浴びた。
まぶた越しでも、まぶしさを感じる人工的な灯りだった。




