MMW-093
遠くから、圧倒的な暴力が迫るのがわかった。
噴火場所は遠いとは言えないが、わずかな準備時間を用意してくれた。
急いでトラックたちと一緒に、障害物に隠れることにした俺たち。
幸いにというべきか、周囲には様々な障害物がある。
でも、それらは上には何もない。
『上に構えていろ。落ちてくるものをひたすら迎撃だ』
(簡単に言ってくれる!)
それでも、真剣な声色のプレストンに従い、MMWの武装を上に向けていつでも撃てるように。
リングや、他の機体も同じように上を向いている。
最悪、リングはきっとトラックをかばうことだろう。
でもそれは、最悪よりマシ、でしかないと思う。
「セイヤ……」
「わかってる、ソフィア。みんなで生き残る」
聞くだけなら、俺を心配しているソフィアの声。
そこに込められた気持ちは、俺たち以外も無事に、というものに他ならない。
見えない場所で、大きく、強く、それははじけた。
火山の中に、ウニバース粒子をため込む何かがあったのか。
リングに聞いた、地上で起きた爆発はこれのことかと思うような、衝撃と揺れ。
「お、おおおお!?!?」
「くっっ!!」
揺れに耐えながら思うのは、リングたちの赤ちゃんだ。
かなりの予算で、頑丈な居住区を整えたが、限界だってある。
無事だといいのだけど……今は何ともわからない。
こうして地面と一緒に揺れてるようじゃ、どうやっても一緒か。
揺れと音が怖いのか、泣き声が聞こえてくる。
そうだ、揺れてるようじゃ……だ。
「リング、ソフィアをお願い。エルデと赤ん坊を乗せて、飛んで少し下がる!」
「何ぃっ!? そうか、そうだな!」
「気を付けてください、セイヤ」
噴火も、波がある。
ある程度出た後は、一時的に力をためるかのように弱まったのを感じた。
ソフィアの声に頷きつつ、すぐさまトラックに横づけ。
話が聞こえていたのか、エルデが赤ん坊を抱えて出てくる。
本当なら、危険な行為だが時間がない。
「乗って、固定したら飛ぶ!」
「ええ、任せるわ」
赤ん坊は、こんな時だというのに静かだった。
いや、改めて泣きだす寸前という顔だ。
むしろ、そうして耐えているのがすごい。
「お前、強くなるよ。偉いな」
そんな言葉が自然と口から出てきた。
できるだけ優しく動き出し、ふわりと機体を浮かせる。
俺の機体だけなら、多少離れてもすぐ追いつける。
その自信をもとに、もっと安全な物陰へと移動するのだ。
動き出した俺を狙うかのように、再び噴火の勢いが増した。
「やらせないっ」
エルデと赤ん坊に負荷がかからないように気を付けつつ、できるだけ高速に。
途中、感じるままに機体、フローレントの腕を後ろに向け、発砲。
見えないけど、飛んできた岩が砕けるのを感じる。
「セイヤ、貴方……」
「ははっ、このぐらいはしてみせるよ」
きっと、飛んでくる岩も資源として優秀なんだろう。
1つ1つに、ウニバース粒子の力を感じるからこそ、見える。
どうにも当たりそうなものだけを砕き、後は回避。
そうこうしているうちに、無事に大きな岩陰に逃げ込めた。
それからの時間は、長いような短いような。
「終わった……かな?」
「ええ、そのようね。揺れも無くなったわ」
力も、感じなくなった。
途中、泣きっぱなしだった赤ん坊も今はスヤスヤだ。
(なんていうか、大物だな)
『まったくだ。この状況で疲れてるからって寝てしまうのだから)
赤ん坊のすごさに笑みを浮かべつつ、機体を物陰から出す。
見えてきた山は……形を大きく変えていた。
「ここからでもわかるほど、へこんでるわね」
「うん。ひとまず合流しよう」
逃げてきたルートを今度は戻る。
上から何も来ない分、上がる速度の割りに振動は少ない。
そうして、すぐに見覚えのある障害物たちが視界に入る。
トラックやMMWも、無事のように見える。
「ソフィア、リング、無事?」
「おう、無事だぜ」
「よかった、セイヤ」
無線にもノイズは無し。
そのことにとても安心し、思わずため息のように吐息が漏れた。
本番は、これからだというのに。
「準備を整えたら、移動再開だよね」
「ああ、そうなる。ったく……」
わかっていても、大変なものは大変。
そんな当たり前のことを感じつつ、エルデたちを下すべく、トラックに横づけする俺だった。




