MMW-089
「今日は何を買いそろえましょうね。遠征に備えて、保存食でも……セイヤ?」
「ん、いや……みんな、自分の目の前しか見てないなと、思ってさ」
自分にその意味では余裕ができてきたからこそ、感じること。
このコロニーだけではないんだろうけど、人類に未来はどこまであるんだろうか?
自分で工場とかいうのを作るのはなかなか難しく、かつてのものを発掘して使っている。
資源はなぜか、豊富に産出するらしいけれど……それだって自然なのかわからない。
本当は地上にあった倉庫やらなんやらが、地下に落ちてきてるだけじゃないだろうか?
(なんだろう……最近、こんな考えがふと浮かぶ)
『俺のせい、かもしれないし、そうじゃないかもしれない。俺にもよくわからんな』
自分のことを、俺以上に知っているであろうプレストンもわからないんじゃ、仕方ないか。
仕方ない……んだけども。
「そうかもしれませんね。みんな、今日を生きるのに必死です。私も、こうなるまでは考えなかったことですけど。明日は必ず来るわけじゃないんですよね。だから、でしょうか」
「そっか……だから妙に思い切りがいいというか、そもそもそう生まれたからって、戦士が戦い続けるのも不思議だったんだよね」
コロニーの根幹をなす、戦士の生産。
かつての人類が残した、人間の種とでもいうべきもの。
資源がある限り、いくらでも戦士を生み出せるらしい。
そうなると、気になることがある。
アデルのような、強くなった戦士と同じ人類を生産していけば、もっと容易に外で動けるはずだ。
なぜそうしないのかは、考えないほうがいいのかもしれない。
あるいは、探してるのだろうか。
まだ眠り続けている戦士候補の種の中に、何かとんでもないのが眠っているはずだと。
「私は、セイヤが来てくれてうれしいですよ。ようやく、父たちの真実もつかめそうですし」
「まあね。それは間違いなく、こなすよ。もうちょっと上がれば、たぶん行けるでしょ」
もうちょっとというのは、適当な話じゃない。
こうして街中を歩いていても、視線の変化を感じる。
店に行って、すぐに相手はこちらのことをわかった対応になる。
──まるで、トップランカーのような扱いだ
特別な反応に遭遇するたびに、そう思う。
まだランクが5になってもいないのに、これでは上位のトップランカーのようだ。
それだけ、みんなの記憶に残っているということで喜ぶのがいいのだとは思う。
「はい。楽しみというと変ですし……ああ、期待しています。セイヤのことを、是非紹介したいです」
「その時は、逃げずに会うよ」
ソフィアも、その望みはかなうか怪しいとわかっている。
すでに両親とその仲間が外で消息を絶ってから、かなりの日にちが経過している。
普通に考えたら……でも、見つかっていないというのはそういうことだ。
希望と絶望を、天秤に乗せて危ういバランスで生きているのだ。
「ええ、必ず会ってもらいます」
ソフィア自身も、それはきっとわかっている。
それでも気丈にふるまう姿に、俺は彼女についていく気持ちを新たにする。
結局、いくつもの店を回り、この時間を楽しんだ。
例えば普段使いもできるような保存食を買ったり、着替えを買い込んだり。
以前彼女が手放した物品も、見つけるたびに買い戻した。
1つ買い戻すたびに、どこか嬉しそうに、それでいて悲しそう。
1つ1つの思い出に、複雑な感情があふれてきてるんだと思う。
俺にはない、人生の思い出。
『これから、作っていくもんさ』
(そう……かな? そうかも)
慰めの言葉にうなずき、感情を表に出さないようにしてソフィアの荷物持ちを続ける俺だった。




