MMW-008
「俺のことを知りたい? なんで?」
「こうしてパートナーとして過ごしているのですし、より知っておきたいと思ったんですが……だめですか?」
補給と整備が終わってしばらく。
次の試合がいつ決まるかはわからない時間は、大体が訓練か休養の時間だ。
上のランクになると、色々と娯楽があるらしいけれど、詳しくは知らない。
俺はと言えば、体力をつけるためにガレージ内を走りこんでいた。
そんな時に、ソフィアお嬢様がやってきたと思ったら、この質問だ。
『単なる好奇心、お互いの信頼構築、色々考えられるな』
(どれも正解な気がする、うん)
足を止めた俺の体からは、運動による熱気が立ち上っている。
まずはタオルでと思ったら、ちょうどお嬢様が差し出してきた。
「ありがとう。うーん、面白い話じゃないけど?」
「それでもかまいません。今後の予定、どういう方向性で行くのかの参考にもなります。それに……どうしてセイヤがそんなにMMWのことを知ってるかも」
そう来たか。
確かに、よそからすると俺はちょっとおかしいかもしれない。
ほかの連中と同じように、ひとまとめに教育を受けただけのはずなのだから。
だというのに、基本的な整備は自分でできるし、迷いがない。
慣れ親しんだいつものこと、そんな動きだと思う。
原因は間違いなく頭の中の俺だが、わざとつたない整備をする気もない。
だって、そんな整備状態で戦えば、負けて死んでしまうのだから。
「ん、座りなよ。長くなるかもだからさ。物心ついた時から、俺は親がいない状態だった。他の奴らと同じでさ、良いご主人様に買ってもらうんだぞって流れで教育さ。成績はまあまあかな?」
多分、教育係は元MMW乗りだったんだろうな。
現役の可能性も十分にある。
いかつい顔に、傷だらけの体。
訓練は厳しかったし、うっかり怪我した日には治療はろくになし。
とはいえ、無理に動かさないのは考えられた結果なのかもしれない。
「で、段々と顔ぶれが減っていくわけ。ああ、次は俺かな?って思いつつ、過ごしていたらあの日が来た。MMWの整備訓練でさ、壊れたままのMMWを教材にあれやこれや。俺自身は順調だったんだけど、ミスったやつが1人。よりによって、メタルムコア……ウニバース粒子を使ってるコアね。その補助動力のバッテリーを壊したのさ」
あれは一瞬だった。あっと思った時には頭真っ白だったもんな。
見学のためにそばにいることを強制されていたのが、一番やばかった。
バッテリーの炸裂と同時に、駆動用オイルも飛び散り、ちょうど俺はそれを浴びて感電する状態にあった。
「感電した時に、衝撃で吹き飛んだから一瞬だったみたいだけどね。そしたら、これで意識をしばらく失ってた」
袖をまくって見せれば、両腕に走る文様のようなやけど痕。
冷静に考えれば、本当に生きているだけで奇跡的だ。
後遺症もその意味ではなかったし。
『俺という存在は怪我じゃないからなあ、ハハハ』
(自分でいうのは、なんだかムカツク……いいけど)
そう、お嬢様には言えないけれど、その時に頭の中の俺を自覚したのだ。
というか、とてもうるさかったんだよね。
ここは?とか、この光景は!とか。
本当のことだと告げても、お嬢様は混乱するだろうからここはカット。
「それからかな? 教わったことが妙に覚えていられたり、MMWを見てると色々わかるようになったんだ。偶然かもしれないし、何か起きたのかもね。でも、それだけじゃ戦えない。戦士になるには……」
「私が、飼い主が必要だから」
頷き、改めてソフィアお嬢様を見る。
ガレージのコンテナに適当に座っているだけなのに、妙に様になる姿。
生きる場所が本来は違うんだろうなと思う瞬間だ。
「お嬢様には期待してるよ? 俺が、この人だってピンと来たんだ。命を預けて良いと思った。生き残って、空を見るために賭ける価値があると」
「ありがとう、ございます。ふふ、面白いですね。実は私もです。問いかけた時、この子は他と違うと、感じたんです」
『こいつは驚いた……ソフィアも、何か……いや、元々か?』
頭の中の俺が少しうるさいけれど、俺は気分が高揚していた。
これは、うれしい? うれしいのか、俺は。
「お嬢様、俺はあきらめない。だからお嬢様も、ソフィアも……」
「ええ、私はもうあきらめません。セイヤ、登り詰めましょう」
汗でにおうはずの俺の手を、気にせず握るお嬢様。
そんなお嬢様に笑みを返しつつ、俺も相手の笑みを見つめるのだった。