MMW-086
「戦士セイヤ、君はトレジャーハンターか何かだったのかな?」
「俺がわかるわけないでしょ……」
いい加減慣れてきたのか、ベルテクス相手でも口調が軽くなる俺。
最初のころは緊張に襲われていたが、今はそうでもない。
そんな2人の間に交わされるのは、俺という人間の前のこと。
でも、わかるはずもない。
俺自身、普通に生まれてきたのではないからだ。
かつての人類が残した、人類の種。
いつかは誰かだった俺が、新しく生まれたのが俺なのだ。
前にどんな人間だったかなんて、わかるはずもない。
はず……なんだけども。
(前の変な光景は記憶? それとも……)
『その辺は今度考えよう。今は話の途中だ』
プレストンの声に、考え事をやめて前を向く。
久しぶり……というほど間は空いていないベルテクスからの呼び出し。
話題はもちろん、持ち帰ったアレらだ。
なんでも、コロニーにあるいろんな工場はああいうのを流用してるらしい。
どうにか設定をいじることで、作るものを切り替えるのだとか。
つまり、コロニーにとって、大きな戦力増強ということになる。
「それはそうだ。ここに飼い主を呼んでいない理由はわかるかな?」
「質問ばかりだね。んー、わかるけど、今はいいや。それよりMMWの武装をもっと揃えたい」
「武装を? 欲のないことだ」
大きなお世話である。
彼の言う飼い主を呼んでいない理由、それは報酬の高さだ。
それにより自分を買い戻せる、自由になれるというものだ。
飼い主との関係が対等になると、問題が起きることがある。
それを防ぐために、飼い主であるお嬢様が呼ばれていないのだ。
「もっと、強くならないとね。アデルを吹っ飛ばせるぐらい」
「なるほど、それはいい考えだ。彼も喜ぶことだろう」
ベルテクスの声には、どこか明るい感情を感じる。
彼とアデルも、また長い付き合いなのだろう。
半分冗談で言ったことではあるが、トップランカーであるアデルは、本当に喜んでくれそうだ。
孤独ではないというのは、それだけの価値があることだからだ。
「本人からも申し出はあるだろうが、戦士リングともよく相談するといい。チームで使えるのだからな。さて、ではついでに試合について話そう」
「それはいいけど、試合が成立するの? 俺がいうことでもないけどさ」
からかうような俺の言葉にも、空気は変わらない。
周囲の護衛も、ベルテクス本人が許しているからか、俺に害意を向ける様子はないのだ。
相変わらずの、鍛えられた体に隙のない動き。
感情のないようなその……んん?
(前から、人間らしくないと思ってたけど……)
「ねえ、この護衛たちって」
「輝石具。聞いたことはあるだろう。あれの一種だ。いうなれば、小さなMMWだな」
ちょっとした護衛ぐらいにしか役立たん、とベルテクスは言うが、そんなものだろうか?
金持ちの考えることはよくわからないものだ。
お嬢様たちの警護にはいいかもしれないけどね。
「そっか。まあいいや。リングとよく相談するよ」
「そうしたまえ。さて、試合のことだったな。大丈夫だ。報酬に特別な条件によるものを追加した」
そう言って、手を挙げたベルテクスと俺の間に、タブレットが2枚差し出される。
1枚はベルテクスの手に、もう1枚は俺のほうに。
表示された内容は、なるほど。
『まるで依頼だな』
(そんな気はするね……不殺、機体の四肢破壊、気絶、なるほど)
様々な試合内容、条件により敗北しても報酬が出るという一覧だ。
ここにきてようやくというべきか、相手を殺さないことが高収入になるという道がはっきり示された。
俺みたいな変な奴が、今まで死んだ中にいたかもしれないとでも考えたかな?
単純に、戦士の数が減るのはコロニー全体で考えると不利益だということかもしれないが。
「挑むだけでも報酬は約束されている。試合内容によっては、もっと多くが見込めるというわけだ。それだけ、君を含めた最近のランカーたちの試合は、人気が高いということだ」
「よくわかったよ。これは利用させてもらう。いいよね?」
「ふふ、もちろん」
俺の目的、そのためには実力をどんどん示す必要がある。
そのための、試合回数とそれでの勝利。
それが満たせそうな状況は、見逃す理由もない。
俺の問いかけに、満足そうにうなずくベルテクス。
頷き返した俺は、そのまま部屋を去る。
待っているお嬢様たちに、このことを伝えて準備をしなくては。




