MMW-080
高さと距離は強さである。
そのことは、教育でもいつの間にか叩き込まれていた。
よく考えると、あのヘルメット型の教育機材、なんだろうな?
たぶん、発掘品だと思うけど……うん。
都合のいいところだけ抜き出した人類の歴史、そんな中身だ。
プレストンは知っているような、地上のことやらなんやらは無し。
いつか地上に出ることを人類は願っている、そんな終わり。
(でも、100詰め込んで10も身に着ければいいほうって言ってたな)
そんな教育係の男の言葉を、ふと思い出す。
残った相手との戦いは、まさにそんな感じだった。
「リングっ!」
「任せたっ!」
打ち合わせ通り、前衛後衛を瞬時に交代。
相手は、俺とリングの速度の違いに、わずかながら混乱するのがわかる。
高速戦闘が基本のMMW同士の戦いにおいて、その差は致命的なものになる。
迷う前に撃て、それが教育で最初のほうに教わる戦い方だ。
それは、この瞬間でも適用される。
相手は迷い、俺は迷わずに撃つ。
「避けるか構えるかすればいいのにっ」
思わずそう口にしてしまうほど、相手の1機は無防備に攻撃を受けた。
中身は無事でも、大けがだろうなと思うが仕方ない。
そして、この被弾がまた相手の混乱を呼び……あとは総崩れだ。
これまでの反省を活かし、試合としてはわかりやすい動き、攻撃を意識している。
あとから映像の編集もしやすいかな?なんて考える余裕があるぐらい。
それもこれも、俺自身が強くなければ始まらない。
今は余裕があるけど、この先はわからない。
「もっと、強くならないと」
「気持ちはわかるが、足元も大事だと思うぜ。それに、目的は別なんだからよ」
「……そうだね。その通りだ」
水が沸騰する直前みたいな感情の動きが、すっと鎮まる。
重みのあるリングの言葉をかみしめながら、降参した相手を眺める。
俺が攻撃を直撃させた機体のパイロットは、生きているようだ。
運ばれていくのを見ながら、明日は我が身と気を引き締めた。
「難しいことは、みんなで考えればいい。1人で抱えてもろくなことにならない。俺はそうエルデに泣かれたよ」
「ははっ、なるほど。こっちもお嬢様に泣かれそうだから気を付けるよ」
『大事なことだ、本当にな』
いつか、プレストンの言葉をみんなにも聞こえるようにできるのだろうか?
発掘されるというかつての技術なら、そんなのがあるかもしれない。
外での目的の1つに、加えてみてもいいだろう。
『俺は俺さ、たぶん……な』
小さなつぶやきは、どこか嬉しそうだった。
こちらも微笑みつつ、MMWを後退させ、引っ込む。
大きなガレージといった様子の待機場所。
照明も限られており、どこか薄暗さを感じる空間だ。
出迎えに来たエルデに、すぐに駆け寄るリング。
そのそばで微笑みながら俺を見るソフィアお嬢様。
(なんだろう、妙に懐かしいような……)
何とも言えない感情が沸き立ち、不思議に思いながら歩きだす。
と、なぜか視界がダブる。
めまい? 幻覚? どちらとも違う。
──見えたのは、いくつものMMWと足元で語らうパイロットたち。
(これはプレストンの記憶? いや、でも……違う!)
窓から見えるのは、青い青い空間。
空、そう直感する。
プレストンも、こんな場所で過ごした記憶はないはずだ。
だって、今の地上は……こんな青じゃなく……。
「セイヤ?」
「はっ!? な、なんでもないよ。お嬢様。戦いが終わってちょっとぼんやりしちゃったみたいだ」
立ち止まったままだったらしく、お嬢様が目の前に来ていた。
そうですか?なんていう声を聞きながら、無言で歩き出す。
『わからん』
(そっか……)
短い一言に、不思議と気持ちは落ち着いていくのを感じた。
俺の記憶でも幻覚でもなく、プレストンの記憶でもない。
なら、ありえるのは1つ。
地下世界で戦士になる前の俺、だろう。
報酬の結果を待つための部屋に移動しつつ、そんなことを考えた。




