MMW-078
とんだ頑固者、あるいはわがまま。
新しいメタルムコア、スカイブルーを組み込んだMMWフローレントは、別物になっていた。
出力は当然のことで、その力の引き出す速度、供給量も全部だ。
何より、力の使い方が楽になった……なりすぎた。
ここで失敗して墜落でもしてしまったら、また元のコアに戻さないといけない。
今のところは、なんとかなりそうだ。
なんとか、だけどね。
「どっちが上だか下だか……っとぉ!」
『こればかりはとにかく経験だ。今までのブースターの跳躍とは違う。飛翔だ』
冷静な声に自分も習うように気持ちを整え、どうにか機体を着地させる。
俺とリングしかいない練習用のスペースに、砂煙が舞う。
なお、この場所を借りるのは案外安かった。
理由は、すぐにわかるとプレストンは言っていたけれど……。
「どうだ、調子は」
一息入れるべく、コックピットから出た俺に声がかかる。
あちらはあちらで、あれこれ機体を動かしていたリングの物だ。
「悪くないね。戦い方ががらりと変わるけど」
「だろうな。アデルも常には飛んではいない、それで十分だろうさ」
そう、あのアデルもこんな飛翔はメインにしていないのだ。
もちろん、武装にこだわらない時には選択肢にはあるようだけど……。
なぜか俺にとっては、飛ぶということは妙にしっくりくる行為だった。
これまでも、跳躍として飛び上がっていた時にも感じた高揚。
俺という戦士の人間としての情報、そこに秘密があるのかもしれない。
プレストンは、遺伝子がどうこうとか、細胞の解析データとか言ってたけど、よくわからない。
ただ1つ言えるのは……戦士にも、向き不向きはあったということだ。
中には、まったく戦えずにひっそり消えているやつもいた。
そんな戦士は、元々は戦うことなんか一切ないはずの人間だったかもしれない。
「俺、空で働く何かだったのかなあ?」
「かもしれんなあ。ま、考えても仕方ない。戦い方はどうする」
言われ、これまでに買った武装を順々に思い出し、考える。
空を事実上飛べるのは、大きな強みであり、弱点でもあると思う。
遮蔽物に隠れられないということは、大きな弱点だと思うからだ。
それでも、飛翔は強い、そう感じる。
「飛ぶよ。考えてみれば、MMWに対空って概念はほとんどない」
「……おお?」
「ちょっとやってみる」
言われてみれば、と納得した様子のリングに頷き、機体に乗り込む。
再びMMWを戦闘可能な状態に持っていき、モニターの情報を読み込む。
減っていない機体の耐久度合い、各部の摩耗具合など。
そんな中に、ロックを受けている警告が複数。
撃たれる前のものではなく、カメラを向けられているというものだ。
これが、借りるのが安い理由。
そして、あまり利用者がいない理由でもある。
「違反行為をしてないかという建前で、情報収集か。まあ、飛翔は真似できないと思うけどね」
『そうだな。対空の考えも、他にやるやつがいないんじゃ教育時間の無駄とされるだろう』
リングも乗り込んだのを確認してから、何もいない場所に、目標がいるかのようにイメージ。
最初はこれまでのように地上を滑るように進み、そして飛翔。
ちょうどMMW数機分ぐらいの高さを維持し、左右に大きく、素早く飛び回る。
そう、いざとなれば急降下からの近接武装を叩き込める距離で。
「本当なら、もっと上、ぎりぎりまで飛んだほうが楽だけど、そうなるとリングが1人になっちゃうから」
「そりゃそうだ。ぞっとしねえ。そのぐらいの高さなら目立つ、目立つがわかりやすいか」
人間、どうしても目についたものを追うし、気にするだろう。
俺は常におとりになれると思うのだ。
そして、上を向けて撃っていれば、その分リングは安全になる。
違う方向に気を配らないといけないのは、かなり相手への圧になるはず。
「そういうこと。相手してもらえる?」
「ちっ、しゃあねえ。セイヤ以外に飛ぶ奴が出てきたときに動けるか……」
苦労するのが目に見えてるからか、少し渋ったリング。
けれど、経験の大事さを感じたのか、結局は了承してくれた。
それから時間いっぱいまで、俺が上から撃つ、リングが避ける。
可能なら反撃と回避のパターンも、と特訓を続けた。




