MMW-077
一抱えほどもある青い石。
原石だと思われるその塊が、見事に輝く宝石になっていた。
小さい普通の物なら、人の手でやるらしい作業。
今回は、MMW用のサイズということで作業も小さなMMWみたいなものでやったらしい。
まるで厚着するかのような作業道具には、不思議な魅力を感じた。
カットを終えた後の姿は、石も作業者も歴戦の戦士のそれと同じに見えた。
「見事なものですね」
「仕事ですから。素材もいいものでした。それで、どのように刻みますか」
お嬢様の賞賛に、言葉はともかく満足そうな職人。
そんな職人に促され、どういうコアにするかを考える。
事前に考えることもできたけど、実際にこうして石を見ると考えも変わってくる。
部屋の明かりを吸い込み、輝きを放つ青。
少し明るめのそれは、俺の視線すら吸い込んでいきそうだった。
そんな石に感じたのは、自由、それをつかむための翼。
「翼、つかみ取るための、翼だ」
「機動力、加速、飛翔、そんなところですかね。飼い主もそれでよろしいですか」
「ええ。戦うのは戦士ですから」
口にしたら、妙にしっくり来た。
そうだ、この青は水の青ではなく、以前見た地上の空だという……あの青。
困難を打ち砕く力ではなく、どこまでも行け、遠くてもつかみ取るそれ。
『まるで星そのもの……いや、忘れてくれ』
懐かしむようなプレストンの声も気になるけど、今は目の前の現実が大事だ。
「では基盤を刻みましょう。飼い主の方は別室でごゆっくり。戦士セイヤ、こちらへ。MMWで武装を扱うように、力を意識して」
「MMWのように? なるほど……」
誘われるままに作業場へ。
コンテナ状の部屋のようなものが鎮座していた。
これがメタルムコアになるのだろう。
そんな中に、台座が1つ。
そこに職人が青石を置き、手招きされる。
手を振れ、目を閉じて力を感じるべく視界を切り替える。
とたん、まばゆいほどに光る青石が見えた。
(まぶた越しにこれは、すごい)
『当たりを引いたな。うん、これはかなりのものだ』
感心した様子のプレストンの声を聞きながら、職人の言うままに力を意識。
武装を使うときのように、ウニバース粒子が動くのを感じる。
それは石を通して台座に伝わり、周囲の壁にさらに伝わっていく。
そばにいる職人が、何やら手にしたものも輝いている。
目を開いてそちらを見ると、ハケのようなものを持って、何かを塗っている。
「特別製の液体金属です。力が通ると硬くなるので、やり直しできないんですよね」
視線に気が付いたらしく、そんな答えが返ってきた。
質問されるのはいつものことなのか、こちらを見ずに職人は作業を続ける。
力を途切れさせないようにと注意を受けつつ、作業を見守る俺。
そして、瞬く間に周囲に基盤が描かれていった。
これは基盤というより、芸術品ってやつでは?
それに、何かを感じる。
言葉にできない、ただ配置されただけではないものを。
手を放していいと言われ、数歩下がって眺める。
とても不思議な空間になった気がする。
「これでひとまずは完成です。あとはメタルムコアにするのに、半日というところですね。これは別の機材で行います。半自動なので、待ってるだけでよいです。ああ、そうだ……コアに名前、付けてみますか?」
「コアに? そんな決まりとかあるの?」
「決まりはないです。愛機に名前を付けるようなものですね」
プレストンは黙ったまま。
ここは俺に任せるということらしい。
でも、そうとなれば思いつく名前がある。
つかみたいもの、目指すもの。
「スカイブルー、これで」
「なるほど、個人的にですが、良い名前だと思いますよ。一点ものになりますからね。壊さないように注意してください」
「そりゃそうだよ。負けなければ、いいんだよね」
俺の試合を一度は見たことがあるのだろうか。
無謀ともいえる俺の言葉に、確かに、あなたならできそうだなんて返ってきた。
名づけをして、改めてコアになる青石を見る。
「長い付き合いになりそうな予感」
「そうじゃなきゃ、コアごと死んでますからね」
身もふたもない職人のつっこみに、苦笑する俺。
後はやることはないそうなので、別室で待っているお嬢様のもとへと向かうのだった。




