MMW-074
「遠征かぁ……」
試合開始までの間、先日のアデルとの会話を振り返る。
ちなみに、今日は俺1人である。
試合開始前に、エルデの体調が少し悪くなり、付き添っているのだ。
『遠征の中身は様々だ。何せ、依頼人の都合で全部違うからな』
(なるほど……簡単なのから、もう戻ってこない前提のまであるんだね)
勝手に浮かぶ記憶に、一人頷く。
だいぶ慣れてきたけど、直前まで知らなかったことを、思い出すというのは不思議な感覚だ。
なんでも、未来の俺らしいプレストンが覚えていることを、俺が思い出すからだとか。
未来のことを思い出す、言葉にするとわからないけど、必要以上に理解する必要はないな。
「参加してくれる人が出てくるように、実力と知名度をあげないと、か」
誰かに聞かれても大丈夫なように、言葉を選びながらの独り言。
我ながら、なかなか変なことに慣れてしまったものだ。
ランク2も3も、正直ほとんど所属してなかったに近い。
あっという間のランク4が現状だ。
そして、ここから先はランクがあってないようなものとも知った。
「一定期間に、取得していた勝ち数や専用ポイントで、自動的に上下する、と。やりがいがあるね、うん」
専用ポイントとは、いうなれば戦力を数値化したものらしい。
戦力値とか言っていたそれが、上がりたての俺とリングの場合はなんと平均の倍近い。
じゃあどうなるかというと、今回のように俺1人対どこか2人、が誕生するわけだ。
リングも付き添いたいと思っていたので、ちょうどよかった。
「セイヤ、間もなくです」
「うん、わかってる。お嬢様は勝った俺を迎える準備しておいて」
ここから先は、相手の実力もあがっている。
そのことは、戦うわけじゃないお嬢様にもわかってることだ。
けれど、その状態で戦力値がそのように評価されているということは、だ。
「俺に勝ち目が十分あるってことだからね」
一息にそう言って、合図とともに飛び出した。
メタルムコアを2つ搭載に改造したMMW、フローレント。
気が付けばランク相応になってしまった機体を、直進させる。
たまに、このまま相手が出てこず不戦勝もあるにはあるらしいんだよね。
今回は、違ったようだけど。
「っとぉ、鋭い!」
さすがに、直撃はまずいなと感じるエネルギー弾が複数。
狙いが鋭いそれを、わずかに機体を揺らして回避。
その間に、敵機が出てくるのを感じた。
モニターで見ずとも、ウニバース粒子の動きがそれを教えてくれる。
精度を調整して使うこの見える感覚は、これから武器の1つになるだろう。
例えばそう、相手の殺気のようなものも感じ取れるから。
「コア2つってわかってるのに、手足狙いか!」
いたぶるつもりなのか、コアに直撃では盛り上がりがないということなのか。
直接聞くことはできない中、勝手にそんなことを予想して回避行動。
相手が次にどこへ移動しようとしているのか。
その予測をもとに、実体弾とエネルギー弾を叩き込む。
片方はヒット、片方は足を止めた。
「この隙に位置を変えるっ」
素早くブースターを横に吹かし、機体を移動。
ちょうど敵と俺の間に、もう1機を挟む位置に。
そのことに気が付いた2機が慌てて動き出したけど、遅い。
射撃を挟みながら、ずっと同じ位置関係を維持する。
「撃ちにくいよねえ。それが狙いだけど」
当然、この配置となると俺にとっては一対一でしかない。
たまに飛んでくる援護射撃は、当たるようなものじゃないからだ。
「壁際に逃げれば、どうにかなったかもしれないけどね」
この作戦の、穴といえば穴を口にし、被弾覚悟で間合いを詰める。
近づくほどに回避は難しく、さすがに被弾するけどまだまだ軽微。
あっという間に、近接武器の間合い。
ウォーピックを左右の手首外側に1本ずつ、それとは別に短めのエネルギーブレード。
今更後退しようとしても、もう遅い。
片腕ずつ無力化し、さらに接近して接触。
「相方のお届けだ!」
腕が落ち、軽くなった相手をつかみ、無理やり投げ飛ばす。
飛んでいく先は、もう一機。
避けるか受け止めるか、悩んだらしい敵機の動きは止まった。
ウニバース粒子の動きでそれを感じ取りながら、相手に気が付かれないように接近。
投げ飛ばした敵機を追いかけるようにして、観客からは丸見えだけど、相手からは見えない動き。
「終わりっ!」
相手からすると、いきなり真横に俺が出てきたように見えたことだろう。
武器を持った腕を斬り飛ばし、そのまま片足も切断。
大きな音を立てて、2機が連続して試合会場に倒れる。
響き渡るその音が、俺の勝利の合図でもあった。




