MMW-006
場内に、アナウンスのあおる声が響くのが聞こえる。
リズムよく語られる戦う戦士の名前や経歴、そしてMMWの傾向、戦い方。
隠し事なんてあってないようなものだけど、前回の試合結果なんかは細かく語られる。
その理由は、単純なものだ。
誰にいくら賭けるかの参考になるからだ。
『対策としては、毎回戦い方を大きく変えていくことだが、訓練不足にもなるからな』
(そういうことだよね。今回は俺たちが駆け出しだからなんでも許される)
モニターに映る機体重量や、四肢のバランスを改めて確認しつつ、作戦を思い返す。
この方法なら、白けることもあまりなく、これはこれでと思われる……たぶん。
「セイヤ、各関節付近の増加装甲は丈夫にしてあります。これなら、よりらしく見えるでしょう」
「あ、なるほど。ありがと……勝つよ」
「ええ、勝ちましょう」
通信越しの、お嬢様の声。
最初は頼りなく、ただのお嬢さんって感じだったけど少し変わったかな。
『現実が見えてきた、というのはなんだが、自分にできることがあるってのは効いてくる』
「俺にも言えること……だよな。歓声、試合が終わったか」
俺みたいな戦士は数が多い。
それは、ひとまとめに訓練をさせられたときに感じたことだ。
この場所で生まれたやつ、どこからかさらわれてきた奴、そして、逃げてきた奴。
誰もが等しく、暴力の前に命をさらす。
「俺が生き残るために、誰かの未来を……もらう」
『どれだけきれいごとを並べても、それは確かだからな』
自分に言い聞かせるようなつぶやきに、俺自身が同意する。
そのことがなんだか可笑しくて、緊張がどこかに行ったような気がした。
ガコンと音をたて、俺の操作するMMWが乗った台が停止する。
修理が間に合わず、まともに戦えないやつでも戦いには強制参加。
試合会場まで歩いて行けなければ、強制的に敗北……らしい。
できるだけ素人感を考えながら、MMWを前に。
感じる振動と音が、徐々に感情を高ぶらせていく。
『才能があるんだよ、俺らにはな』
(うれしいのか悲しいのか……)
少し暗い通路から、まばゆい会場へ。
目を細めながらも、前から視線は外さない。
視線の先には、予定通りの相手が1機。
どこか壊れかけのようなスピーカーの音が続き、戦闘開始。
とたん、俺の視界に火花が散る。
相手の放った銃弾が、装甲に当たったのだ。
『装甲減少軽微、問題ない』
「いきなりか。やってやるっ!」
開始直後、相手は両手の銃を一気に撃ってきた。
何もなければ、それらをまともに受けて少なくない損害が出ていただろう。
ただし、俺たちは今回、対策を立てた。
『左右の移動を忘れるなよっ』
「わかって……るっ!」
ショーらしく、楽しませるための低威力弾。
威力の代わりに火花は激しく散り、派手さは間違いない。
今日、その暴力は間に合わせの鉄板、スクラップからかき集めた装甲版による盾に防がれている。
もちろん、この戦いが終わったらダメになるような、つぎはぎの使い捨て。
それでも、この状況なら時間と手間を稼げる。
「右へ左へ……そうだ、撃ってくるしかないよなあ? 安くない弾をさあ!」
相手は両手による二丁の銃、連射できるタイプで足を止めさせ、削っていくのが主な戦い方。
このランクなら、性能は似たり寄ったり。
当たれば削られるし、逃げ切れるほどの速度は出せない。
だからこそ、手を止められない。
短いような長いような時間、踊るように逃げ回りながら火花をまとい続ける。
聞こえる会場の歓声は、俺の戦法が否定されていない証拠。
(いたぶられるネズミを見て楽しいってか? ふざけてる)
「セイヤッ!」
「聞こえてる、よっ!」
ノイズを押しのけて聞こえる、悲鳴のようなお嬢様の声。
平気だと叫び返し、機体を前に進めさせる。
相手の銃撃、その圧が弱くなったからだ。
調子よく連射している弾だって、ひたすらに撃ち続けていたら、大赤字だ。
それを考えたら、予備だって多くは持てない。
なぜなら、俺も相手も、まだまだランクが低いからだ。
序盤と同じように左右に機体を揺らしながら、近づいていく。
そのことに相手が気が付いたであろうときには、もうこっちの間合い。
改めてこちらを穴だらけにしようと撃つ前に……。
『接続ボルト、パージ準備OKだ。行けるぞ』
「行けっ!」
だいぶ傷んできた盾。
もう何度か防ぐのが限界だろうソレ。
しかし、まだ金属塊としての強さは残っている。
わざと砂煙を上げる動きをしながら、相手へとそれを、投げつける。
MMWは戦える重機同然の存在だ。
建築にも使われるそのパワーは、傷んだ金属塊を投擲武器とするには十分。
当たればタダではすまないそれを、当然相手は回避しなくてはならず。
「撃つのを、止めたな?」
一気に機体を前進させ、相手の機体、その汚れすら見える距離に接近した。
慌てて銃を構えなおす相手だが、少し遅い。
盾を手放し、自由になった両手で相手の銃をつかみ、上に押し上げる。
「お……らぁっ!」
そのまま、機体に膝蹴りさせる。
追加で装甲版を増やし、丈夫になった膝部という近接武器を使って!
金属がひしゃげる音。
伝わる手ごたえとしての振動。
なおも追撃しようとしたところで、相手の銃を捕まえている手に、抵抗がないことを悟る。
脱力するように俺のMMWにもたれかかる相手のMMW。
「はぁはぁ……よしっ!」
『バイタルはまだ反応がある。気絶、かな? ただまあ、勝利だな』
無防備にさらされるコックピット部分に、あと何かしたらまさにトドメだ。
試合の勝利条件は、相手の降伏か死亡、そして気絶等による行動不可。
今回は、行動不可が勝利条件になるだろう。
「念のために武器は取り上げてっと。お嬢様、聞こえる?」
「ええ、ええ。聞こえます。お疲れ様です、セイヤ」
皆にも聞こえているというのに、口調が主人っぽくないお嬢様。
これはまた、虫が寄ってこないようにしないといけないなと感じる。
蜜を得るのは、俺だけでいいのだから。
MMWに相手の銃を持たせたまま後退、相手のMMWが運び出されるのを見つつ、勝利の余韻に浸る俺だった。