MMW-066
「ここがあっせん場?」
「がっかりしたか? 思ったより小さいって」
からかうような声に、あいまいに頷く俺。
リングが嘘を言う必要もないから、本当にここがそうなんだろうけど。
コロニー内に、いくつもある建物にしか見えない。
なんなら、すぐ横の建物と区別がつかないぐらい。
(看板らしきものがあるのが、違いかな?)
「正直、うん。もっとこう、にぎやかで並んでると思ってたよ」
「昔は結構にぎわったって言うが、最近はこんなもんだ。なんでかわかるか?」
「理由……」
リングに案内されるまま、建物の中に。
中もまた、広い空間に奥にカウンター。
そこに事務員だろう人が1人いるだけだった。
こちらを、カウンターの向こうから見てくる事務員は女性。
髪を後ろで縛っている、眼鏡をした地味そうな人だ。
俺たちと事務員さんの間には、座る人間のいないたくさんの椅子が、いくつもの丸机を囲んでいる。
(ここはどこにあるかを考えると……)
「稼ぎが悪いから?」
「ま、わかるよな。俺もこっちで稼ごうとはあんまり思わない。たいていは1人じゃないから、安全ではある」
「リングさんの場合、監視が緩いからじゃないですか?」
暇そうにしていた受付の事務員が、そんなことを言ってきた。
リングもまた、久しぶりという感じで返事を返している。
「おいおい、後輩の前なんだ。かっこつけさせてくれよ。ああは言ったが、単にこっちでは需要に応えられないっていう部分もある。そうだろう?」
「ええ、残念ながら。最近は新発見も少ないですから、あまり受けてくれないんですよね」
「受けてくれない……そっか。何もなければ全然儲からないんだね」
刺激を求めてというと少し違うかもだけど、何もないと退屈だけが報酬なわけだ。
気になる人は気になるだろうなと思ってしまう。
「おっと、後輩ということは新しいランクのあがった戦士ということですね。末永くご利用いただけると嬉しいです」
「先のことはわからないけどね。リングは結構通ってたの?」
「まあな。外となれば、エルデを毎回連れて行けるわけじゃねえ。それでも、必要な時は外に出た」
どんな時が外に出る必要があるときだったのかは、また今度聞くとして。
ここで受けられる仕事には、どんなものがあるんだろうか。
「なるほどね。じゃあどんな仕事があるのか、聞いてもいい? 一応、前は鉱山への物資輸送を手伝ったんだけど」
「まずはお名前を……セイヤ? ああ、あの。アデルさんの紹介状が届いてますよ、見込みありって」
「アイツ……気が早いというか、なんというか」
リングが、ここにいないアデルを見るように目を細めるのがわかる。
俺も、内心驚いている。
『ここは甘えておくべきだろうな』
(それは、そうだよね)
使えるものはなんでも使う、それは間違いじゃない。
だから、俺もこのチャンスは逃さない。
「アデル、人気があるんだね」
「ええ、それはもう。自分を買いなおし、それでもなおトップに君臨し続ける。それは憧れであり、目標であり……成功例としては最高ですよ。ともあれ、いくつか仕事はありますが、実質初めてにオススメなのは、こちら」
カウンターにあるパネルに映し出されたのは、探索の護衛という文言。
コロニーから出て、未開拓、未発見を探る集団の護衛というものだった。
(さっき、新発見は少ないって言ってたよね。ということは?)
『いや、案外なんとかなるぞ。俺がいるんだからな』
まずは慣らしからってことかな?と考えたけど、それはプレストンに否定される。
落ち込みかけた気持ちが、一気に上がってくるのを感じた。
そう、俺には実質、未来の知識があるのだ。
「わかった。受けるよ。日数が決まってるのも安心できる」
「お? よく気が付いたな。仕事の期限は、よく見ておくこった。ならついでだ。俺もそれを受けるか」
2人確保できたことがうれしいのか、事務員が笑顔になる。
さっそくとサインをしたところ、準備ができ次第すぐにということを告げられる。
相手は、ずっと護衛が集まるのを待っていたようだった。
「エルデたちに告げて、すぐに準備するぞ」
「うん。どっちかに移動して、2人一緒に過ごしてもらおうかなって思うんだけど」
「そいつはいいな。防犯としてもそのほうがいい」
話が決まれば、やることもはっきりする。
すぐにガレージに戻るのだった。




