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空を目指して走れ~地下ロボ闘技場でトップランカーを目指す俺の記録~  作者: ユーリアル


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MMW-065


 夜の時間、コロニーの照明も減らされた暗闇の時間。

 それはガレージでも変わらない。


 最低限の照明だけを残した暗闇に、俺は1人でいた。


「普段は何をしていますか、ね」


 運び込まれた2機のMMW。

 ランク4相当で使われるというフローレント。


 装甲は薄めだが、その分拡張性や出力上限は高いらしい。

 コアも、結構自由が利くとかどうとか。


 表面は、青と緑が混ざったような、独特の色。

 透明感がありつつ、起動するとその色も様々に変わるらしい。

 そんな機体を見上げつつ、先日のインタビューで1個だけ失敗だったかな?というシーンを思い出す。


 それは、日常のこと。


『買い物にもあまり出ないからな。出てる暇がなかったとも言うが』


「そうなんだよねえ。お嬢様が出歩いて何かあってもいけないし。最近はエルデのおかげでそこはマシだけどさ」


 俺のできること、それは強くなることだ。

 戦士として、少しでも強くなって生き残る。

 それが、俺自身とお嬢様のためになる。


 が、そこだけに注力しすぎていたようだと感じたわけだ。

 普段何をしていますか、と質問に、勉強と鍛錬と答えたときのお嬢様以外の反応は微妙だった。


「お前……いや、そんな気はしてたけどよ」


「気晴らしの1つでも、とは言えない感じだったのね……なるほど」


「私たち、覚えること、練習することばかりでしたもんねえ」


 と、散々な感じである。

 リッポフ商会の面々に至っては、あきれた感じだ。

 視線を向ければ、インタビューしてきた店員だろう1人の男が答えてくれた。


──普通は、買い物なり、遊ぶなりして英気を養うのだと


「あの場はごまかしたけど、うーん……?」


『実際、何かするにもなあ。このコロニーだと、すぐ危ない目にあいかねない』


 それが、一番の問題だと思う。

 たぶん、このコランダムコロニー以外も似たようなものだと思うけど。


 生まれたての戦士、ランク1の戦士というのは本当に様々だ。

 いい奴もいるけど、やばいやつはヤバイ。


 引き金の軽さを、わかってないのだ。


「どうしたもんかなあ……ん、端末に連絡。リングからだ」


 タブレットに届いたメッセージ、そこには翌日に遊びに行くぞとちょうどいい文面。

 了解の返事を返し、翌日に備えて寝ることに。



 そんな流れがあっての朝は、騒がしいものだった。


「よう! 疲れはもう取れたか!」


「リング、いきなりすぎよ。ああ、二人とも、おはよう」


「元気だねえ……」


「セイヤは少し元気がないですね。寝不足ですか?」


(いや、単純にリングの勢いに押されてるだけだよ、うん)


 そんなことを考えながら、大丈夫大丈夫とごまかし、改めて2人に向き合う。

 派手過ぎず、地味過ぎず。

 なんていうか、らしいなって思う服装である。


 そう、そこそこのランクだなってなぜか思わせる雰囲気だ。


『余裕が持てて、ランクを戻す必要も出てきたからじゃないか?』


(かな? 見習いたいなあ)


「リング、それでどこに?」


「おう。とりあえずは男女で違う。エルデ、任せた」


「もちろん。さあ、ソフィア。女は女の楽しみを教えてあげるわ」


 そう言って、え?え?と声を上げるお嬢様を引っ張って、エルデはさっさと出かけてしまった。

 驚いている間に、俺とリングだけになる。


 どういうこと?と視線を向ければ、笑み。


「心配すんなよ。俺たち男がいたら買えないもん、話せないことだってあらあな」


「そりゃ、そうだけど」


「それで納得しとけ。よし、行くぞ」


 どこに?と聞く前に、リングも俺を引っ張って動き出す。

 すぐに歩調を合わせ、向かう先は……繁華街。


 来たことのある場所じゃなく、もう少し高ランクが使うような区画だ。


 初めて来たというのに、視線を感じる。

 どうやら、先日のインタビュー兼宣伝は、かなり反響があったらしい。


 理由は、集まってきた視線の量と中身だ。


「引っ越しを断ったのは俺だけどさ。こんな感じなら引っ越したほうがよかったかな?」


「ま、ランクが早く上がるときはみんな同じだ。俺も昔は、お前みたいなやつに熱視線だったよ」


 そんな会話の後、ようやく目的が告げられる。

 要は、もっと外を見ろということだった。


「セイヤ、お前……わざと閉じこもってたろ」


「わかる? うーんと……俺たち以外も、みんなみんな、それぞれの人生を抱えている。もっと重い事情のやつだってきっといる。それを知ったらさ」


「戦えなくなるかも、か? 自分が勝つことで相手のそれが閉ざされたらって」


 若干違うが、おおむねそうだった。

 割り切る必要があるし、お嬢様なんかはすでにそうしてるのかもしれない。

 俺も、できたつもりで……できてないんじゃないかと。


 と、ベシっと頭を叩かれた。


「何すんのさ」


「考えすぎだ。金はみんなほしい。だからって全員に渡すのは不可能だ。自分の欲望は隠さずにぶつけて、強いほうが生き残る。それだけだ」


「そうかな?……でも、そっか。そうだよね」


 単純な答えだけど、真実なのかなと感じる。

 プレストンも黙ったままだし、彼にも異論はないのだろう。


「お嬢ちゃんもそうだけどよ、もっとガキらしくしててもいいんだ」


「でも俺は戦士だよ。お嬢様とは違う。親もいないし」


「……だとしても、だ。力を持ったんだからな。いつまでも何もないってわけじゃない」


 どこかさみしそうなリング。

 彼も、同じような戦士だったのだろうか?


 いつ死ぬかわからない、命がけの時間。

 明日がわからない中、戦う。


「難しい話はやめやめ。適当にぶらつくぞ。見てわかることもある」


「見てわかること……なんだか、人が違うよね。言い方悪いけど、こっちは人間って感じがする」


「そりゃあな、こっちにはランクが上がってからじゃないと用がない。そのせいだろう。あとは、外仕事に行っていて、人が単純に少ない」


 外仕事、一回だけアデルたちに付き合ってこなした依頼のようなことだ。

 あの時は、よくわからない機械が敵だった。


 俺じゃない俺の記憶によれば、無数のあいつらが敵なのだ。


 だから、俺は強くならないと。


「外仕事、したそうな顔をしてるな……よし、行く場所を決めた」


「どこに行くの?」


「決まってるだろ。外仕事のあっせん場だよ」


 そういうリングの顔は、戦士の顔だった。


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