MMW-060
試合終了の合図を聞いて、一気に力が抜ける。
機体を揺らす相手の攻撃たちに、久しぶりに死が見えた気がした。
なんなら、コックピット内にも変なにおいが充満しているような……。
「解放っと……ふぅ」
開いたコックピットからの風が、火照った体に気持ちいい。
と、そこで気が付いた。
風が、試合会場に吹いている。
「空調を全開にしてるのかな?……うわっ」
気になって外に顔を出すと、惨状が目に入った。
思った以上に、機体はぎりぎりだったのだ。
装甲全体にある弾痕、えぐれた装甲、ちぎれ落ちそうな手足。
なんなら、少し走ったら崩壊してしまいそうだ。
そんな中でも、狙い通りに背中側、メタルムコア2つの区画はほぼ無傷だった。
装甲の内側にあるメタルムコアも、無事だと思う、たぶん。
せっかく、この試合に備えて調整したのに……。
『後数秒続いてたら、わからなかったな』
「そうだね。コアの流用はできそうだけど、こりゃ買いなおしにお金かかるなあ……」
つぶやきながら、ようやく風の原因を見る。
思った通り、天井のあちこちにある筒のようなものから風の音。
今回は使われなかったけど、ガスでも武器になることがあるのだろうか?
(いや、MMWのコックピットは破損があるまで密閉されてるし、無いか)
そんな試合会場に、今はトラックが何台も走り回っている。
残骸の回収に加え、俺たちのような残ったMMWも順次積んでいるようだ。
コックピットから地面へと降り立ち、ため息1つ。
「この機体、運べるのかな……。コア部分だけは運んでほしいけど」
ちょっと動かすだけで倒れそうな愛機を見上げれば、やり切った感を感じるのは気のせいか。
実際、準備はしたといっても高ランクを見事に撃破できたのだ。
ぼろぼろだけど、生き残っての勝利、我ながら見事なものだ。
『そうだな、俺の経験でもまず上位になる快挙だよ。おっと、主催が来たぞ』
言われ、気配を感じて振り向けば1台のトラックからアデルが下りてきた。
試合直後だというのに、服装も乱れておらず、疲れた様子もない。
さすがトップランカーといったところだろうか。
「戦士セイヤ、生き残ったか。あまり心配はしていなかったが」
「ひっどいなあ……見ての通り、ぎりぎりだったよ」
からかうような声色に、こちらも明るく返す。
ぽんぽんと愛機の装甲を叩いたら、ぱらぱらと少し崩れてきたので慌てて離れる。
危ない、ここで事故で大けがなんてなったらお嬢様に泣かれてしまう。
「で、どうするか。今回の相手に何を要求するか、だが」
「え? たくさんのお金とランクアップが報酬じゃないの?」
「知らなかったか? いや、そういえば具体的に話していなかったか。ランク差があるこういった試合では、金銭以外の物もやり取りされるのだ。さすがに一発で身分の買いなおしまでは無理だが……」
アデルの説明に、思わず考え込む。
本当は、会場を後にしてから考えたほうがいいのかもしれない。
けれど……この時は今考えるほうがいいと感じた。
(もっとたくさんの金……いや、それなら回数を稼げばいい。となると……)
「うん。決めたよ。いうだけならただってやつでしょ?」
「ああ、そうなる。なにせ、今回は相手が負けると思っていなかったのか、設定されてないからな」
それはそれは、面白いことを聞いた。
どうやら、思った以上に相手は本気だったらしい。
その思惑は、見事に崩れ去ったわけだけど。
「じゃあ、俺が望むのは……」
「うむ……なるほど、なるほどな! グランデールの娘も、良い拾い物をしたものだ!」
告げた内容に、アデルは笑い声をあげる。
気に入ったと言わんばかりだ。
では戻ろうというので、ようやく停車したままのトラックに乗り込み、会場を後に。
「セイヤッ!」
「っと、大丈夫だよ、お嬢様。機体はぼろぼろになったけど」
抱き着いてきたソフィアお嬢様を受け止めつつ、リングやオックス、フェイスレスたちの無事も確認する。
全員、倒されていないのはわかってたけど、けががないかはわからなかったからね。
皆が皆、どこか楽しそうで、笑顔だ。
「見事な戦いであった。試合で当たることあらば、楽しもうぞ」
「ボクは遠慮したいかなー。仲間ってわけではないけど、ね。戦ったらただじゃすまなそうだ」
こちらとしても、2人と戦いたくはないなと感じている。
訓練の時に、散々やりあったからね、うん。
リングのほうは、別の意味で戦うことはないだろうけどね。
そのまま、2人はそれぞれのガレージへと帰っていった。
俺とリングは、試合の疲れがひどいので落ち着くまでは休憩しようとしていた。
エルデとお嬢様と一緒に、4人が静かに休んでいるところに、来客。
「セイヤ、喜べ。1つはすぐ通ったぞ」
「え、もう?」
やってきたアデルに思わずそう言ってしまうほど、早い回答だった。
今回、俺が要求したものの1つは、MMWを2機。
おそらく上がるランクである3を超えて、一気に4相当のものを要求したのだ。
その名はフローレント。かなり便利な機体らしい。
2機要求した理由は、予備機であり、武装を積み替えることなく乗り換えて使うためでもある。
今回壊れた機体のように、コアを1つずつ増設して使うのだ。
もちろん、預けてある青石でコアが完成したら、どちらかに乗せる予定。
「もう1つも、そう時間はかからんだろう」
「ならよかった。安心したよ」
本当に、いい知らせだ。
上手くいけば、気になっていたことがすっきりするかもしれない。
「よう、セイヤ。いったいどんなことを要求したんだ?」
「ちなみに私たちは、鉱山地帯での採掘権よ」
「ある意味、似たようなものかな。外の情報だよ。グランデール家が最後に戦っていた依頼現場のね」
俺の言葉に、お嬢様が息をのむのを感じる。
そんなお嬢様を見て、俺はしっかりと頷いたのだった。




